出産時の健康保険からはどのような給付がある?出産育児一時金と出産手当金についてわかりやすく解説!

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会社員が出産のために産前産後の休暇を取得する場合、一般的には無給になってしまうことが多いようです。そのため、休暇の間の生活費や出産のための費用をどうすれば良いかと考えている人も多いでしょう。
そのような時に公的に保障してくれて、家庭の負担を軽減してくれるのが、健康保険の出産育児一時金出産手当金になります。今回は、出産育児一時金と出産手当金についてわかりやすく解説していきます。

出産時の健康保険からの給付について

Woman
健康保険からの出産時の給付には、出産育児一時金と出産手当金の2種類があるとのことですが、どのような違いがあるのでしょうか?
Expert
健康保険の出産時の出産育児一時金と出産手当金の違いを解説する前に、健康保険とはどのようなものかを見ていく必要があります。まずは、健康保険とは何かについて解説していきます。

国の医療保険

健康保険とは、会社員やその家族などが加入する国の医療保険のうちのひとつです。国の医療保険は4種類あり、以下の通りに分けられます。

健康保険

健康保険の適用事業所で働く会社員と、その会社員に扶養されている家族などが加入する保険です。

共済組合

公務員またはその公務員に扶養されている家族などが加入する保険です。

後期高齢者医療制度

75歳以上の人が加入する保険制度です。

国民健康保険

健康保険、共済組合、後期高齢者医療制度以外の個人事業主などが加入する保険です。
これらの国の医療保険のどれかに、すべての国民が加入しなければなりません。国の医療保険に入っているおかげで、病院などで受ける診察の費用が安くすみます。

健康保険とは?

健康保険は、4種類の国の医療保険のうち会社員などが加入する保険です。健康保険を運営する保険者は、協会けんぽや各企業の保険組合が行っています。
健康保険には、適用事業所で働く会社員だけでなく、その会社員のの親族などを扶養に入れることもできます。

健康保険の保険料

健康保険の保険料は、事業所や事業者と折半で支払います。さらに、40~64歳の人は介護保険料を健康保険に上乗せして支払う必要があります。また、健康保険の被扶養者は、保険料を支払う必要はありません。

健康保険の保険料の決定方法

健康保険の保険料は、被保険者ごとの報酬により決定される標準報酬月額によって決まります。基本的に標準報酬月額は、4月から6月までの3ヵ月間の平均給与を元に定時決定という方法で算出されます。

健康保険料の算出

毎月の健康保険料の算出方法は、標準報酬月額×健康保険の保険料率です。また、賞与の時の健康保険料は、標準賞与額×健康保険の保険料率で算出できます。
毎月の保険料も賞与の保険料も事業所や事業者と被保険者が折半します。そのため、上記の式で算出された保険料の2分の1の金額を被保険者が支払うことになります。

健康保険料の計算

実際に例を挙げて毎月の健康保険料がどのくらいの金額になるかを算出してみます。
例)東京都の会社に勤める31歳の会社員
報酬額4月:240,000円、5月:255,000円、6月:260,000円
標準報酬月額の算出
平均給与 240,000円×255,000円×260,000円÷3=255,000円
健康保険の標準報酬月額
260,000円
東京都の現在の健康保険の保険料率
9.9%
健康保険料
標準報酬月額260,000円×保険料率9.9%÷労使折半2=12,870円

健康保険の給付の種類

健康保険の給付には、今回の解説する出産育児一時金と出産手当金以外にもいろいろな給付があります。以下は健康保険の給付の種類になります。

被保険者に対する給付

  • 病気やけがをしたときの給付
療養の給付
被保険者が保険医療機関で病気やけがの療養を受けた場合に給付が行われます。
療養費
被保険者が保険医療機関で立て替え払いをした場合に給付が行われます。
高額療養費
被保険者が1件の療養に対して、1カ月に同一の医療機関に支払った額が限度額を超えた場合に給付が行われます。
合算高額療養費
1件の療養では高額療養費に満たなくても、同一世帯内で21,000円以上の自己負担が1カ月に2件以上あって費用を合算すると限度額を超える場合に給付が行われます。
高額介護合算療養費
被保険者が1年間で医療と介護にかかった自己負担額を合算したら限度額を超えた場合に給付が行われます。
訪問看護療養費
被保険者が訪問看護を受けた場合に給付が行われます。
入院時食事療養費
被保険者が入院して医療機関から食事の提供を受けた場合に給付が行われます。
入院時生活療養費
65歳以上の被保険者が療養病床に入院した場合に給付が行われます。
移送費
被保険者が歩くのが困難な場合に緊急に転院などをするときに給付が行われます。
  • 病気やけがで働けないときの給付
傷病手当金
被保険者が療養のために休業し無給の場合に給付が行われます。
  • 出産をしたときの給付
出産手当金
被保険者が産前産後の休業で無給の場合に給付が行われます。
出産育児一時金
被保険者が出産をしたときに1児につき42万円の給付が行われます。
  • 死亡したときの給付
埋葬料(費)
被保険者が死亡したときに原則5万円の給付が行われます。

