海外投資とは、投資の対象を日本国内だけでなく、米国やアジア、欧州など海外の商品に投資することです。さまざまな方法があり、抱えるリスクも異なります。
今回は、海外投資の始め方と、金融商品ごとのメリット・デメリットについて解説します。
海外投資を始める必要性
国内の株式や債券・不動産に投資している人は、「海外投資は為替リスクがあるし、始める必要はあるのだろうか?」と思われるかもしれません。
海外投資を始める理由として次の2つがあります。
1.分散投資によりリスクを軽減しながら高いリターンが望める
2.日本の信用不安への対策
それぞれ詳しく解説します。
分散投資によりリスクを軽減しながら高いリターンが望める
複数の金融商品に投資して、リスクを抑えながら利益を狙うことを「分散投資」といいます。国内資産とは異なった値動きをする、海外の株式や債券を保有することで、より分散投資の効果が高まります。
国によって、株や債券など金融商品の値動きはさまざまです。日本だけでなく米国や欧州、アジアなど複数の国に幅広く分散投資しておけば、日本経済が悪化しても他の国の投資で得た収益が補ってくれるのです。
日本の信用不安への対策
海外投資は、日本の信用不安への対策として効果があります。このまま国債を発行し続けて財政悪化が進行すると、日本への信用が揺らぎ始める可能性があります。
また、現在はデフレですが、インフレになる可能性があります。国内金融資産だけですと、急激なインフレに対応できない可能性もあります。インフレになると円安になる傾向もありますから、海外資産を持っていることは非常に有効なのです。
現在、海外の株や債券に直接投資できるのはもちろんのこと、投資信託を通じて少額から気軽に購入できます。例えばネット証券の積立投資なら、投資信託を100円から買えるのです。
我々の年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も、海外資産の保有割合を増やしています。以前は2割程度だった海外資産を、2014年から4割に増やしました。
現在の比率(基本ポートフォリオ)は次の通りです。
国内債券 35%
国内株式 25%
外国債券 15%
外国株式 25%
国内金融資産60%、海外金融資産40%になっています。
国内の債券比率が6割だったのを、株式や海外資産の割合を増やして積極運用に変えたのです。その背景には、現行の年金制度を維持できるだけの運用益を確保する狙いがあります。
今の制度に必要な利回りは1.7%。低金利の国内債券(国債など)を中心に運用していても目標は達成できません。株式や海外の資産の比率を増やすことにより、高い利回りを求めることにしたのです。
投資の目標を決める
海外投資を決める場合、どの程度にリターンを目指すのか、最適な金融商品は何なのかなど、自分の投資スタイルを決める必要があります。漠然と投資を始めても資産運用はうまくいきません。投資を成功させるためには、目標リターンとリスクを理解して、きちんと資産配分を決めなくてはなりません。
株式などでの運用というと、大きなリターンを目指しがちですが、まずは年率3~5%程度を目指すようにします。10%を超える利回りを達成するためにはリスクを取る必要があり、1年で資産が半分になってしまうようなリスクが大きい投資戦略を取らなければなりません。
やみくもに高いリターンを目指しても、大きな損失をだしてしまうと、資産運用を続けることが困難になります。まずは、「大きな損失をださない」ことが大切なのです。投資を継続できなくなる一番の原因は、過大なリスクをとったことによる損失です。想定以外の損失をだすと「投資は怖い」となり、続けることができなくなります。
また、投資は長期で考えなければなりません。短期的には価格が上下してリターンが安定しないからです。どんな金融商品でも「毎年5%」というのは、今の環境ではほぼ不可能です。逆に、10年以上の長期で考えれば、リーマンショックのような激しい下落の年があっても、一定のリターンが得られます。
特に、リタイア後に向けて資産運用をする場合、20~30年と長い期間にわたって運用を続けることになります。まずは、無理のない目標を設定して運用を続けることが大切です。
長期・分散・積立投資を海外投資で行う
それでは、大きな損失をださないようにするにはどのようにしたらいいのでしょうか。それには、「長期・分散・積立」投資がキーワードになります。そのための投資対象は「インデックス(指数)」が最適です。
投資というと、一般的に「値上がりする株の集中投資」という人が多いです。この投資方法では、よほど優れたスキルがないと下落相場で大きな損失をだしてしまうので、投資を継続することができません。
短期的な売買は「ゼロサムゲーム」です。ゼロサムゲームとは勝つ人がいれば負ける人もいて、トータルでゼロになるということです。数億円単位で利益をだすプロもいますが、初心者が勝ち続けるのは至難です。
