変わりつつあるアクティビスト(物言う株主)と株主総会

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アクティビスト(物言う株主)の役割が変わってきています。アクティビストとはどのような存在なのか、そして企業価値にどのような影響を与えているのかを解説します。

アクティビストとは

アクティビストは、「物言う株主」としても知られています。アクティビストファンドの投資対象は主に上場企業です。企業の株式を大量に取得した上で、投資先の企業価値を向上させるために経営改革などを働きかけます。

そして、株価が上昇した段階で手放し利ざやを稼ぐのです。企業統治の仕組みでは、株主は受け身の姿勢にならざるを得ないのですが、アクティビストは活動する投資家で、積極的に経営に関与しようとします。

アクティビストファンドは、イベント・ドリブン型のヘッジファンドの一種に分類されます。イベント・ドリブンとは、M&A・分社化・経営破綻・事業再編などのイベントを利用して収益を得る手法で、こうしたイベントが起こると株価は激しく動くので、その上昇や下落を収益機会として狙います。

世界的な金余りを背景にアクティビストの活動が活発になってきていますが、日本では2000年代の村上ファンドの攻撃的な印象からアクティビストに対する警戒感は未だに根強い状態です。当時のアクティビストは「ハゲタカ」と呼ばれていました。

アクティビストはヘッジファンドの一種ですが、通常のヘッジファンドの株式保有比率は、せいぜい10%。アクティビストは数パーセントから20%前後まで保有します。さらにバイアウトファンドや企業再生ファンドにおいては株式の50%以上を保有し、経営権を取得することを目指します。

バイアウトファンドや企業再生ファンドは、買収合併の当事者となり、経営権を取得した上で企業価値を高めて売却します。一方、アクティビストファンドはイベントを利用するにすすぎません。

ターゲットの企業の業績が低迷し、株価が下がったとしても、空売りなどの手法を使って収益を狙います。

アクティビストの手法

アクティビストが投資対象にするのは、比較的豊富なキャッシュを持っていながら株価が割安な企業です。増配や自社株買いなど株主還元策のほか、事業のリストラまで要求するケースも目立っています。

株価を一定水準まで上げた時点で打って収益を得るのが目的なので、投資期間は1~2年半程度が一般的です。 バイアウトファンドが企業の50%以上の株式を取得し、経営権を握るのに対し、アクティビストファンドは、せいぜい数パーセントから20%程度の株式を取得するだけです。

株主の権利を活用し、株主還元策として配当金を増額させたり、自社株買いを迫ったりします。そして、株価が上昇したら売り抜けるのです。アクティビストファンドは、あくまでも利ざやの獲得が目的です。そのために、様々な戦略や戦術を駆使します。

アクティビストの提案には、会社側の経営を改善するものもありますが、中長期的な利益を損なうケースもあります。アクティビストとはせいぜい数年の期間での利益を考えているので、要求をそのままのむと経営は短期主義に陥ってしまいます。企業価値の創造ではなく、価値の破壊との批判も出ているのです。

アクティビストは、高い利回りの実現が要求される

一般的に、ヘッジファンドアクティビストファンドは、バイアウトファンドベンチャーキャピタルよりも高い利回りが要求されます。そのぶん、企業に対しても粗っぽくなるケースもあるのです。米国では主に以下のような要求をします。

 

  • 株主名簿や帳簿の閲覧
  • ポイズンビルの解除

ポイズンビルは、買収防衛策の一つです。既存の株主に新株予約権を発行することで、アクティビストなど会社が好ましくないと思っている相手に自社の株式を割ることを防ぐことを言います。

  • 株主総会の委任状の争奪戦(プロキシーファイト)
  • 株価低迷の責任追及
  • 役員報酬への反対

 

このように様々な手法で株主やマスコミに働きかけ、経営陣に圧力をかけることで株価をつり上げます。

もちろん、これらの提案により年金基金などが株主となることで、経営の透明度やコンプライアンス、コーポレートガバナンスなどが格段に向上することもあります。しかし、基本的にアクティビストは短期的な収益を狙っています。

アクティビストが上図のような手口を実行した場合、グリーンメーラーと大した違いはなくなります。グリーンメーラーとは、経営に参画する意思がないのに経営陣に揺さぶりをかけ、短期的な利ざやを稼ぐ業者のことです。

アクティビストファンドには、グリーンメーラーという非難がつきまといます。しかし、ファンドの収益を上げるため、株価が低迷している状況では、何らかの形でテコ入れをしたくなるのも当然かもしれません。

その背景には、アクティビストファンドの成功報酬もあります。一般的なファンドマネージャー(運用責任者)に対する報酬は、収益の20%といわれています。また、投資ファンドの場合、ファンドマネージャーは投資家から預かった資金に自分のお金を加えるのが通常です。

