高額スワップで注目!トルコリラの現状と行方

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FX(外国為替保証金取引)には、金利の異なる通貨間で生じる金利差額を「スワップポイント」(スワップ、スワップ金利とも言う)と呼び、取引所によっては、決済をしないでスワップポイント(つまりお金)を受け取ることができます。そんなスワップポイントが高額だと長年注目されているのがトルコの通貨「トルコリラ」。毎日スワップポイントが積み重なっていく様を見るのは快感だが、何かと情報が少ないトルコは、一体どんな国で、どんな経済状況なのか。そしてトルコリラは今後どんな値動きを見せていくのか。総合的に見ていきます。

トルコは一体どんな国?なぜ親日家?

トルコの正式名称は「トルコ共和国」です。ヨーロッパとアジアの間に位置し、地中海や黒海に面しています。ヨーロッパのギリシャやブルガリア、ロシアに近い一方、イランやイラク、シリアとも接しているといます。

国有面積は約77.9万平方キロメートルで(日本のおおよそ2.07倍)、国民人口は約7,500万人(日本のおおよそ0.6倍)。公用語はトルコ語。イスタンブールが最大都市として有名ですが、首都はアンカラです。また国民の9割以上がイスラム教徒で、そして親日家が非常に多いです。トルコへ旅行に行って、カタコトの日本語を喋る売り子、日本人に優しくしてくれる方(詐欺師や泥棒はのぞく)に出会った方も多いのではないでしょうか。

諸説ありますが、1890年のエルトゥールル号遭難事件で、日本人が生き残ったオスマン帝国の人々(現在のトルコ人)を助け、さらに話を聞きつけた明治天皇が彼らを手厚くサポートして、日本の軍艦2隻で無事母国へ帰還させたという心温まるエピソードが、現在のトルコの人々に伝承されていることが、親日家たる由縁のようです。

街中にモスクがあり、欧米の日常と異なるエキゾチックな雰囲気を持っています。テロが収まって治安不安が改善されたこともあり、ヨーロッパからバカンスに出かける人も多いです。イスタンブールでヨーロッパ・アジア間を貫通する海底鉄道トンネル(マルマライ)が2013年に開通するなど、都市部で交通網が急速に発達していることも観光客増加につながっています。

日本との時差はおおよそ6時間。日本が19時の時、トルコは13時です。2016年9月、夏時間を通年で採用することを決めたため(物議をかもしながらも)、1年間ずっと6時間の時差となります。季節は春夏秋冬ありますが、中央アナトリアや地中海、イスタンブールなどそれぞれのエリアで寒暖差や雨季の有無が異なります。

経済面では、GDP(国内総生産)が約8500億アメリカドル。2018年6月に発表された経済成長率は、前年同期比7.4%とすこぶる好調です。ただし、肝心のトルコリラの値は月足チャートで見ると絶不調。その理由は後述していきます。

トルコリラの最大の魅力 スワップが高金利

FXトレードにおけるトルコリラの最大の魅力は、高額のスワップポイントです。トルコの政策金利は17.75%(7月10日現在)とすこぶる高く、ゼロ金利が当たり前になっている日本人にとって魅力的です。

例えばトルコリラ・円で売買をするとします。日本の政策金利は0.1%なので、トルコの政策金利との差は17.65%となります。例えば30万円使って(ある程度の余裕を持って)、レバレッジ10倍で1万通貨購入するとします。現在ですと、1万通貨で1日80円前後のスワップポイントを受け取ることが可能です(※受け取り額は、最新の金利や取引所の事情によります)。100万円を1年間預けて数十円から数百円しか得られない日本の銀行の普通預金に比べれば、それがいかに高金利なのかご理解頂けるのではないでしょうか。

ここまで言うと色々計算を始める方がいらっしゃるかと思います。仮に金利が一定で、スワップポイントが80円とすると、1ヶ月保有すれば80円×30日で2,400円。1年保有すれば……80円×365日で29,200円を得られる計算です。この目がくらむような高額のスワップポイントの長期保有を狙って、トルコリラへ投資する方も多いでしょう。

トルコは情報が少ない&通貨流動性が少ない

しかしトルコには、数々の問題点があります。

まず一つは、アメリカやEU諸国に比べて、経済ニュースが少ない、つまり情報量が少ないこと。その一番の問題は、日本人にあまりなじみのないトルコ語。マイナー言語であるトルコ語ができる経済専門家も少ないからだと言えるでしょう。ニュースが出てもすぐ詳細が分からず、日本人と知らぬ存ぜぬところでトルコリラの値が変動することも少なくありません。

テクニカル投資で入る場合は、ご自身のFX取引所に流れるニュースのみならず、日経新聞に代表される大手新聞社やBloombergなど海外系通信社のウェブニュースをよくチェックしましょう。紙媒体で流れるニュースは、ファンダメンタル投資を行う方にはオススメです。

