目次
消費者金などから借入をしている方の中には、「借金をしている人はお金をもらえる」というような一見甘い誘いのように見える弁護士・司法書士の広告を何度も見た方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このページでは、「過払い金」の仕組みと時効についてお伝えします。
過払い金とは
そもそも「過払い金」というのはどのようなものなのでしょうか。
過払い金は消費者金融等が違法に受け取っていた利息
過払い金という文字からは払いすぎていたお金という解釈をすることができますが、実際にも法律上貸金業者が受け取ることができる金額以上の利息があった場合に発生します。
貸金業者については法律の規定に従った営業が定められており、貸金業者が受け取ることができる利息については、「利息制限法」「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(通称:出資法)」という2つの法律に規定されています。
参考:
利息制限法1条
(利息の制限)
第一条 金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
一 元本の額が十万円未満の場合 年二割
二 元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
三 元本の額が百万円以上の場合 年一割五分
出資法5条2項
前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年二十パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
利息制限法は民事の効力に関する規定をする一方で、出資法は刑事罰を科しているという特徴があります。
この2つの法律なのですが、2010年6月18日に改正された出資法が施行されるまでは、出資法の上限は29.2%それ以前にはもっと高い利率での貸付を認めており、消費者金融なども18%以上の貸付を行っていました。
この状態を、利息制限法には違反するけど、出資法には違反しない、という意味で「グレーゾーン金利」という言い方をします。
この金利の受け取りについて、最高裁判所は利息制限法を超える部分については無効である、と判断した上で、
- 残額が残っている場合にはそれと差し引き計算をする
- 払いすぎた利息のほうが多い場合には貸金業者から返してもらえる
という判断がされています。
参考:最高裁判例
昭和39年11月18日判決抜粋(本文はこちらから:裁判所ホームページ)
債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は、民法第四九一条により、残存元本に充当されるものと解すべきである。
昭和44年11月25日判決抜粋(本文はこちらから:裁判所ホームページ)
債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を元本とともに任意に支払つた場合においては、その支払にあたり充当に関して特段の意思表示がないかぎり、右制限に従つた元利合計額をこえる支払額は、債務者において、不当利得として、その返還を請求することができると解すべきである。
いわゆる「過払い金」というのは、この返してもらう利息の事を言っています。
どのような会社がグレーゾーン金利で貸付をしていたのか
ではどのような会社がグレーゾーン金利で貸付をしていたのでしょうか。
まず、銀行については実務運用として利息制限法を超えるような貸付をしておらず、銀行に過払い金返還請求をすることはできません。
消費者金融についてはほとんどの会社でグレーゾーン金利での貸付を行っているので、2010年6月以前の借入がある場合にはグレーゾーン金利が発生している可能性が高いです。
信販会社については、有名なところでグレーゾーン金利での貸付をしていることが多いです。
銀行の系列の信販会社であっても、会社によってはグレーゾーン金利で貸している場合もありますが、ジャックスのように利息制限法を超える貸付を行っていない場合もあります。
過払い金の存在はどうやって調べるのか
過払い金の存在はどうやって調べればよいのでしょうか。
法律事務所や司法書士事務所では、貸金業者から取引の履歴を取得して、それを利息制限法に基づく制限利息で計算するといくらになるのかという計算(引き直し計算)を行います。
この計算には、計算式が組み込まれたExcelの書式が配布されているので、その書式に取得した取引履歴の入出金履歴を打ち込んでいく方式で行います。
Excelのシートは、消費者問題に昔から取り組んでいる名古屋消費者信用問題研究会のホームページで配布しているので、こちらでダウンロードします。
過払い金の請求の仕方
過払い金の請求はどのように行うのでしょうか。
弁護士・司法書士に依頼した場合には次のように進みます。
通知・任意の交渉
弁護士・司法書士に依頼をすると、上述した引き直し計算を行った上で、貸金業者に通知をします。
一般的な債権回収を弁護士・司法書士が請け負う場合には内容証明郵便を利用するのが一般的ですが、過払い金請求の実務では、基本的には一般的な通知で行います。
通知では、過払い金がいくら発生していて、過払い金が発生してからの民事の法定利息(年5分)をつけて書面で請求します。
これに応じて貸金業者は自社の内部規定に応じて返還の交渉をします。
アコムやプロミス・レイクといった銀行の系列の貸金業者は返還にはわりと好意的ですが、事業再生ADRを利用したアイフルは発生した過払い金の1割~4割程度の返還にしか任意の交渉では応じないとされています。
民事裁判の提起
任意の交渉で返還できる額に納得がいかない場合には民事裁判を提起します。
裁判と言っても勝訴するのは目に見えているので、問題は裁判の中で支払い金額を多くしてもらうように交渉することがメインになります。
過払い金請求の実務においては、民事訴訟を提起すると決済ができる金額が上がるようになっているので、その金額が上限と考えることになっています。
執行
裁判に勝ったら自動的に支払ってくれるものではなく、それでも支払いをしない場合には、貸金業者の財産に強制執行をかけることになります。
どうしても払わない業者相手には、その業者が使っている銀行口座を差し押さえするのが通常になります。
債務整理に強い弁護士・司法書士は、任意整理で振り込んでもらう口座を把握しているので、それを差し押さえるのが通常の方法になります。
時効とは
過払い金請求と時効の関係をお伝えする前に、そもそも時効の制度について知っておきましょう。
日常会話などにもでてくる「時効」という言葉ですが、法律では長い間つづいた事実上の状態に対して、その状態になるような法律上の効果を与えることをいいます。
