いまさら聞けない!所得税はどうやって計算されるの?FPが分かりやすく解説

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皆さんが働いて得た給料かなどの稼ぎから差し引かれているものの一つに所得税があります。所得税は言葉の通り「所得に対して課される税金」です。

つまり、働いて稼いだお金に応じて一定の金額が所得税という税金として差し引かれているということになるわけですが、実際にこの所得税とはどのように計算されているかをご存知の方はあまり多くはないのではないでしょうか?

よく節税対策として言われる所得控除のお話などは、全てしょてく税の計算家庭の一部でしかないため、真剣に節税を考えている人であれば、税金の計算の仕組みの全容を広く浅く知っておくことはメリットが大きいものとなります。

今回は、所得税の計算の流れについて広く浅く解説していきます。今さら聞けないような内容などもこの中にあるかもしれませんが、変化し続けている税制を知るためのきっかけにしていただければと考えています。

1.所得税の計算の流れ

 

所得税の計算の流れとしては、その年の1月1日から12月31日までに発生した所得の金額(課税所得)を集計し、そこから所得控除を控除して残った課税所得に対して、税率を乗じて所得税を求める流れとなります。

1年間の所得の金額を集計するといっても、収入要因がさまざまあるため、全ての収入要因について同じように所得税を課税することは、公平性に欠けるといえます。

たとえば、毎月の給料の所得に対する税率と不動産の売買等で得た所得を同じ税率で課税すると、明らかに不動産などの売買等で得た所得のほうが大きいため、給料による収入の時よりも多くの税金を支払わなければならなくなるのは、公平性に欠けるということです。

また、所得税は累進課税方式によって税率が決まっています。つまり、課税所得が多ければ多いほど税率が高くなり少なければ少ないほど税率は低くなる仕組みを採用することで、税負担の公平性を保つような仕組みとなっています。


2.10種類に分かれる所得区分

所得と一言にいっても様々な種類がありますが、所得税の計算上はそれらのすべての所得を10種類の所得区分に分類して集計することが所得税の計算の第1段階となります。

10種類の所得区分とは「利子所得」「配当所得」「不動産所得」「事業所得」「給与所得」「退職所得」「山林所得」「譲渡所得」「一時所得」「雑所得」の10種類の所得区分を言います。

①利子所得

利子所得とは、銀行の利子等の利息による所得をいいます。

②配当所得

配当所得は、株式を保有していることで得られる配当利益等をいいます。

③不動産所得

不動産所得とは、不動産の賃貸収入や看板の設置等による使用料など、不動産を保有していることで発生する所得を言いますが、不動産の売買による所得のように、事業として行っていることは事業所得となるので注意が必要です。

④事業所得

事業所得とは、個人事業主や法人が事業活動を行ったことで発生した利益が該当します。

⑤給与所得

給与所得とは、毎月労働の対価として会社から支払われている給与や賞与等がこれに該当します。給料や賞与の他にも、

⑥退職所得

退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当などの所得をいい、社会保険制度などにより退職に基因して支給される一時金なども退職所得とみなされます。

⑦山林所得

山林所得とは、自身が保有している山林を伐採して譲渡したり、立木を譲渡することで得られる所得を言います。

⑧譲渡所得

譲渡所得とは、資産を売却したことで発生した所得を言います。ここでいう資産には、建物や車両といった固定資産のほかにも、ゴルフ会員権などの権利についても含まれます。

⑨一時所得

一時所得とは、臨時に発生した収入で、保険の解約返戻金や宝くじ等のギャンブルの当選金などが該当します。

⑩雑所得

雑所得とは、①~⑨のいずれにも該当しない所得です。公的年金の年金収入や執筆の原稿料等(事業として行うものを除く)が該当します。


3.課税対象となる総所得金額を計算する

 

所得を10種類に区分したら、次に、それぞれの区分で集計した所得を課税種類ごとに分けます。具体的には、課税方法によって所得金額のグルーピングを行うことで、課税種類ごとに適切な税率で課税を課すことができるようになります。

具体的には、「総所得金額(配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・一時所得・雑所得は、この区分でまとめて集計されます。)」「退職所得金額」「山林所得金額」「短期譲渡所得金額(保有期間が5年以内の資産を譲渡した場合)」「長期譲渡所得金額(保有期間が5年超の資産を譲渡した場合)」「株式等にかかる譲渡所得金額(株式の譲渡や上場株式の配当を受けた場合等)」の区分に集計して、それぞれの課税所得金額の計算を行うことになります。

この総所得金額から所得控除を控除した金額に対して、それぞれに対して一定の税率を乗じて所得税の金額が算出されることになります。

4.14種類の所得控除

総所得金額を計算したら、そのままその金額に対して税率を乗じて所得税が算出されるわけではありません。

総所得金額から、所得控除と呼ばれる金額が控除され、その控除後の金額に対して、一定の税率を乗じて所得税が算定される流れとなります。

所得控除には、大きく物的控除と人的控除に分類され、さらに、それぞれの所得控除は7種類の所得控除に分かれており、全部で14種類の所得控除から構成されています。

物的控除

物的控除とは、社会保険の保険料の支払いや生命保険料の支払いなどのように、一定の支出や負担があった場合に対して、その支出や負担をした金額を課税所得の金額から控除することができる制度です。

