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雇用保険には、基本手当以外にも20種類以上の給付の種類があります。これらの給付は、失業している人でなければもらうことが出来ないものだけでなく、会社に勤めている人でも受給することが出来る手当もあります。
今回は、基本給付以外にどのような給付があるのか?そして、それらの給付を受給するために必要な要件や手続き、受給までの流れなどを詳しく解説していきます。
1.基本手当以外の主な雇用保険の手当の種類
基本手当以外の主な雇用保険の給付として「雇用促進給付」「教育訓練給付」「雇用継続給付」があります。それぞれの給付の特徴は、以下の通りです。
①雇用促進給付
・就業促進手当
・移転費
・求職活動支援費
②教育訓練給付
・一般教育訓練給付
・専門実践教育訓練給付
・教育訓練支援給付金
③雇用継続給付
・高年齢雇用継続基本給付
・高年齢再就職給付金
・育児休業給付金
・介護休業給付金
④職業訓練受講給付金
2.雇用促進給付
雇用促進給付とは、上記で説明したように「就職促進給付」「移転費」「就職活動支援費」の3種類の給付に区分され、いずれの給付についても、失業給付を受給している期間内で早期の再就職を目指して活動している人に対して支給される給付です。
就職促進給付
①再就職手当
再就職手当は、基本手当を受給している者が一定の要件を満たしたうえで、安定した職業に就職が決まった場合に支給されますが、安定した職業に就職をした日前3年以内に再就職手当等を受給していると支給されません。
【支給要件】
- 所定給付日数の3分の1以上残していること
- 1年を超え引き続き雇用されることが確実な職業についたこと
- 過去3年以内の就職について「再就職手当」、「常用就職支度手当」の支給を受けたことがないこと
【支給額】
- 支給残日数が所定給付日数の3分の2以上の場合 基本手当日額×支給残日数×7/10
- 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上3分の2未満の場合 基本手当日額×支給残日数×6/10
【必要な手続き】
安定した職業についた日の翌日から1か月以内に以下の書類を管轄の職業安定所に提出しなければなりません。
- 再就職手当申請書
- 再就職先が離職前の事業主でないことを証明する書類(前職の事業主の事業所に関連性がないことを、再就職先が証明する書面)
- タイムカード等の勤務実績が証明できるもののコピー
- 登記事項証明書等(開業をした場合)
- 受給資格者証
②就業手当
就業手当は、基本手当を受給している者が再就職手当の受給要件を満たさない就業形態での就職をした場合に、就職の前日までの失業の認定を受けたうえで、じゅきゅうすることができます。つまり、単発のアルバイトやパートなどを失業の認定を受けている期間中に行った場合に、基本手当の代わりに受給することになる手当といえます。
【支給要件】
所定給付日数の3分の1以上、かつ、45日以上残していること
【支給額】
各就労日について、基本手当日額×3/10相当額が支給されます。
【必要な手続き】
失業の認定を受ける日に以下の書類を管轄の職業安定所に提出しなければなりません。
- 就業手当支給申請書
- 給与に関する明細等(就業の事実を証明できる書類)
- 労働契約に関する契約書等(期間・所定労働時間を証明できる書類):労働契約期間が7日以上となる場合のみ
- 受給資格者証
③常用就職支度手当
常用就職支度手当は、就職困難者(身体障害者など)や45歳以上の受給資格者、40歳未満で同一の事業主に一定期間継続して雇用されたことのない者の常用就職を促進するために行われる給付です。
【支給要件】
- 所定給付日数の1日以上残していること
- 1年を超え引き続き雇用されることが確実な職業についたこと(パートタイムを除きます)
- 過去3年以内の就職について「再就職手当」、「常用就職支度手当」の支給を受けたことがないこと
【支給額】
- 支給残日数が90日以上の場合 90日×基本手当日額×4/10
- 支給残日数が45日以上90日未満の場合 支給残日数×基本手当日額×4/10
- 支給残日数が45日未満の場合 45日×基本手当日額×4/10
【必要な手続き】
安定した職業についた日の翌日から1か月以内に以下の書類を管轄の職業安定所に提出しなければなりません。
- 常用就職支度手当支給申請書
- 再就職先が離職前の事業主でないことを証明する書類(前職の事業主の事業所に関連性がないことを、再就職先が証明する書面)
- タイムカード等の勤務実績が証明できるもののコピー
- 受給資格者証
移転費
移転費は、「鉄道賃」「船賃」「車賃」「移転料」「着後手当」の5種類の区分に分かれます。
①鉄道賃・船賃・車賃
移転費の支給を受けることが出来る者及びその者に随伴する家族に対して、その現住所から移転すべき新住所までの距離を順路によって計算され雅楽が支給されます。
②移転料
移転する距離によって料金が決まっており、単身で又は独身者が移転をする場合は、移転料の1/2が支給されます。