ファンドの損失が出れば、自分のお金も減るわけですから、高い収益を目指すというインセンティブも当然だといえます。

変わる株主総会

日本では物言う株主と言うと、悪いイメージで捉えられてきました。古くは総会屋です。総会屋は株主総会出席のためだけに少数の株式を持ち、株主総会で発言して議事を混乱させたりします。

総会屋を取り仕切る総会屋もいて、何も企業に金銭をせびるのが目的です。しかし、アクティビストは株主として正当な議決権を盾に、株主総会だけではなく、年中経営陣に圧力をかけてきます。

経営者の中には、総会屋よりもアクティビストの方が始末悪いと考える人もいるのです。

2000年代は海外のヘッジファンドの介入が激しくなり、日本の経営者の対応は二つにわかりました。攻撃的なアクティビストに対して過度に反応し、企業の敵として全面対決するか、アクティブレストの言う通りに増配してファンドに利益をもたらすかです。

最近は年金基金など他の機関投資家の支持も味方につけて影響力を強めており、経営の主導権をめぐる攻防は激しさを増しています。仮に経営陣と対立した場合は、株主総会での多数決で議案を決めます。

これがプロキシーファイト(委任争奪戦)です。投資先を新聞などのメディアに公開し、一般の個人投資家を巻き込んで株価を吊り上げる劇場型のアクティビストも存在します。仕手株のような値動きになり、株価が急騰することがあります。

2019年に入ると、ソニーや東芝オリンパスなどを取り巻くアクティビストの圧力を意識し、三菱地所や森永乳業などは買収防衛策廃止を約束しました。株主総会でのトラブルを未然に防ごうとした日本企業は過去最大の46社となり、2018年の2倍以上の数になります。

アクティビストに対する、日本企業の向き合い方が変わったとされているのがオリンパスです。2019年6月の株主総会で、アメリカのアクティビストファンドであるバリューアクトキャピタルから取締役を受け入れます。

グローバルの競争力を上げるという点で、バリューアクトキャピタルとオリンパスの戦略が一致し、戦略的に手を組む形をとったのです。オリンパスは会計の不祥事を起こしていたので、外部の力を取り入れ、改革を進める狙いもあります。

ただ、このような友好的な例ばかりではありません。JR九州に対して、アクティビストファンドであるアメリカのファーツリー・パートナーズが自社株買いなどを求める株主提案をしています。 JR九州はこの提案を受け入れないと反対しています。

アクティビストには、2つの側面があります。1つ目は短期的な利益を追求し、長期的な企業価値を破壊しかねないという点。一方で、企業の財務体質を変え、長期的な事業戦略を提案しながら中長期の企業価値を高める役割を果たすという点です。

アクティビストの役割の変化

2000年代の日本で最も活躍したアクティブファンドがスティール・パートナーズです。日清食品やサッポロホールディングス、アデランスなどの経営陣との激しい戦いで名を馳せました。

しかし、ブルドッグが買収防衛策によってスティール・パートナーズの撃退に成功しました。2007年にスティール・パートナーズから敵対的公開買付けを受けたブルドッグは、スティールの株式保有割合を低下させる買収防衛策を発動しました。

東京高等裁判所は、スティール・パートナーズを「利益を追求する存在」、「濫用的買収者」と認定し、ブルドッグによる買収防衛策を合法と認めました。

裁判所は、当時の日本企業が持つアクティビストへの警戒や疑念を代弁した形になりましたが、アクティビストは自己の利益だけを追求する存在なのでしょうか。

アクティビストの第二波

ひとくくりにアクティビストと言っても、現在の手法は多様化しています。以前のように現預金を抱え込んでいる企業に株主還元として株主還元策として上肺野自社株買いを求めるだけでなく、経営への深い関与を狙うアクティビストも増えてきました。

かつては株式を買い占めて経営陣に圧力をかける動きが目立ちましたが、最近では株主の保有は小数で、他の株主に賛同を呼びかけるケースが増えています。

オリンパスと手を結んだバリューアクトは、2013年ごろからのアクティビストの第二波の代表と呼ばれています。アメリカではマイクロソフト社に役員を送り込み、クラウド事業にシフトさせるなど戦略面で貢献したといわれています。

2000年代の第一波のアクティビストは、スティール・パートナーズや村上ファンドに代表されるように、持ち合い株や現金・不動産など採算事業を持つ会社を狙っていました。

しかし、近年のアクティビストは単なる株主還元要求だけではなく、企業戦略や事業内容に踏み込む場合が多くなっています。企業側もアクティビストの要求をのみ、自発的に経営改革に取り組む例が欧米では多くなっています。

