家、アパート、土地などを相続した際には、不動産の名義変更が必要になります。不動産の所有者が変わることを法的に手続きしなければなりません。
このように相続によって、不動産の名義変更を申請することを相続登記といいます。
相続登記は、法務局の登記所にて申請手続きを行いますが、相続登記をする際には財産分与や不動産活用、さらには節税対策にも大きく役立つ分筆登記を検討する人もいるでしょう。
分筆登記とは、1つの不動産を分割して登記する方法ですが、手続きは自分でもできるのでしょうか。どのように手続きすればいいのでしょうか。
今回は、相続登記をする上で1つの選択肢となる分筆登記の手続き方法や申請の流れを解説していきます。
相続登記とは
分筆登記を相続時に検討するにあたって、まずは相続登記とは何なのかを確認しておきましょう。
相続登記は不動産を相続した際に名義変更する手続きのことをいい、名義変更を法的に行い不動産の所有者が変更したことを証明する手続きとなります。
相続登記はどのように行う?
不動産の相続登記は、法務局の不動産登記所にて名義変更申請を行いますが、事前に必要な書類を収集、作成しておかなければなりません。
相続登記の流れ
相続登記の流れは大まかに、
- 物件の調査をする
- 戸籍謄本、住民票など相続人の本人確認書類を用意する
- 不動産の資産評価を証明する書類を用意する
- 書類作成する(相続人が複数の場合は遺産分割協議書が必要)
- 登記申請書を作成する(ひな型がネットで検索できます)
- 法務局へ申請する
申請する法務局は不動産の住所による
相続登記を行う法務局はどこでもいいわけではなく、原則としてそれぞれの法務局で管轄エリアが決まっています。
不動産の住所に応じて、申請する法務局を確認しておく必要があります。
※法務局の公式サイトにて、管轄の法務局を調べることができます。
法務局・管轄のご案内http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/kankatsu_index.html
相続登記の期限は?
実は、そもそも相続登記には期限が定められていないため、ともすると相続登記をせずに放置している人も結構いるようです。
相続登記は期限がないために、分筆登記を行うにはちょうどいい機会となります。
いずれにしても、登記を行う際には書類をそろえたり作成したりと手間がかかります。であれば相続登記を行う際に分筆登記をすれば、時間や手間、費用の削減につながります。効率よく分筆登記を進めることができます。
※相続登記に関する詳しい記事が以下からご覧になれます。
分筆登記とは
すでに分筆登記が気になっている人は、いろいろと情報を得ているでしょうが、ここで、分筆登記について改めて解説しておきたいと思います。
分筆登記は、
1つの土地を2つ(複数)に分割して登記する方法のことをいいます。
建物や土地に対して1つの登記がされていることを一筆といいます。
分筆登記の活用方法
分筆登記は、基本的には1人の名義人にて土地を分割して登記を行います。
一旦、分筆登記さえ行っておけば、
- 財産分与が可能→親族・兄弟など複数人による登記が可能となる
- 土地の一部を担保にできる→土地の全部が対象にならないので安心
- 土地の一部の売却が可能→土地全部を売りたくない時に便利
- 土地の一部を不動産活用→賃貸、土地活用がしやすくなる
- 節税効果がある→土地の評価額を分割によって調整できる
- 相続の手続きがしやすくなる→遺産として複数人に残せる
など・・・
分筆登記をしておくと様々な場面にて役に立つのです。
分筆登記の注意点
分筆登記は上記のように、メリットが大きい登記方法になりますが、注意しておくことがいくつかあります。
分筆登記の注意点は、
- 分筆した土地の要件によっては建物が建てられない
- 土地を分割することで不動産の評価が下がる可能性がある
- 分筆で必ず節税できるわけではない
- 分筆の手続きに費用と手間がかかる
- 効率のいい分筆方法が素人にわかりづらい
- 分筆を行う前には境界線の設定が必要
- 境界線の設定は専門業者でないと難しい
など・・・
将来的に建物を建てたい、あるいは売却する計画があるなどの場合は、建築基準法も考慮して土地を分割する必要があります。

分筆登記の手続き方法
分筆登記を行うにあたって、まずは土地に境界線を設定することが最初に必要になります。
- 境界線の設定
- 分筆登記
- 相続登記
という流れで分筆登記、相続登記を進めていきます。
境界線が設定されていないと、土地の分割、分筆登記を申請することができません。
境界線とは
