節税の最初の一歩!所得区分を正しく理解して、賢く節税を進める方法とは?

SHARE

節税を考えたときに、どこに注目すればよろしいでしょう?「支出となる経費を少しでも増やすべきか?」「非課税になる制度を最大限活用すること。」などの方法が考えられますが、具体的にはどのような点に注意するべきなのでしょうか。

今回は、所得税の節税対策を考えていく上で、各種所得の計算の流れをしっかりと確認したうえで、節税対策をするうえで気をつけなければならないポイントとはどこなのかについて解説していきます。

1.節税対策を考える上で気をつけなければならないこと

最初に、節税対策を考える上で気をつけなければならないポイントについて見ていきます。

一言に節税といっても、その方法はさまざまありますが、その中で注意すべきこととしては、法に触れるような節税対策(いわゆる脱税)はしてはいけないということです。

当たり前の事だと思いますが、意外と違法行為になってしまうケースがあるような節税対策を行っていることも多く、税務署から指摘されて、追徴課税を課されるといったことも実際にあったりもします。

そのため、各種所得の計算の流れを理解することが節税対策の第一歩になるとも言えるわけです。

具体的には、売上の過少計上により事業所得を過少計上することや経費の水増しといった明らかな脱税行為や、競馬などで発生した収益は課税対象となる(平成29年に最高裁判決により、一時所得として計上することになりました。)事を知らずにそのままにしていたため、税務署から申告漏れを指摘されるといった事が考えられます。


2.10種類の所得区分の課税方法

所得税を計算する流れの最初の一歩となるのが、10種類に分かれている各種所得金額の計算です。それぞれの所得金額の計算においては、非課税になる項目があったり、他の所得金額とは区分して税率を乗じて算出する方法を採用する者など様々ありますので、それぞれの所得の計算の仕方や流れを把握することが、節税への第一歩となります。

(ア)利子所得

利子所得とは、預貯金及び公社債の利子並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る所得等がこれに該当します。(【参照】国税庁 タックスアンサーNO1310 「利息を受け取ったとき」

【利子所得の金額】

利子所得は源泉徴収等をされる前の金額がそのまま利子所得の金額となります。

【非課税とされる利子】

  • 納税貯蓄組合預金の利子
  • 納税準備預金の利子(目的以外で引き出された場合に発生したものについては課税対象となります)
  • 子供銀行の預貯金等の利子

(イ)配当所得

配当所得は、株主や出資者が法人から受ける剰余金や、利益の配当、剰余金の分配、投資法人からの金銭の分配又は投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託以外のもの)及び特定受益証券発行信託の収益の分配などに係る所得をいいます。(【参照】国税庁 タックスアンサーNO1330 「配当金を受け取ったとき」

配当所得は、原則として他の所得とが合算されて所得金額が算定される「総合課税」による方法で課税が行われますが、配当等の種類によって、申告分離課税や申告不要にすることができるものもあります。

【配当所得の課税方法】

・非上場株式等による配当収入の場合

原則として、総合課税として他の所得と合算されて所得税額の計算が行われます。

・上場株式等による配当収入の場合

原則として、総合課税として課税されますが、一定の場合については、確定申告不要を選択するか、申告分離課税制度を選択することで確定申告を行うことができます。

【確定申告不要を選択するための要件】

・上場株式等の配当収入であること

・非上場株式等の配当であって、1回あたりに受け取る配当金額が以下の計算式の金額以下であること

10万円 × 配当計算期間の月数(1月未満の場合は1月とみなします) ÷ 12

(ウ)不動産所得

不動産所得は、次の1から3までの所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除きます。)をいいます。(【参照】国税庁 タックスアンサーNO1370 「不動産収入を受け取ったとき」

  1. 土地や建物などの不動産の貸付け
  2. 地上権など不動産の上に存する権利の設定及び貸付け
  3. 船舶や航空機の貸付け

不動産所得の課税方法は総合課税によって行われます。

(エ)事業所得

事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。(【参照】国税庁 タックスアンサーNO1350 「事業所得の課税の仕組み」