また“少ない”つながりでもう一つ。新興国であるトルコは、通貨の流動性が少ないです。通貨の流動性が少ないというのは、アメリカや日本など経済大国に比べて、通貨の取引量が少なく、市場規模が小さいということです。

それが何を意味するのかと言いますと、トルコ経済に大きな影響をおよぼすことが起きると、売買の偏りが生じ、値動きが非常に荒くなることを意味します。ドル円などでは起こりえないような激しい乱高下が起きうるということです。そうしたリスクも考慮する(そして覚悟する)必要があります。

経済ボロボロ? トルコリラは最低値を更新中

今度はトルコリラの傾向や現状を見ていきます。

同通貨は、もちろんトルコの金融市場の動きに一番連動していると言えますが、主に夕方のロンドンタイムと夜のニューヨークタイムの開場時間に動きを見せることが多いです。そのため、タイミングを外した時間に激しい値動きを見せた場合は、大きな経済ニュース、重要人物のコメントが突然飛び出したか、あるいは機関投資家の仕掛けなどが考えられます。特に理由が全く分からない乱高下は、機関投資家の仕掛けの可能性がより高いので「その後どう値が戻っていくのか」に注意しましょう。

そんなトルコリラ・円は現在、22〜24円台を行き来しています(7月13日現在)。一時期は22円30銭と過去最低値をマーク。20円を切るのではないかと恐れられています。こうやって記事を書いている間にも、21円台に突入するかもしれません。

この値動き、週足チャートや月足チャートで見るとスゴいです。キレイに、悲しすぎるほどに右肩下がりです。2008年に92円台まで登りつめたましたが、2011〜2015年に50円台へ下降し、今や22〜24円台です。わずか10年という短期間で、とんでもなく下がっています。

2018年も悪いニュースが続いています。トルコの国内経済は、近年インフレ率が10%超えをマークし、2018年4月には11.40%となりました。その後も生産者物価指数や消費者物価指数が上昇の一途とたどっており、はっきり言って悪い傾向です。経済指標を見る際は、今述べたトルコ国内の消費者物価指数と生産者物価指数の他、トルコ中銀政策金利の発表に注目しましょう。

5月には、アメリカがイラン核合意離脱を発表し(さらにイランへの制裁を再開)、テロが収束して落ち着きを見せていた中東情勢の雲行きが再び怪しくなってきました。平行線をたどっていますが、イランは核合意が破綻となれば「核開発を再開する」と語っており、敵対するイスラエルはそのイランの核開発を阻止しようと軍事行動に出るつもりです。

トルコはといえば、イランと仲良くし、アメリカの制裁に対しては強く非難しています。もしもイランとイスラエルを軸とした戦争が始まれば、トルコは戦争に参加する可能性が高いです。おまけに経済大国であるアメリカとの関係を今以上に悪化させる可能性もあります。開戦となれば、トルコリラの下落につながるでしょう。

トルコリラの怖いところは、なんと言っても底が見えない点です。長年にわたって、常に過去最安値を更新しています。とにかく安定して下がり続け、終わりが見えません。スワップポイントを狙って長期保有する投資家を次々と刈り取っています。

クーデター未遂、娘婿の財務相就任……エルドアン大統領の独裁疑惑がトルコリラの下降を促す

トルコリラが絶不調の理由の一つは、トルコの第12代大統領であるレジェップ・タイイップ・エルドアン氏(以下、エルドアン氏)にあります。いえ、絶不調の根源とも言えるでしょう。

レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領

エルドアン氏は、2003年から首相を11年つとめ、2014年から大統領に就任しました。15年以上にわたってトルコ政治のトップに立っています。1954年2月生まれの64歳で、政治家としてはバリバリ働ける年齢です。

エルドアン氏が大変だったのは2016年。独裁色の強かったエルドアン氏は、軍部のクーデター未遂に見舞われ(滞在するホテルまで特定されて殺されかけた。さらに飛行機で逃亡中に反乱軍の2機のF-16に追いかけられるという恐怖体験を味わいました)、一時期は国家転覆の危機に陥りました。国内で混乱を招きましたが、間一髪で危機を逃れたエルドアン氏が事態を収束させました。

九死に一生を得たエルドアン氏が国内政治を引き締めるべく、政界の反乱分子を一掃して独裁姿勢を強めます。

過去の世界大戦で、ヨーロッパはアドルフ・ヒトラーという世紀の独裁者を生み出し、悪夢を味わっています。そのためヨーロッパを含めた世界の投資家は、独裁政権ではなく、健全な民主主義を好む傾向があり、独裁政権に対する目が非常に厳しいです。そのためエルドアン氏の独裁姿勢は、トルコリラのさらなる下落につながりました。