一方、世界中の金融資産に分散投資するのは「プラスサムゲーム」です。世界経済はこれまで成長を続けています。その世界経済の成長で利益を得ることができるのです。
これまでの投機的な姿勢は、証券会社の姿勢も大きく影響しています。証券会社の収入は、顧客の利益ではなく手数料です。短期間で顧客に売買を多くさせるほど収入が増えます。
証券会社が販売する金融商品も手数料が高いものが多く、アクティブ型(積極的な運用)の投資信託などは購入時手数料が3%、信託報酬(保有コスト)が0.5~2%程度かかります。
個人投資家の多くは、投資を継続できないほどの大きな損失をだすまで、証券会社に高額の手数料を取られていたのです。
一方、コストの安いインデックスファンドなどは購入時の手数料がなし(ノーロード)で、信託報酬も0.5%以下のものが多くあります。また、幅広く銘柄が分散されているので、損失のリスクも軽減されます。
インデックスファンドで積立投資をすれば、証券会社に支払う手数料を少なくでき、長期で運用できるので資産を大きく増やすことが可能です。
投資手法をまとめると以下のようになります。
集中投資と分散投資
集中投資とは、一部の個別商品に絞って投資することです。一方、分散投資はさまざまな金融資産に分散投資して投資します。一時的なリターンは集中投資の方が高くなりますが、その分リスクも高くなります。
長期的な運用を行う場合は、分散投資の方が適しています。
一括投資と積立投資
一括投資とは、どこかのタイミングで資金を一気に投じるものです。安値で購入すれば大きなリターンが目立ちますが、その分リスクも高くなります。積立投資とは、定期的に決まった金額を積み立てていく方法です。安値で買えれば、一括投資の方が有利ですが、マーケットが今後どうかということは誰にも分かりません。
積立投資では、その不安定な値動きに対して定期的に購入していくので、買付単価を標準化させることができます。特に初心者の方は、買い付けタイミングを計るということは難しいので、積立投資を行うことをお勧めします。
アクティブ投資とインデックス投資
アクティブ投資とはファンドマネージャーが銘柄を選定し、 日経平均株価など指数を上回ることを目指す運用方針です。一方、インデックス投資とは市場平均並みのリターンを目指す方法です。
インデックス投資の方が指数を対象にしているので、幅広く分散投資することができます。
このように長期で分散・積立投資を行うことにより、証券会社に支払う手数料を少なくでき、大きな損失を出すリスクも低く抑えることができるので、個人投資家が長く運用するには長期・分散投資が適しているのです。
海外投資のメリット・デメリット
それでは、海外投資のメリット・デメリットを確認しましょう
メリット1:高い利回りが狙える
日本は低金利が続いています。定期預金でも0.1%程度。海外にはこれよりも高い金利の国がたくさんあります。債券投資を考えた場合、金利の高い海外債券の方が高リターンを望めます。
株式でも日本はアベノミクス以降(2012年~)上昇していますが、平成31年でみると、バブル時の高値38957.44円には遠く及びません。
株や債券だけでなく、不動産や商品など同じジャンルの投資をする場合、国内の金融資産よりも海外投資の方が高い利回りが期待できるのです。
メリット2:分散投資によりリスクを軽減できる
さきほども分散投資について言及しましたが、海外投資の1番のメリットは分散効果です。株や債券などの資産の分散もありますが、通貨の分散効果もあります。日本の信用リスクが高まると円が売られやすくなります。
円だけで資産運用していると、どんなに運用が上手くいっていても円の価値が下がると資産全体の価値も下がります。円だけでなくドルやユーロなど他の通貨でも運用しておけばリスクを回避することができます。
仮に1ドル=100円の時に100万円をドルに換えると1万ドルになります。円安になって1ドル=120円になれば、1万ドルは120万円になり、20万円増えたことになります。これを「為替差益」といいます。為替差益が期待できることも国内投資では得られない大きな特徴です。
デメリット1:為替リスクがある
為替差益で利益が得られる可能性がある一方、為替差損のリスクもあります。さきほどの例でいえば、1ドル=80円まで円高が進んだ場合、1万ドルは80万円になり20万円資産が減ることになります。
どんなに高い利回りの資産で運用していても、為替差損によって損失になるリスクがあるのです。
デメリット2:カントリーリスク
ある国の株や債券を買った後、戦争がおこったり、予期しないような政治的・経済的問題が発生したりすることがあります。