被扶養者の給付一覧

  • 病気やけがをしたときの給付
家族療養費
被扶養者が保険医療機関で病気やけがの療養を受けた場合に給付が行われます。
療養費
被扶養者が保険医療機関で立て替え払いをした場合に給付が行われます。
高額療養費
被扶養者が1年間で医療と介護にかかった自己負担額を合算したら限度額を超えた場合に給付が行われます。
合算高額療養費
1件の療養では高額療養費に満たなくても、同一世帯内で21,000円以上の自己負担が1カ月に2件以上あって費用を合算すると限度額を超える場合に給付が行われます。
高額介護合算療養費
被扶養者が1年間で医療と介護にかかった自己負担額を合算したら限度額を超えた場合に給付が行われます。
訪問看護療養費
被扶養者が訪問看護を受けた場合に給付が行われます。
入院時食事療養費
被扶養者が入院して医療機関から食事の提供を受けた場合に給付が行われます。
入院時生活療養費
65歳以上の被扶養者が療養病床に入院した場合に給付が行われます。
家族移送費
被扶養者が歩くのが困難な場合に緊急に転院などをするときに給付が行われます。
  • 出産をしたときの給付
家族出産育児一時金
被扶養者が出産をしたときに1児につき42万円の給付が行われます。
  • 死亡したときの給付
家族埋葬料
被扶養者が死亡したときに給付が行われます。

出産育児一時金とは?

このように、出産時の健康保険からの給付は、出産費用を公的に保障してもらえる出産育児一時金と産休の間の生活を安定させるために支給される出産手当金の2種類があります。ここでは、出産育児一時金について解説していきます。

出産費用

出産時にかかる医療費は地域や出産する病院などによっても異なってきますが、一般的に自然分娩で30万円~70万円くらいの費用負担になります。また、出産時の医療費は、健康保険の適用外です。
そのため、基本的には30万円~70万円くらいの費用を、全額自分で負担しなければなりません。

出産育児一時金とは?

出産育児一時金とは保険の適用外である出産時にかかる医療費を、健康保険から支給される制度です。このことにより、家計の負担を軽減することができます。
出産育児一時金の受給対象者は、会社に勤務している健康保険の被保険者です。他にも、健康保険の被扶養も家族出産育児一時金という形で支給されます。
また、自営業者などの国民健康保険に加入している人も、各自治体から支給されます。

出産育児一時金の支給対象者

以下の条件を満たす場合、出産育児一時金の支給対象者になります。
  • 妊娠4か月(85日)以上で出産した健康保険の被保険者または被扶養者、国民健康保険の被保険者

妊娠4か月(85日)以上の出産とは?

妊娠4ヵ月以上であれば、早産での出産や帝王切開での出産、胎児が死産や流産の場合でも支給対象となります。また、人工妊娠中絶の場合でも支給対象です。

出産育児一時金の支給条件

一児につき42万円(双子であれば84万円)が支給されます。ただし、妊娠22週未満での出産または、産科医療補償制度に未加入の医療機関での出産した場合の支給額は40万4000円です。

出産育児一時金の受取方法

出産育児一時金は、出産後2年間以内に申請する必要があります。また、出産育児一時金の受け取り方法として、ほとんどの場合直接支払制度が採用されています。

直接支払制度

正常分娩の場合は健康保険の適用外のため、以前は出産時に医療機関の窓口に出産費用を支払ってから健康保険組合へ出産育児一時金を請求するという手順でした。しかし、現在では直接支払制度が導入されたため、ほとんどの場合出産育児一時金の額を上限に健康保険組合から支払機関を経由して医療機関へ出産費用を直接支払われています。
そのため、医療機関の窓口での支払いが、出産育児一時金の額を超えた金額だけで済むようになりました。

出産費貸付制度について

出産育児一時金が支給されるのは、出産した後になります。しかし、出産の前に出産に要する費用が必要である場合があるかもしれません。
そんな時に役立つのは、健康保険が行っている出産費貸付制度です。出産費貸付制度は、健康保険ごとによって異なる部分がありますので、ここでは協会けんぽの出産費貸付制度について解説していきます。

出産費貸付制度の対象者

協会けんぽの出産費貸付制度の対象者は以下になります。
  • 健康保険の被保険者、または被扶養者で、出産育児一時金の支給が見込まれる人
  • 上記の対象者で且つ以下のどちらかの条件を満たすこと
  • 出産予定日まで1ヶ月以内であること
  • 妊娠4ヶ月(85日)以上経過している人で、病院や産院などに一時的な支払いを要すること