エルドアン氏は、クーデター首謀者の一人と見なされているイスラム説教師フェトフッラー・ギュレン氏がアメリカに亡命したことを受け、アメリカに引き渡しを要求。しかしアメリカは「明確な証拠がない」と主張して引き渡しを固辞しています。トルコ側(エルドアン氏)は「国家転覆を図った重罪人をかばうのか!」と怒り、お互いにビザの発給が停止されるなど関係が急速に冷え込み、トルコリラの下落を誘いました。

現在は、アメリカートルコ間で少しずつ対話を重ね、関係改善につとめていますが、それでも完全決着には至っていません。

さらに、エルドアン氏は総選挙のスケジュールを早め、6月24日に大統領選挙と議会選挙を実施。過半数の票を獲得して、再選しました。

ネガティブ材料となったのは閣僚人事です。7月9日、市場寄りの姿勢をとってきた(そして投資家たちの支持を受けた)シムシェク副首相を閣僚から外し、最も重要なポストである財務相に娘婿のアルバイラク前エネルギー天然資源相を指名。加えて首相のポストを廃止。エルドアン氏は閣僚の任命や公務員の解雇権を得たことで、さらにパワフルな権力をもつ大統領となりました。

こうした権力の増加、親族優先の行動が、第三者の目には独裁色を一層強める格好になったため、24円40銭台まで上がったトルコリラ・円窓は、22円台まで一時下降しました。

また、このエルドアン氏は、選挙前には「金利を下げる」と発言。高金利を期待する投資家の失望を受け、トルコリラの下落を招きました。しかし現在エルドアン氏の金利に関する言及はあまりありません。今度また金利を下げることに意欲を見せれば、さらなるトルコリラ安につながるでしょう。

2023年に注目?トルコにまつわるポジティブな噂とEU加盟の可能性

トルコについてまことしやかに言われているのが、2023年のローザンヌ条約に関する密約。トルコは地下資源(地理的に石油などが眠っている可能性が高い)の採掘を行なっていないのですが、その裏には1923年に取り交わしたローザンヌ条約に「地下資源を100年採掘しない」という密約があるのではないか、という噂が巷に広がっています。それが事実であるなら、5年後に迫った2023年、ローザンヌ条約で交わした約束が解消され、トルコは晴れて地下資源を採掘できるようになるわけです。

これは問答無用でポジティブニュースです。事実であるなら、100年も地下資源を溜め込んできたトルコが突如として地下資源保有国として名乗りを上げ、トルコ経済に大きく寄与します。また、国外の投資家からのウケも抜群でしょう。大幅にトルコ高になると見込まれます。一部メディアでは、2023年に向けて、トルコ国内で石油の採掘調査が行われている……という話も囁かれています。

ただし2023年にいきなりトルコ高になると言うより、1~2年前から、噂に期待する投資家たちが、徐々にトルコリラへ資金を投下し始めて上がると思われます。ただ、その頃には同密約の真相がハッキリしているはずなので、できるだけ確証を得たいところ。2020年の東京オリンピックが終わった後から、トルコリラの上昇に注目です。

もう一つの関心事は、EU加盟の可能性です。トルコは、自国をヨーロッパの国であると主張しており、サッカーで言うと1962年から欧州サッカー連盟(俗に言うUEFA)に加盟し、トルコ代表はUEFA欧州選手権(EURO)に参加しています。経済面でもヨーロッパ諸国と結びつきが強いです。

また、人権や武力行使等について約束を交わした1975年のヘルシンキ宣言(全欧安全保障協力会議)に署名しており、2005年からはEUへの加盟交渉が始まっています。ただし前述のとおり、エルドアン氏の独裁など様々な問題を抱え、正式加盟には至っていません。2018年現在も加盟申請中という扱いを受けています。

EUの旗。12の星は幸せや永遠を表現している。トルコが加盟する日はやってくるのか。

仮にトルコがEUに加盟した場合。これもまたポジティブニュースです。EU加盟によってトルコの国際価値が高まり、投資家へ大きなアピールとなります。仮に通貨がユーロに切り替わるとしても、トルコに一時的に資金が集中し、トルコリラが数円単位で値が上昇すると考えられます。

ですがトルコは、ヨーロッパにとって移民問題や中東問題の玄関口の役目を事実上果たしており、軍備は充実しています(トルコの治安が良いのは、言いかえれば軍事力が優れている証拠だと捉えることもできるでしょう)。平和を重んじるEUにとっては、判断が難しいところ。

またEU加盟にあたって、物価の安定や低い長期金利、為替相場の安定、低い財政赤字(そして政府債務残高が60%以下)などの条件が求められます。ですが現在のトルコをかんがみると、条件を満たしているとは言い難いです。

EUの一員と見なすには、あまりにも軍事色、エルドアン氏の独裁色が強く、経済の不安定さが目立ちます。今のところ、トルコのEU加盟は、道のりの遠い夢物語と言えます。

厳しい状況が続くも、明るい将来も感じられるトルコ。バクチ性も高いけれど、スワップポイントも魅力のトルコリラ。そんな2面性への対応が、同通貨のトレードの成否を握ることになりそうです。

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