事業所得の金額は、「総収入金額-必要経費」によって算出されます。なお、青色申告事業者の届け出を行った事業主については、さらに、10万円(一定の要件を満たした場合については65万円)を控除することができます。

(オ)給与所得

給与所得とは、勤務先等から支給された給与や賞与などのように、労務の対価として支給された所得を言います。

給与所得の課税方法は、総合課税によって課税が行われます。

(カ)退職所得

退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当などの所得をいい、社会保険制度などにより退職に基因して支給される一時金、適格退職年金契約に基づいて生命保険会社又は信託会社から受ける退職一時金なども退職所得とみなされます。
また、労働基準法第20条の規定により支払われる解雇予告手当や賃金の支払の確保等に関する法律第7条の規定により退職した労働者が弁済を受ける未払賃金も退職所得に該当します。(【参照】国税庁 タックスアンサーNO1420 「退職金を受け取ったた時」

退職所得の課税方法は、他の所得とは合算されずに独自に税額が計算される方式をとっています。

(キ)山林所得

山林所得とは、山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡することによって生ずる所得をいいます。ただし、山林を取得してから5年以内に伐採又は譲渡した場合は、山林所得ではなく事業所得か雑所得になります。
また、山林を山ごと譲渡する場合の土地の部分は、譲渡所得になります。(【参照】国税庁 タックスアンサーNO1480 「山林所得」

山林所得は、他の所得と合算せずに課税所得金額を計算します。

(ク)譲渡所得

譲渡所得は、建物・土地などの固定資産やゴルフ会員権などを売却したことで発生した所得に対して課税が行われ、自動車や機械等の動産を譲渡した場合と建物や土地などの不動産を譲渡した場合とで、課税所得金額の計算の区分を分離して行います。

動産を譲渡した場合の所得については、他の所得と合算して計算される総合課税であるのに対して、土地や建物などの不動産を譲渡した場合の所得については、他の所得と合算をしないで計算されます。

(ケ)一時所得

一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得をいいます。(【参照】国税庁 タックスアンサーNO1490 「一時所得」

一時所得は他の所得と合算されて課税金額が計算される総合課税の所得となります。

【一時所得に含まれる所得とは】

  • 生命保険の解約返戻金や損害保険の満期返戻金
  • 競馬などの払戻金
  • 遺失物拾得者や埋蔵物発見者の受ける報労金等

競馬や競輪などのギャンブルによる払戻金の収入は、過去に最高裁まで争われた結果、一時所得として所得に含めなければならないとされました。

(コ)雑所得

雑所得とは、他の9種類の所得のいずれにも当たらない所得をいい、公的年金等、非営業用貸金の利子(友人等に貸し付けた金銭に対する利子など)、著述家や作家以外の人が受ける原稿料や印税、講演料や放送謝金などが該当します。(【参照】国税庁 タックスアンサーNO1500 「雑所得」

雑所得の計算は、公的年金等に関する収入それ以外の所得に関する収入とに区分して計算します。そして、それぞれの所得金額を合算した金額を雑所得の金額として計上して、他の所得と合算した課税所得金額に税率を乗じるという流れとなります。

3.具体的な所得金額の計算の流れ

具体的な所得金額の計算の流れの中で注意してほしいポイントについて、国税庁のタックスアンサーなどでも挙げられている内容を踏まえながら説明していきます。

(ア)利子所得

原則として、その支払を受ける際、利子所得の金額に一律15.315%(他に地方税5%)の税率を乗じて算出した所得税・復興特別所得税が源泉徴収され、これにより納税が完結する源泉分離課税の対象となり、確定申告をすることはできません。(【参照】国税庁 タックスアンサーNO1310 「利息を受け取ったとき」

つまり、利息を受け取った段階で、源泉徴収されることで納税されたとするため、改めて確定申告によって納税手続きをする必要のない(これを「源泉分離課税」と言います。)制度となっています。