物的控除は「雑損控除」「医療費控除」「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」「生命保険料控除」「地震保険料控除」「寄付金控除」の7つの所得控除の事を言います。

(ア)雑損控除

雑損控除とは、災害または盗難、もしくは横領によって、生活上の資産に損害があった場合にその損害額のうち一定金額を控除できるものです。雑損控除で控除することが出来るのは、生活に要する資産が災害等によって損害にあった場合に限定されている点が注意です。なお、事業用の資産であれば、事業所得の計算上発生した事業の損失として計上され、生活の用に供さない資産(掛け軸などの骨とう品や一つ又は1組の価格が30万円以上のものなど)は雑損控除の対象にはなりません。

(イ)医療費控除

医療費控除とは、課税対象期間(その年の1月1日から12月31日まで。以下同じ)の中で、医療費として支払ってきた金額に応じて、課税所得金額から控除することが出来るものです。医療費駆除に含まれる医療費には、病院や診療所等で病気やけがの治療や入院のために支払った金額などが含まれますが、風邪薬の購入や栄養ドリンクの購入といった病気などを予防するために支出した金額について(セルフメディテーション税制対象の物を除く)は医療費控除の対象にはなりません。

(ウ)社会保険料控除

社会保険料控除は、課税対象期間において支払った社会保険(国民年金・厚生年金保険・健康保険・国民健康保険など)の保険料の合計額が課税所得金額から控除されます。

(エ)小規模事業共済等掛金控除

小規模企業共済等掛金控除とは、個人事業主が事業を廃止した場合に退職金に代わる共済金を受けるために払い込んだ掛金等の控除をいう。つまり、個人事業主が事業を辞めた時の(いわゆる)退職金となる小規模事業共済の掛け金を所得控除として全額課税所得金額から控除することができるというものです。

(オ)生命保険料控除

生命保険料控除は、加入している生命保険の保険料について、最大で12万円まで課税所得金額から控除することができるものです。

生命保険料控除は、生命保険の内容によって大きく3つにわかれており、それぞれの区分において支払った保険料(最大で4万円)の合計が生命保険料控除として、課税所得金額から控除されます。

(カ)地震保険料控除

地震保険料控除は、火災保険の保険料のうち、地震保険料として支払った部分の金額について、最大で5万円を所得控除として課税所得金額から控除することができます。

(キ)寄付金控除

寄付金控除は、特定の団体などに寄付を行った場合において、支払った金額の一部を所得控除として課税所得金額から控除することができるものとなっています。近年では、ふるさと納税などのように、寄付金の種類や内容が増えており、所得控除の項目で控除されるもの以外にも、税金が還付されるような寄付金も出てきました。

人的控除

人的控除とは、本人や家族の状況等に基づき、一人あたりの控除額が定額でさだめられた所得控除のことをいいます。人的控除は、その年の12月31日時点での状態を基準で判断するので、扶養親族が増えた場合などについては、所得控除の金額がそれに合わせて変更されます。

(ア)配偶者控除

配偶者控除とは、配偶者を有している者であって、その配偶者の所得金額(前年度の所得金額の合計額(合計所得金額)から所得控除額を控除をした後の課税所得金額の事)38万円以下である場合に、その者の所得金額から38万円を控除することができます。

ただし、法改正により、2018年度の所得税の計算から、納税者の合計所得金額が1,000万円(給与収入のみの場合は1,220万円)以下でなければ、配偶者控除の適用を受けることができなくなりました。

(イ)配偶者特別控除

配偶者特別控除とは、配偶者の所得が38万円を超える場合に配偶者控除の代わりに適用される所得控除ですが、法改正が行われ、配偶者控除の適用範囲が拡大されることになりました。

具体的には、改正前の配偶者特別控除は「配偶者の所得の金額が38万円超76万円以下(年収でいうと「141万円」)」であれば適用を受けられましたが、改正によって、配偶者の所得金額の上限が「123万円以下(年収でいうと「201万円」)」に範囲が拡大されました。

(ウ)障害者控除

障害者控除とは、納税者が障害状態になった場合に27万円(特定の場合においては40万円)を課税所得金額から控除することができます。

(エ)勤労学生控除

勤労学生控除とは、納税者本人が給与所得を有している学生であって、その合計所得金額が65万円以下である場合に27万円が課税所得金額から控除されます。

(オ)扶養控除

扶養控除とは、その年の12月31日時点において納税者が扶養している者のうち一定の要件に該当する者がいる場合に、1人あたり、38万円~(最高で)63万円が課税所得金額から控除されます。