出産費貸付制度の貸付額

協会けんぽの出産費貸付制度の貸付金額は1万円単位とし、貸付限度額は出産育児一時金の支給見込額の8割までです。

申込方法

協会けんぽの出産時貸付制度の申し込みは、以下の書類を記載、添付のうえ全国健康保険協会各支部に提出します。
  • 出産費貸付金借用書
  • 被保険者証または受給資格者票等(提示の場合は原本、郵送の場合は写し)
  • 出産育児一時金支給申請書
  • 出産予定日あるいは妊娠4ヶ月(85日)以上であることが確認できる書類
  • 医療機関等が発行した出産費用の請求書等(出産予定日まで1ヶ月以内の場合は不要)

返済の方法

協会けんぽの出産時貸付制度の返済は、貸付申込時に申請した出産育児一時金の給付金の支払いを返済金に充当します。残額については、金融機関への振込です。

 

出産手当金とは?

会社などに勤務している健康保険の被保険者が産前や産後の休暇を取得する場合は、ほとんどの会社でその間の給料はでないと思われます。この間の無給の期間の生活の不安を取り除き助けるために、健康保険では出産手当金という制度があります。
ここでは、出産手当金について解説していきます。

産前産後休業とは?

産前産後休業とは、労働基準法65条に基づいて規定されている休業期間のことをいいます。具体的には、出産前の6週間(双子などの多胎妊娠は14週間)と出産後8週間が休業期間として認められています。
産前の休業期間については、実際に出産する日がわからないため自然分娩の予定日から42日間を数えます。産前の休業期間は本人が休業を求めた場合に休業することができ、求めなければ出産ぎりぎりまで働くこともできます。
一方、産後の休業期間は、出産後56日間のことをいいます。産後の休業期間については、例え被保険者本人が働く意思表示をしたとしても、会社側は休業させなければならないのだす。
ただし、産後6週間を経過した場合は、医師が働くことに問題がないと認めた業務であれば働くことができます。

出産手当金の受給対象者

健康保険の被保険者であること

会社員や公務員などの健康保険の被保険者であることが条件です。健康保険の被扶養者や国民健康保険の加入者は対象者として認められていません。健康保険の被保険者であれば、雇用形態は関係なくアルバイトやパートであっても受給対象です。

出産手当金の受給条件

妊娠4ヶ月(85日)以降の出産であること

出産手当金を受給するには、妊娠4ヵ月を経過した出産であることが必須です。妊娠4ヵ月を経過した出産であれば、例え早産、死産、流産、人工中絶であっても受給されます。

出産のために休業していて無給であること

出産のために休業していることはもちろんのこと、休業している日に給料がでていないことが条件になります。そのため、有給休暇の場合は給料がでているため、基本的には受給できません。
ただし、有給休暇中に支給されている給料の金額が、出産手当金の金額より少ない場合は差額が支給されます。

退職者の場合は以下の3つの要件をすべて満たしていること

退職日からさかのぼって、継続して1年以上健康保険に加入していること
退職する前に1年以上継続して勤務している必要があります。勤務期間が1年未満の退職には、支給されません。
退職日が出産手当金の支給期間内の日であること
退職日が出産予定日の6週間前から出産後7週間までの間にあることが求められます。
退職日に勤務していないこと
退職日に産前産後の休業などで労働していないことが支給の条件になります。

出産手当金のメリット

健康保険の出産手当金は、被保険者にとってとてもメリットがある制度です。また、被保険者だけでなく会社にとってもメリットがあるのです。ここでは、健康保険の出産手当金にはどのようなメリットがあるかについて解説していきます。

被保険者の産前産後の休業中の経済面が軽減されること。

出産手当金が支給されている期間は、被保険者の健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などが免除されます。また、被保険者が出産手当金が支給されている期間は、会社が半分負担している健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料も免除されます。

出産手当金の額

出産手当金の1日あたりの支給額は以下の計算式で表すことができます。
支給開始日の以前12カ月間の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3
以下に例を挙げて実際に計算をしてみます。
支給開始日の以前12カ月間の標準報酬月額の平均が30万円の被保険者が、産前休業で42日間、産後休業で56日間休業した場合。
まずは、以下の式で1日当たりの出産手当金の金額を計算します。
30万円(12カ月間の標準報酬月額の平均)÷30日(1ヶ月)×2/3=6,666円
次に休業した日の98日間の出産手当金の金額を計算します。
6,666円(1日当たりの出産手当金の金額)×98日(休業した日)=653,268円
この例の場合は、653,268円の出産手当金が支給されることになります。

まとめ

このように、健康保険では被保険者の出産に対する給付として、出産育児一時金と出産手当金を支給しています。また、健康保険の被扶養者に対しては家族出産育児一時金を支給しています。
このことにより、出産する被保険者や被扶養者が安心して出産できるように生活の補填を行っているのです。

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