③着後手当
着後手当は、移転直後の宿泊費その他移転に伴って生じる諸費用を賄うために移転費の受給要件に該当する者がについて、全国一律で定額が支給されますが、独身者や単身で移転する場合は半額となります。
④移転費の受給手続き
移転日の翌日から起算して1か月以内に以下の書類を管轄のハローワークへ提出しなければなりません。
- 移転費支給申請書
- 受給資格者証
⑤返還しなければならない場合
以下のいずれかに該当する場合は、支給された移転費を返還しなければなりません。
- 紹介された職業に就かなかった場合
- 指示された公共職業訓練等を受けなかったとき
- 移転しなかったとき
求職活動支援費
①広域求職活動費
広域求職活動費は、受給資格者等がハローワークの紹介によって、管轄の区域以外における求職活動(これを「広域」)を行い、住居所に帰ってくる場合に支給されます。
【受給要件】
以下の要件をすべて満たしている必要があります。
- 待期期間、離職理由・紹介拒否等による給付制限期間の期間が経過した後に広域活動をしていること
- 広域求職活動に要する費用が訪問先の事業所のい事業主から支給されないこと、またはその支給額が広域求職活動費の額に満たないこと
【受給手続】
広域求職活動の紹介を受けた日の翌日から起算して10日以内に「広域求職活動支給申請書」を管轄のハローワークの長に提出しなければなりません。
【返還しなければならない場合】
ハローワークの紹介した広域求職活動の全部または一部を行わなかった場合
②短期訓練受講費
短期訓練受講費は、ハローワークの職業指導により、再就職の促進を図るために必要な職業に関する教育訓練を受け、その短期訓練(1か月以内)を修了した場合において、教育訓練給付金の受給を受けていない場合で、公共職業安定所長が必要と認めた場合に支給(上限10万円)されます。
③求職活動関係役務利用費
求職者が求人者との面接等をしたり、教育訓練を受講するため、その求職者の子供に関するサービス(保育など)などを利用する場合にサービス利用料の80%相当額が支給されます。
3.教育訓練給付金
教育訓練給付金は、大きく「一般教育訓練給付金」・「専門実践教育訓練給付金」・「教育訓練支援給付金」に分かれており、現時点で仕事を辞めていない人であっても受給することが出来るものもあります。
一般教育訓練給付金
【受給要件】
以下のすべての要件を満たしている必要があります。
- 受講開始日現在において、雇用保険の被保険者期間が3年以上(初回の場合は1年以上)あること
- 前回の教育訓練給付金を受給した時から受講開始日までに3年以上経過していること
- 厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し修了した場合
【支給額】
教育訓練施設に支払った教育訓練経費×20% (ただし、4,000円未満の場合は支給されません)
【受給手続】
教育訓練終了日の翌日から起算して1か月以内に以下の書類を住居所を管轄する公共職業安定所長に提出しなければなりません。
- 教育訓練給付金支給申請書
- 教育訓練修了証明書
- 自分で支払った受講費用の額の証明書(領収証など)
- 運転免許証、住民票の写し、または、印鑑証明書等(コピーは不可) ※なお、郵送の場合は住民票の写し、または、印鑑証明書のいずれか
- 雇用保険被保険者証等(コピーも可)
専門実践教育訓練給付金
【受給要件】
以下のすべてを満たしていなければなりません
- 受講開始日現在で雇用保険の被保険者で当た期間が10年以上(初回の場合は「2年」)であること
- 前回の専門実践教育訓練給付金を受給から今回の受講開始前までに10年以上経過していること等
【支給額】
教育訓練施設に支払った費用の50%相当額(年間42万円、最大で126万円が上限)
なお、専門実践教育訓練の受講を修了した後、あらかじめ定められた資格等を取得し、受講修了日の翌日から1年以内に一般被保険者として雇用された者、または、すでに雇用されている者である場合は、上記金額にさらに20%分が追加支給されます。(上限額は、訓練期間が3年の場合は168万円、2年の場合は112万円、1年の場合は56万円となります。)
【受給手続】
教育訓練終了日の翌日から起算して1か月以内に以下の書類を住居所を管轄する公共職業安定所長に提出しなければなりません。
- 教育訓練給付金支給申請書
- 教育訓練修了証明書
- 自分で支払った受講費用の額の証明書(領収証など)
- 運転免許証、住民票の写し、または、印鑑証明書等(コピーは不可) ※なお、郵送の場合は住民票の写し、または、印鑑証明書のいずれか
- 雇用保険被保険者証等(コピーも可)
教育訓練支援給付金
教育訓練支援給付金とは。初めて専門実践教育訓練(通信制・夜間制を除く)を受講する者で、受講開始時に一定の要件を満たした者について、教育訓練期間中、失業状態にある場合に支給されます。
【受給要件】
以下のすべての要件を満たしていることが必要です
- 基本手当の支給条件を満たしていないこと
- 45歳未満であること
- 失業状態にあること
【支給額】