(カ)寡婦(夫)控除

寡婦(夫)控除とは、夫と死別し、若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない人、又は夫の生死が明らかでない一定の人で、扶養親族がいる人又は生計を一にする子がいる者であって、合計所得金額が500万円以下である場合に27万円(特定の寡婦(夫)の場合は35万円)が課税所得金額から控除されます。

(キ)基礎控除

基礎控除とは、全ての人に共通して38万円が課税所得金額から控除されるものです。


5.課税対象となる所得金額と所得税の金額

合計所得金額から所得控除を控除して残った金額(課税所得金額)に対して、一定の税率を乗じて所得税額が算出され、その算出された所得税額から、税額控除といわれる所得税額から著口説控除されることで納付(または還付)税額が最終的に決定します。

【主な税額控除の種類】

(ア)配当控除

国内株式等の配当等について、総合課税(配当所得について、他の所得と合算して所得税の計算を行う課税方式)を選択して確定申告をした場合に適用される税額控除の事です。

配当控除は、課税総所得金額(退職所得と山林所得を除く)によって適用される税率が異なり、配当所得の10%または5%が税額控除として、所得税額から控除されます。

(イ)住宅借入金等特別税額控除

住宅借入金等特別税額控除とは、個人が住宅ローンを利用して、マイホームの新築、取得又は増改築等をし、令和3年(2023年)12月31日までに自己の居住の用に供した場合で一定の要件を満たすときにおいて、その取得等に係る住宅ローン等の年末残高の合計額等を基として計算した金額を、居住の用に供した年分以後の各年分の所得税額から控除するものです。

住宅借入金等特別税額控除の金額は、マイホームに居住を開始した日の属する年度によって異なります。現時点で居住を開始した場合は、「1~10年目年末残高等×1%(最大40万円)」となっています、

(ウ)住宅耐震改修特別税額控除

住宅耐震改修特別税額控除とは、平成18年4月1日から令和3年(2023年)12月31日までの間に、自己の居住の用に供する家屋(昭和56年5月31日以前に建築されたものに限ります。)について住宅耐震改修をした場合には、一定の金額をその年分の所得税額から控除するものを言います。

税額控除の金額は、住宅耐震改修を行って時期によって異なります。

・平成26年4月1日から令和3年(2023年)12月31日までの間に住宅耐震改修をした場合
住宅耐震改修に係る耐震工事の標準的な費用の額(補助金等の交付を受ける場合には、その補助金等の額を控除した金額)の10%(最高25万円)

・平成21年1月1日から平成26年3月31日までの間に住宅耐震改修をした場合
次のいずれか少ない金額の10%(最高20万円)

イ 住宅耐震改修に要した費用の額(平成23年6月30日以降に住宅耐震改修に係る契約をして、その住宅耐震改修工事の費用に関し補助金等(国又は地方公共団体から交付される補助金又は給付金その他これらに準ずるものをいいます。)の交付を受ける場合には、その補助金等の額を控除します。)

ロ 住宅耐震改修に係る耐震工事の標準的な費用の額

(エ)認定住宅新築等特別税額控除

認定住宅新築等特別税額控除とは、一定の要件を満たした認定住宅を新築等し、平成26年4月1日から平成33年(2023年)12月31日までの間に居住の用に供したときに、一定の要件の下で、認定長期優良住宅と認定低炭素住宅の認定基準に適合するために必要となる標準的なかかり増し費用の10%に相当する金額を、原則としてその年分の所得税額から控除するものです。

認定住宅新築等特別税額控除は、(ア)又は(イ)の住宅の取得等をした場合に、標準的なかかり増し費用を基として計算した金額を控除するもので、住宅借入金等特別税額控除との選択適用となります。

(ア) 長期優良住宅の普及の促進に関する法律に規定する認定長期優良住宅に該当する家屋で一定のもの(以下「認定長期優良住宅」といいます。)の新築又は建築後使用されたことのない認定長期優良住宅の取得

(イ) 都市の低炭素化の普及の促進に関する法律に規定する低炭素建築物に該当する家屋で一定のもの又は同法の規定により低炭素建築物とみなされる特定建築物に該当する家屋で一定のもの(以下「認定低炭素住宅」といいます。)の新築又は建築後使用されたことのない認定低炭素住宅の取得

6.まとめ

毎年、確定申告を行う所得税ですが、具体的な所得税の計算の流れを把握しておくことで、どこで節税対策を考えていけばよいかというポイントを抑えることができます。

また、近年の税制改正によって、課税方法や税率の変更などの変化が大きくなってきます。さらに、所得控除(配偶者控除や配偶者特別控除など)等が大きく内容が変更されたこともあり、身近なところにおいても、節税を意識する必要が増えてきました。

節税を考えるのであれば、まずは、その税金の算定の根拠を抑えることで、より大きな節税効果を見込むことができるものと考えられます。

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