土地の境界線とは、どこからどこまでが、その人の土地なのかを明確にするために定められています。
実際に地上に線が引いてあるわけではありませんが、すべての土地にはこの境界線が設定されてあるのです。
境界線が変わると番地が変わる
この境界線が設定されてあるため、隣にある他人の土地と自分の土地を区別することができるのです。境界線によって分けられた土地には、それぞれ番地がつけられています。
例えば、福岡県中央区薬院56 という住所があったとします。これを分筆登記にて3つの土地に分割するとします。
すると住所は福岡県中央区薬院56-1、薬院56-2、薬院56-3、というように3つの住所が存在することになるのです。
この3つの住所は、境界線によって分割されることになります。つまり、境界線がないと土地を分割して登記することができないのです。
境界線の設定は専門業者に依頼
境界線を設定するのは、一般的に土地家屋調査士または測量士になります。素人では知識的・設備的な面で非常に難しく、自分1人でこなしていくのは限界があります。
建築関係の方などで専門的な知識や測量の設備が工面できる方は例外ですが、境界線の設定はそれぞれの意向に合わせて、専門家と一緒に進めていく方が間違えがありません。
境界線のシュミレーションが欠かせない
実際に境界線を設定するにあたっては、それぞれの使途に応じて、何通りかのシュミレーションをしておくことが大切です。
いくつかの分割方法の中から、最も効率的な方法を選ぶようにしましょう。
名義変更しなくとも土地の分割はできる
分筆登記の手続きは、法定相続人あるいは法的に相続することが証明できれば、被相続人名義のまま分筆を進めることができます。
例えば父・祖父の土地を相続したとします。相続した時点では、法的にはまだその不動産の所有者は父・祖父の被相続人のままです。
本来は時期をみて相続登記を行い、名義人の変更をするのですが、相続登記を申請していなくとも土地の分割を行うことができます。
相続人が複数人の場合
相続人が複数人の場合は、すべての相続人の了承がなければ分筆登記を行うことはできません。
この際に注意するのは、1つの登記簿に複数人の所有者が記載されてある場合です。この場合は、単に1つの不動産を複数人で共有しているだけであって、土地が法的に分割されているわけではないということです。
分筆登記申請までの流れ
それでは、実際に分筆登記を申請までの流れを見ていきましょう。
まず大まかな流れは以下のようになります。
- 土地の境界確定測量を行う
- 地積更生登記を行う(必要であれば)
- 境界線を設置する
- 図面・境界確認書の作成
それぞれの段階を具体的に解説いたします。
①境界確定測量を行う
境界確定測量とは、先でもご説明した土地の境界線をどのように設置するのかを決めていく業務になり、測量士や家屋調査士によって行われます。
境界確定測量を行うためには、まず現地調査が必要です。
現地調査
境界線を設置するために、その土地及び周辺を調査しながら、本人の立ち合いのもとで可能となる分割方法を模索していきます。
現地調査の際には、市区町村の立ち合いが必要な場合もあります。
現地調査に必要な資料
現地調査で必要な資料は、
登記簿、地図・公図、地積測量図、道路台帳図、隣地との境界画定図、区画整理区図
など法務局や役所から資料を入手します。
②地積更生登記を行う
改めて測量した時に、登記簿に記録されている情報と実際の土地の情報が異なる場合には、土地地積更生登記をする必要があります。
地積更生登記が必要なケース
地積更生登記が必要となるのは、
- 測量した面積と登記面積、境界線などが異なる
- 土地売買や融資の条件などで実測面積の登記が必要
などが考えられます。
③境界線を設置する
どのような形状に土地を分割していくかは、測量法によって規定が定められているため、それぞれの意向・目的に応じて可能な分割方法をいくつか比較検討していくことが大切です。
実際に適用したい境界線が決まったら、境界線を設置します。
分筆、境界線の例
境界線の引き方は、それこそ数えきれないパターンを検討することができますが、参考までに例を挙げておきたいと思います。
基本的に、道路からの距離が遠ければ遠いほど、土地の評価は低くなります。→これは路線価にて確認することができます。
この原理を分筆にて活用していくことできるのです。
分筆例1

出典:登記費用.com 参考リンク
単純に2等分に土地を分ける方法です。道路がどの部分に位置しているか、路線価の数値によって分割した土地の評価がそれぞれ異なります。これを節税対策に利用することが可能です。
分筆例2

出典:登記費用.com 参考リンク