賃金日額×50%(2023年3月31日までは「80%」)×2月分の失業認定日数
4.60歳以上の者がもらうことが出来る給付
60歳以上の者がもらうことが出来る給付は、60歳未満の者がもらうことが出来る雇用保険の給付とは内容が異なります。なお、60歳以上の者がもらうことが出来る給付は、原則として「65歳に達する日の前日」までにもらわなければ、受給権が消滅してしまうので注意が必要です。
また、給付によっては、老齢年金を受給している場合に支給額の調整が行われることがありますので、これについても解説していきます。
高年齢雇用基本継続給付金
【受給要件】
雇用保険の適用事業所の事業主に60歳を超えて継続して雇用される被保険者の賃金の額が、以下のいずれかの日を離職した日とみなして算定した賃金日額(「みなし賃金」といいます。以下同じ。)に30を乗じて得た額の75/100を下回ること
- 被保険者期間が5年以上ある被保険者が60歳に到達した月
- 被保険者が60歳に達した日後に被保険者期間が5年となったとき
【支給額】
高年齢雇用継続基本給付金は、一支給対象月について、その支給対象月に支払われた賃金の額がいくらかによって、以下のようになります。
- 支払われた賃金の額が、みなし賃金日額に30を乗じて得た額の61/100相当額未満であるとき 15/100
- 支払われた賃金の額が、みなし賃金日額に30を乗じて得た額の61/100相当額以上75/100相当額未満であるとき 15/100から一定割合で逓減するように厚生労働省令で定める率(ただし、支給額と賃金の額との合計額が支給限度額を超えるときは、「支給限度額ー賃金の額」が支給されます)
- 支払われた賃金の額が、みなし賃金日額に30を乗じて得た額の75/100以上のとき 支給されません
賃金の額が「支給限度額以上」「支給額が1976円以下」であるときは、支給されません。
【受給手続】
支給対象月の初月から起算して4か月以内に、以下の書類をその事業所を管轄する公共職業安定所長に提出しなければなりません。
- 高年齢雇用継続基本給付受給資格確認票
- (初回)高年齢雇用継続基本給付支給申請書
- 雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書(事業主が交付します)
- 労働者名簿
- 賃金台帳等(年齢、雇用の事実、賃金支払い状況、賃金の額を証明できる書類)
高年齢再就職給付金
【受給要件】
以下のすべての要件を満たした人が高年齢再就職給付金を受給することができます。
- 被保険者期間が5年以上であること
- 60歳到達日以降に安定した職業につき被保険者になった場合に、再就職後の支給対象月に支払われたみなし賃金月額の75/100相当額を下回るに至ったとき
- 就職日の前日における支給残日数が100日以上であること
- 再就職手当を受給していないこと
【支給額】
高年齢再就職給付金は、一支給対象月について、その支給対象月に支払われた賃金の額がいくらかによって、以下のようになります。
- 支払われた賃金の額が、みなし賃金日額に30を乗じて得た額の61/100相当額未満であるとき 15/100
- 支払われた賃金の額が、みなし賃金日額に30を乗じて得た額の61/100相当額以上75/100相当額未満であるとき 15/100から一定割合で逓減するように厚生労働省令で定める率(ただし、支給額と賃金の額との合計額が支給限度額を超えるときは、「支給限度額ー賃金の額」が支給されます)
- 支払われた賃金の額が、みなし賃金日額に30を乗じて得た額の75/100以上のとき 支給されません
賃金の額が「支給限度額以上」「支給額が1976円以下」であるときは、支給されません。
【受給手続】
支給対象月の初月から起算して4か月以内に、以下の書類をその事業所を管轄する公共職業安定所長に提出しなければなりません。
- 高年齢雇用継続給付受給資格確認票
- (初回)高年齢雇用継続基本給付支給申請書
- 雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書(事業主が交付します)
- 労働者名簿
- 賃金台帳等(年齢、雇用の事実、賃金支払い状況、賃金の額を証明できる書類
5.まとめ
雇用保険は失業をした人に対する所得補償する「失業保険」といわれていますが、それ以外にも様々な保障があります。離職者が次の職場へ早期就職を目指す人に向けてのサポートをするという大きな目的も併せ持っている公的保障です。
雇用保険には20種類以上の給付がありますが、実際にはそのうちの約3分の1ほどの給付の内容を知っているが、それ以外の給付については、名前を聞いたことがあっても実際にどのような内容なのか、そして、どのような書類を準備をしなければならないのかなど、説明を聞いただけではわかりにくい内容も多々あります。
さらに、他の給付との調整が行われたりするなど、雇用保険の給付の中でも、要件によっては複数の給付を受給することが出来ることがあります。こういった内容をしっかり把握したうえで、賢く給付をもらえるように、事前の準備をしっかりしておくことが、望ましいといえます。