(イ)配当所得

総合課税を選択した場合(非上場株式等の配当や上場株式等で総合課税を選択した場合)は以下の計算式によって算出された金額が、他の所得金額と合算されて、課税所得金額となります。(配当控除の適用を受けられます)

なお、申告分離課税を選択している場合については、平成26年1月1日以後に支払を受けるべき上場株式等の配当等については、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の税率が適用されます。(配当控除の適用は受けられません)

【配当所得の金額】

源泉徴収を控除する前の配当等の収入金額 ー 株式等の取得のために要した借入金の利子

(ウ)不動産所得

不動産所得の金額は、収入金額から必要経費を控除することで算出されます。なお、不動産所得の金額が計算上、赤字になった場合は、他の所得の金額と相殺することできます。(これを「損益通算」といいます)

【不動産所得の金額】

総収入金額 ー 必要経費 ー 青色申告特別控除(10万円 or 65万円)(注)

(注)不動産所得の金額の計算上、全額控除をした場合は適用されません。つまり、全体で10万円又は65万円の控除が認められるもので、各所得金額ごとに計上できるものではないということです。

(総収入金額に含まれるもの)

  1. 土地や建物などの不動産の賃貸収入
  2. 借地権などの土地上に存する権利収入
  3. 敷金などのうち、返還を要しないもの 等

(必要経費に算入できるもの)

  1. 不動産の取得に要した費用
  2. その不動産にかかる固定資産税
  3. その不動産の減価償却費 など

なお、不動産所得に損失が発生した場合については、他の所得金額と相殺することが認められています。(これを「損益通算」といいます。)この損益通算は、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4種類の所得金額について損失が発生した場合に、その年度の所得金額と損益通算をすることが認められています。

(エ)事業所得

事業所得の金額は、不動産所得と同様に以下の計算式で算出されます。

【事業所得の金額】

総収入金額 ー 必要経費 ー 青色申告特別控除額(10万円 or 65万円

【総収入金額に含まれるもの】

  • その事業で発生した売上高
  • 金銭以外の権利等による収入
  • 仕入れ割引やリベートなど

【必要経費に含まれるもの】

その収入を得るために発生した売上原価、販売費、一般管理費、従業員の給与等が必要経費として計上することが認められています。

家族がその事業主の事業に従事している場合(事業専従者と言います)に、その事業専従者に関する費用について、必要経費として計上することが認められています。なお、青色申告者であるか白色申告者であるかのどちらであるかによって、必要経費として算入することができる金額が異なります。

(青色申告者の場合)

所定の要件を満たした青色事業者について、その親族等が事業専従者として従事している場合については、労務の対価として適正な金額については必要経費として算入することが認められます。(算入できる金額に上限がありません。)

(白色申告者の場合)

事業専従者として従事している親族というに対して支出した金額のうち、最大で50万円(配偶者の場合は86万円)まで、必要経費に算入することが認められます。

(オ)給与所得

給与所得の金額の計算は、収入金額ー給与所得控除額によって算出されます。

【収入金額に含まれるもの】

給与所得の収入金額は、会社等から支払われる賃金や賞与のほかにも、現物給付されたものやそれの付随する経済的価値についても含まれます。

【給与所得控除額の金額】

給与所得控除額は、給与所得の収入金額に応じて金額が変わります。

給与所得の収入金額 給与所得控除額の計算式
1,800,000円以下 収入金額×40%
(655,000円に満たない場合には655,000円)
1,800,000円超 3,600,000円以下 収入金額×30%+180,000円
3,600,000円超 6,600,000円以下 収入金額×20%+540,000円
6,600,000円超 10,000,000円以下 収入金額×10%+1,200,000円
10,000,000円超 2,200,000円(上限)