建物の位置、売却したい土地の場所、土地活用したい場所などによって、上記のように分筆することもできます。
分筆例3
原則として、道路に間口がない土地には建物を建てることができません。その場合、15-1のように1部分のみを道路に隣接させる方法があります。
境界線の設置例
境界線はコンクリートや木の杭を土地に打ち込んで設置していきます。

出典:小山土地家屋調査士事務所 参考リンク
④図面・境界確認書の作成
境界線の設置における最後の業務は、図面・境界確認書を作成することです。
隣接地の所有者とともに書類を作成し、お互いに署名・捺印をします。この確認書類があることで、分筆登記の申請が行えるというわけです。
分筆登記の申請までの流れ、つまり境界線の設置から確認書類の作成までを専門業者に依頼することになります。
業者を探す
それぞれの地域にて、まずは土地の測量に関して無料見積り・無料相談ができる業者を探してみましょう。
いくつか無料相談を重ねてみて、要望に合った業者を比較検討して選ぶことが大切です。相談するうちに測量に関する知識もつきますし、最適な分割方法を見つけるヒントを得ることもできます。
概ねの費用相場
業者に境界線の設置を依頼する費用は、その土地の種類や面積にもよりますが、概ねのところで25万円~45万円ぐらいです。
測量の内容によっては20万円以下でできる場合もあれば、80万円以上かかる場合もあります。
分筆登記申請後の流れ
土地に境界線が設置できて、境界確認書が準備できたら、いよいよ分筆登記の申請を行います。
分筆登記の申請から、申請後の流れは、
- 必要書類を準備する
- 分筆登記申請を行う
- 分筆登記が完了したら相続登記を申請する
といった内容になります。
それぞれの過程を詳しく解説いたします。
①必要書類を準備する
分筆登記に必要な書類は、
- 登記申請書
- 境界確認書
- 地積測量図
- 図面
になります。
※登記申請書のダウンロードや申請のガイドラインはこちらから。
②分筆登記を申請する
書類が準備できたら、法務局にて分筆登記を申請します。
申請後は受け付け順に処理をしますので、その時の込み具合によってかかる日数が異なります。数日で完了する場合もあれば、2,3週間要する場合もあります。
分筆登記が完了すると登記完了証が発行される
分筆登記が完了すると、法務局から登記完了証がが発行され、分割された土地に新しい番地が設定されます。
③分筆完了後に相続登記を申請する
分筆が完了した時点で、相続登記の申請が可能になります。被相続人から相続人への不動産の名義変更をします。
相続登記は、名義変更が目的となるため、登記申請日が登記完了日となります。
この時に、相続人が複数いる場合は、それぞれの名義にて登録することが可能です。
相続登記に必要な書類
相続登記に必要な書類は、
- 被相続人の戸籍(出生から死亡まで)
- 被相続人の住民票(除票)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 相続人の住民票
- 相続人の印鑑証明
- 固定資産評価証明書
- 分割登記完了証
となります。念のため分筆登録の申請をする際に、相続登記の際に必要な書類を確認するようにしましょう。
分筆登記には時間がかかる
分筆登記は、現地調査から登記完了までに2~3か月の期間を要します。
相続した不動産を、分筆→相続へと効率よく進めるにあたって、分筆登記を進めながら、相続登記の準備をしておくことをおすすめします。
とくに役所にて入手する書類は、まとめて一回で済むようにしたいものです。不備がないように入念に準備していきましょう。
※分筆を検討する際に、固定資産税のしくみがわかっておくと役に立ちます。こちらの記事も参考にしてみて下さい。
まとめ
一生のうちに2度あるかどうかわからない相続登記。おそらく、不動産を相続したのは初めて・・・という場合がほとんどで、どのように手続きをすればいいのか戸惑う人も多いでしょう。
今回は、主に分筆登記の手続き方法について解説致しましたが、それぞれの状況によって手続き方法や準備する書類も若干異なってきます。
ただ、大まかにでも分筆→相続登記と手続きの流れがわかっていれば、いざという時に適切に動いていくことができます。
分筆登記を行うあたっては、境界線を設置することが前提となり、どうしても専門業者へ依頼することが必要です。
境界線の設置は、分筆において最も重要な過程です。それぞれの分筆の使途を明確にし、最適な分割方法をじっくりと検討していくことが大切です。
業者を選ぶ際にも、経験のある信頼できる業者を選ぶことが後で後悔しないためのポイントとなるでしょう。