たとえば、何らかの原因で所有権がないにもかかわらず所有者として長年ふるまっている場合には、周りはその人がその物の所有者であると考えてしまいます。
このような場合に、本当にその人に所有権を与えてしまおうというのが時効の制度です。
時効には2つの種類があり、ある権利を取得することができる「取得時効」とある権利が消滅する「消滅時効」に分かれます。
取得時効は、ある権利についての取得で、たとえばある物を占有している場合に、所有権を取得するような場合をいいます
参考:民法162条
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
消滅時効は、ある権利を長期間行使しないことを原因として、権利自体が消滅するような場合をいいます。
参考:民法167条
(債権等の消滅時効)
第百六十七条 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
過払い金と時効の関係
では、「過払い金」と「時効」にはどのような関係にあるのでしょうか。
過払い金は「不当利得返還請求権」という債権である
まず「過払い金」というものはどのような法律的な名目で請求できるかを知りましょう。
人(この場合は法人である貸金業者)に対してお金を払ってください、という権利がある状態ですので、貸金業者に債権が発生している状態です。
この場合の債権の発生原因なのですが、契約で受け取ることができるとしている利息だったのですが、グレーゾーン金利については受け取ることができないという最高裁の判例があったため無効とされいます。
このように、法律上受け取ることができる法律上の根拠がない金銭について返してくださいという債権に関する規定として、不当利得返還請求権という権利が民法で規定をされています。
参考:民法703条
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
過払い金請求については
- 「法律上の原因なく」…最高裁で無効とされている
- 「他人の財産又は労務によって利益を受け」…債務者が支払った金銭によって会社にお金が入っている
- 「他人に損失を及ぼした」…無効とされているお金を収受されているので、支払った側としては損失がある
以上の要件を満たすことから、不当利得返還請求権として請求できると評価されています。
不当利得返還請求権は一般債権として10年の消滅時効になる
債権の消滅時効については、一般債権は10年、短期消滅時効にかかる債権については個別に規定をして10年より短い期間が設定されています。
不当利得返還請求権は短期消滅時効の規定がされている債権ではないので10年で消滅時効にかかるとされています。
そして、上記の通り、2010年6月18日に出資法の規定が改正されてグレーゾーン金利が消滅しているので、10年以上前に完済をしているような場合には過払い金は時効として消滅していることになります。
過払い金はいつから10年で時効になるのか
消費者金融から長期間借入をしている場合には、継続的に借りたり返済したりを継続しているような方もたくさんいます。
このような場合、いつから10年なのでしょうか。
過払い金の事項については、基本的には完済の日から10年と考えられています。
たとえば、2015年に完済した場合には、過払い金の事項は2025年に完成すると考え、過払い金が最後に発生した2010年6月18日から10年と数えるわけではない、ということを把握しましょう。
なお、途中で完済をしているケースもあるかと思いますが、その場合には完済してから次の借入までの期間が1年開いていない場合には一つの取引(一連)と見ることができます。
もし1年以上取引が開いているような場合には、その1年の分断の前後で取引が二つあると考えることになります。
たとえば2000年から借入をしていて、2005年に一度返済をして、2007年にもう一度借入を再開したような場合には、2000年から2005年までの借入は独立した借入と評価され、2019年現在請求する際には2000年~2005年までに発生していて過払い金については時効で消えてしまっているとされるのです。
時効が近い場合にはどうすればよいか
過払い金の調査をしたところ、時効完成まで時間がないような場合にはどのようにすれば良いのでしょうか。
時効は時間が経過したら絶対に完成するというものではなく、債権者として手を講じれば時間経過を止めることができるようになっています(この制度を「時効の中断」といいます)。
時効の中断をする現実的な手段としては、基本的には裁判上の請求になります。
参照:民法147条
(時効の中断事由)
第百四十七条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認
この147条1号における請求というのは、裁判上の請求ということになります。
普通の郵便物による請求を行っただけでは、法律上の請求ということができず、別の条文にある催告と評価されます。
参考:民法153条
(催告)
第百五十三条 催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事事件手続法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。
この催告をする際には「配達証明付きの内容証明郵便」で行うことになります。
なぜなら、もし通常の郵便をつかって催告を行い、6ヶ月以内に裁判上の手続きを行った場合に、相手方としては「そのような郵便が届いていないので時効が完成しており請求を棄却してください」という主張をすることになります。
この主張を覆すのは事実上不可能です。
しかし、配達証明付き内容証明郵便で催告を行うと、内容証明郵便がどのような内容の郵便物を送ったかを証明してくれますし、配達証明がいつ相手に到達したのかを証明してくれます
参考:郵便法
第四十七条(配達証明) 配達証明の取扱いにおいては、会社において、当該郵便物を配達し、又は交付した事実を証明する。
第四十八条(内容証明) 内容証明の取扱いにおいては、会社において、当該郵便物の内容である文書の内容を証明する。
これにより、貸金業者が裁判で「そのような書類は届いていない」あるいは「届いたけれども期間を過ぎていた」という主張のどちらも封じることができます。
まとめ
このページでは過払い金請求についての一般的なことと、時効との関係についてお伝えしてきました。
過払い金自体がどうやって発生するのかの詳しいメカニズムと、実務上どのような処理が行われているのかを知った上で、時効になりそうな場合の対処方法を知り適切な行動で回収をすることができるようにしましょう。