(カ)退職所得

退職所得の金額の計算は、(収入金額ー退職所得控除額)×1/2によって算出されます。

【退職所得の収入金額に含まれるもの】

会社の規定などにより支給される退職手当が主な収入金額となります。

【退職所得控除額の金額】

退職所得控除額は、勤続期間に応じて計算式が変わります。なお、勤続年数については1年未満の期間は1年に切り上げて計算をします。

勤続年数 退職所得控除額の金額
20年以下 40万円×勤続年数
20年超 800万円(40万円×20年)+70万円×(勤続年数ー20年)

(キ)山林所得

山林所得の金額は、他の所得に金額の計算とは異なり5分5乗方式により計算を行います。

山林所得の課税所得金額は総収入金額ー必要経費ー特別控除額(50万円)で算定され、算定された課税所得金額について、次に述べる5分5乗方式で税額を算定することになります。

【5分5乗方式とは?】

山林所得の計算式は「(課税山林所得金額×1/5×税率)×5」です。このように、課税所得金額を5で除した金額(5分)に対して税率を乗じて、その乗じた金額に5を乗じて(5乗)納付税額を算定する方式を5分5乗方式と言います。

(ク)譲渡所得

譲渡所得の金額の計算は、総収入金額ー(取得費+譲渡費用)-特別控除(総合課税される資産を譲渡した場合のみ)で算定されます。

なお、機械等の動産を譲渡した場合は、50万円の特別控除額の適用はありますが、土地や建物等の固定資産を譲渡した場合については、特別控除額は控除できません。

また、譲渡した土地や建物などの不動産の保有期間が(その年の1月1日時点において)5年を超えるかどうかで税率が異なる点にも注意が必要です。

  • 短期(その年の1月1日時点で保有期間が5年以下である場合)譲渡所得金額:30%
  • 長期(その年の1月1日時点で保有期間が5年超である場合)譲渡所得金額:15%

(ケ)一時所得

一時所得の金額の計算は、{総収入金額ーその収入を得るために支出した金額ー特別控除額(最大50万円)}×1/2で算定されます。

一時所得は退職所得と同様に、所得金額を計算する際に必要経費等を控除した金額に1/2をするという特徴があります。

(コ)雑所得

雑所得の金額の計算は、公的年金等の収入に関する項目と、それ以外の項目とで分けて所得金額が計算されます。

【公的年金等】

公的年金等の所得金額の計算式は、以下の表を参照にして「公的年金等の収入金額×割合ー公的年金等控除額」によって計算します。なお、年齢や公的年金等の収入額(年額)によって計算内容が異なります。

(65歳未満の者)

公的年金等の収入額 割合 公的年金等控除額
700,000円以下 100% 700,000円
700,000円超1,300,000円未満 100% 700,000円
1,300,000円以上4,100,000円未満 75% 375,000円
4,100,000円以上7,700,000円未満 85% 785,000円
7,700,000以上 95% 1,555,000円

(65歳以上の者)

公的年金等の収入額 割合 公的年金等控除額
1,200,000円以下 100% 1,200,000円
1,200,000円超3,300,000円未満 100% 1,200,000円
3,300,000円以上4,100,000円未満 75% 375,000円
4,100,000円以上7,700,000円未満 85% 785,000円
7,700,000以上 95% 1,555,000円


4.まとめ

所得税の節税を考えるうえで、どの所得に区分されるのかという部分についても重要な要素ですが、区分ごとに課税所得金額の計算の仕方が異なるため、複数の所得区分に含まれる可能性のあるものであれば、できる限り課税金額が少ない区分に入れて計算することが望ましいです。

10種類の所得区分ごとに、計算の仕方や課税方法などが異なるところも多く、正しい区分に分けて計算しなければ、税務署から指摘されたり、追徴課税といった思わぬペナルティが課されることも考えられます。

今回の所得区分ごとの課税方法や計算の流れを把握して、より節税効果が高い方法を考えていくことが大切になりますが、過剰にやりすぎて法令違反にならないように注意することお忘れないようにしてください。

コメントを残す