近年、アクティビストが活発になってきたのには2つの理由があります。

1つは、海外のアクティビストファンドが日本企業に照準を当ててきたことです。米国では金余りを背景にアクティビストファンドが巨額の資金を手に入れています。しかし、米国企業はもともと株主重視の姿勢が強く、増配や自社株買いに積極的で、なかなか隙を見せなくなってきています。

そこで、米国以外の企業で稼ごうと、日本へ資金を振り向けてきたのです。2000年代前半はアクティビストファンドが盛んに日本企業を狙っていたものの、2008年のリーマンショック後はその動きも沈静化していました。それが、最近また盛んになってきたのです。

2つ目は日本側の変化です。とくに機関投資家の意識が変わってきています。次の章で具体的に見ていきます。

変わる機関投資家

日本でも企業統治改革が進む中で、機関投資家向けの行動指針である「スチュワードシップコード」が設けられました。 スチュワードシップコードとは、簡単に言うと人から預かった資産を、責任を持って管理運用することです。

かつての国内機関投資家の多くは、会社に何も文句を言わない株主とされてきました。しかし、金融機関による投資先企業の経営監視など企業統治(コーポレートガバナンス)での取り組みが不十分であったことが、リーマンショックによる金融危機を深刻化させたとの反省に立ち、イギリスで2010年に金融機関を中心とした機関投資家のあるべき姿を規定したのです。

スチュワードシップコードでは、機関投資家が中長期的に企業価値を高めるよう投資先企業と対話しながら、積極的に行動するように要請されています。

2017年からは、株主総会の各議案についてどう賛否したかを開示するように求められるようになりました。

もしアクティビストの主張が、中長期的に企業の価値を高めると考えられれば、会社側が反対でも、機関投資家など他の株主にも賛同が広がる可能性が出てきたのです。

米国では機関投資家がアクティビストを支持するようになり、長期的な企業価値が上がっている上々企業が増えてきています。悪いイメージのアクティビストが、会社や株主のために良い提案をするようになってきているのです。

米国では、年金や保険・投資信託など機関投資家にある株式所有比率が増加しています。現在では約70%の株式が機関投資家に所有されているのです。これは特に年金資金が増えていることが原因です。

機関投資家は、幅広い銘柄に分散投資をするのが通常です。特定の会社の経営に不満があったとしても、全体のバランスを考えると株式を売却できなくなってしまったのです。

特に、株価指数に連動するインデックス型の運用では、企業業績にかかわらず銘柄を組み入れます。 ファンドマネージャーが個別銘柄を選定するアクティブ運用であっても、数百銘柄を保有するので、企業調査を丹念に行い、個別企業の経営方針に反対する意見を提案することまではできないというのが現状です。

これに対し、アクティビストは少数の会社に集中投資をするため、個別企業の分析を徹底的に行います。 上場会社の事業内容や経営戦略を通じた人材を抱え、場合によっては、業界に詳しい経営者をヘッドハンティングします。

最近のアクティビストの提案は、このような調査をして、企業価値の改善を通じて株価の上昇を狙っています。以前のように無理な要求を経営陣に押し付けるようなことはしなくなってきているのです。アクティビストの提案に対しても、経営者は簡単に反対できないような内容になってきています。

米国企業では時価総額が大きいため、アクティビストが数百億円単位で株式を購入しても改善要求が通ることは難しくなってきています。そのため、機関投資家の賛同が必要なのです。

機関投資家が納得するような提案を、アクティビストも行わなければならなくなってきているのです。

このように、最近ではアクティビストが機関投資家にも賛同されるような内容の提案をするようになりましたが、会社が経営方針を変更することによって企業価値は上がったのでしょうか。

米国では、アクティビストの活動が、長期的な企業の業績を低下させる根拠はないと発表しています。アクティビストの活動により、株価や企業業績に良い結果を与えることがあっても、悪い結果をもたらすことはないという結論になりました。

敵対から協調へと時代は変わってきているのです。

まとめ

以前は短期的な収益のみを目指す「グリーンメーラー」とも揶揄されていたアクティビストですが、近年では企業価値の向上をもたらす存在として注目されるようになってきました。背景にあるのは、機関投資家の変化です。大量の株式を保有する機関投資家は、これまで個別企業に対して、経営改善や役員の交代を迫ることはほとんどありませんでした。

しかし、スチュワードシップコードにより、株主総会での態度も公開しなければならず、これまでのように何もしないということはできなくなりました。そこで、アクティビストの提案がまともなものであれば、機関投資家も大株主として賛同するようになったのです。

アクティビストと企業は、敵対から協調の時代へと変わってきています。今後もこの傾向は続くのではないかと考えます。

 

 

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