特に、新興国はカントリーリスクが高くなりますが、情報が収集しにくいので事情がわかりにくいです。新興国では、個別の株や債券ではなく、投資信託で投資したほうが、プロのファンドマネージャーに運用を任せることができるので安心です。
長期・積立・分散投資に最適な金融商品
海外投資で「長期・積立・分散」を行うには、投資信託が最適です。世界中の主要な株式や債券を、何千銘柄と幅広く買い集めて分散投資できるからです。
個別に買おうとすると、数十億円以上の莫大な資金が必要になりますが、投資信託なら1万程度から始められます。ネット証券の積立投資なら100円から始めることも可能です。
以前は海外投資できる投資信託の数が少なかったものの、海外投資の人気が高まるにつれ、さまざまな種類の投資信託が誕生しています。
投資信託はインデックス運用を選ぶ
投資信託にはアクティブ運用とインデックス運用の2種類があります。
アクティブ運用
アクティブ運用とは、対象企業の調査研究を行い、ベンチマーク(運用成績の基準となる指標)を上回ることを目指す方法です。例えば、日経平均株価をベンチマークにした場合、日経平均株価を上回ることを目指します。
インデックス運用
特定の指数(日経平均株価など)をベンチマークとして、ベンチマークの値動きに連動するように運用する方法です。
投資のプロであるファンドマネージャーが銘柄と投資タイミングを選んでくれるので、アクティブ運用の投資信託を選びたくなりますが、実績は芳しくありません。
市場平均を上回るアクティブファンドは少ないのです。それは、市場参加者のほとんどが機関投資家(プロ)だからです。米国では9割が機関投資家であるといわれています。日本でも7~8割は機関投資家です。
運用のプロである機関投資家の割合が上昇しているので、市場平均以上のパフォーマンスを継続的に上回るのは難しいのです。
そして、アクティブ運用は銘柄を選ぶための情報収集や取引のコストがかかります。コストを差し引いて市場平均を上回り続けるというのは困難です。
インデックス運用は低コストで、市場平均並み(プロの平均)を目指せるので、運用はインデックス型の投資信託を選ぶようにしましょう。
投資リターンを高めるには
売れ筋の投資信託を購入しない
日本の証券会社や銀行で売れている商品は「アクティブ型」がほとんどです。先ほどもご説明したように、アクティブ型投資信託は手数料が高いからです。
販売手数料、信託報酬がインデックスファンドの10倍以上という商品もあります。投資の最大の魅力は長期に渡って運用し、複利効果で大きなリターンを得ることです。1年ごとではたいした差はないかもしれませんが、10年以上の長期投資においては大きな差となります。
手数料が安くて、幅広く分散投資ができるインデックスファンドで海外投資を行いましょう。
リバランスをする
リバランスとは、銘柄の構成比を元に戻すことです。例えば、株と債券50%ずつで運用していても、年月が経つと株式市場の上昇により、株60%、債券40%になることがあります。
この場合、株を10%売却し、債券を10%買い増しすることにより、元の比率(50%ずつ)に戻すことをリバランスというのです。
リバランスは機械的に行うことが大切です。高くなったものを売り、安くなったものを買います。しかし、株式市場が好調なときは株を買い増し、株価が急落したら株を売るという行為をしがちです。
マーケットを予想しようとすると、欲や恐怖に支配されて冷静な判断をすることができなくなります。特にネットや新聞などを見ると、情報に惑わされてしまいます。リバランスはそうした行為とは反対のことを行います。リバランスは決めたルール通りに機械的に行うようにしましょう。
リバランスの目安は半年に1度です。少なくとも1年に1回は行いましょう。「暴落」した時などと考えるとマーケットタイミングを計るようになってしまい、相場のことが気になってしまいます。
普段は相場のことを忘れて、決めた日に資産配分を見直すというのが秘訣です。
バランスファンドで運用
投資信託の選定からリバランスを行うのは難しいという方も多いと思います。そのような方は「バランスファンド」での運用をおすすめします。バランスファンドとは、国内外の株式や債券などに幅広く分散投資する投資信託です。
三菱UFJ国際投信のeMAXIS Slimバランス(8資産均等型)
は、国内外の株式や債券、リート(不動産)などに幅広く分散投資しているのでおすすめです。
まとめ
今回は、海外投資で国際分散投資を行う方法について解説しました。国内の金融商品だけだと幅広い分散効果は望めません。為替リスクやカントリーリスクはありますが、投資信託を利用することにより幅広い銘柄に投資することができます。
ただ、初心者の方の銘柄選定は難しいでしょうから、バランス型ファンドから始めてみてもいいでしょう。ネット証券の積立投資なら100円から始めることもできるので、まずは少額かあら初めてみてはいかがでしょうか。