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たくさん兄弟がいる家庭の親が亡くなった場合に、相続をどのようにするのかはよく問題になります。
日本の相続の特徴として長男や実家で親の面倒を見ている人がより多くの相続分を獲得する傾向にあり、一方で女性で結婚をした人は家から出ていった人というような扱いで、相続で不利な扱いをすることが多いといえます。
たとえば、父・母・子2人という家庭で、子の一人に財産を相続させる遺言をしたような場合、もう一人の子としては当然「何か言える権利」があるのですが、その権利の内容である「遺留分」というものについてお伝えします。
相続とは
財産は「人」に所属することになっており、「人」は自然人である場合には生きている人でないと財産を保有することができません。
ある人が亡くなった場合に、その財産を相続人に移転するが相続という制度になります。
だれが相続人なのか、だれにどれくらいの相続分があるのかは民法に規定されており、上記のような父・母・子2人という場合に、父が亡くなった場合には母に1/2、子にそれぞれ1/4づつという基本的な割合が規定されています。
上記のケースで、子の一方が男性で一方が女性の場合、男性の方が親と同居しているような場合にはよく「長男があとを継ぐ」というような考え方で長男がすべてを相続するようなケースが散見されます。

ただし、介護をしていた、事業を手伝っていたというような事があって、亡くなった人の財産を増やしていたと評価できる場合には、ある程度の増減をすることはあり、その結果相続分がなくなる可能性はあります。
相続分の確定をして、その相続分に沿うように遺産分割協議をするのが通常の相続の流れになります。
たとえば、家が2,000万円・預金が1,000万円が全遺産であった場合には、たとえば家は母・預金を子2人で分け合う、という形が一つあります。
仮にこの遺産分割協議で、家は長男が、預金は子で半分づつで母が相続分なしとしても、当事者で合意が得られているのであればその通りにすることもできます。
ここで、長男がすべて相続するという形で押し切ろうとしても、長女側としては遺産分割協議に応じなければよいのであって、この場合には相続の協議は裁判所での調停・訴訟という風な形で解決をはかっていくことになります。
裁判になった場合には最終的には子の相続分を否定するようなことを裁判所としてはできず、相続で不利に扱われた子も相続分を認定されることになります。

遺留分とは
遺留分とはどのようなものでしょうか。
遺留分というものがある理由
相続において「遺留分」が、遺言があるようなケースで問題になります。
例えば、上記のような事例で父が愛人に全財産を相続させる、という内容の遺言をしていたとしましょう。
基本的に財産をどのように処分するかは個人の自由で、生前は譲渡する・貸し出す・壊してしまうなど自由な処分が許されるとされている中、自分が死んだあとの財産処分についても同様であるべきで、遺言の内容は自由であるというのが原則です。
しかし、上記のような遺言を残したような場合には、例えば父名義で住宅を持っていた場合に、母や子は家から追い出されることになり・固有の財産もないような場合には露頭に迷うということも考えられます。
この時、父名義の相続財産は本当に父が一人で築いたものなのか?ということが問題になります。
父・母・子2人で共働きで住宅ローンを返した家庭を想像してみると、いくら名義が父名義でも、実質半分は母による家計の支えもあってこそ現在の財産が構築されているといえるのではないでしょうか。
そのため、被相続人の財産の中には相続人が寄与をした潜在的な持分があると考えられています。
この相続人の保護と、相続財産中にある相続人の潜在的な持分、という考え方から、民法において「遺留分」という権利を規定しているのです。
遺留分の権利内容を知る
遺留分とはどのような権利かを知りましょう。
遺留分は、自分の遺留分が侵害される内容の遺言をされた場合や生前贈与を受けた場合に発生します。
遺留分を侵害する遺言・生前贈与がされたとしても遺言自体が無効になるのではなく、遺言の内容は有効だけども、遺言によって財産を得た人に対して法律の条文に従って返してくださいということができる、というのが権利の内容になっています。
遺留分に関しては基本的に相続分の1/2となっており、親が相続人である場合にのみ1/3となっており、兄弟姉妹が相続人である場合には遺留分はないと規定されています。
参考:民法1028条
(遺留分の帰属及びその割合)
第千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
※この条文には兄弟姉妹の場合の遺留分の規定がないため、無いということは請求権がないと解釈されています。
たとえば、上記と同じ自宅が2,000万・預金が1,000万円の父・母・子2人の相続についていうと、全額を遺言で残したもらった愛人に対して、母は相続分である1,500万円の1/2である750万円分を、子2人は相続分である750万円の1/2に相当する375万円分の遺留分を請求することができます。
遺留分として請求する場合には順番があり、生前贈与と遺言による贈与(遺贈といいいます)がある場合にはまず遺贈をしたものから返還を請求でき、次に生前贈与を受けたものを返還してもらいます。

複数の遺贈がある場合には、遺贈されたものの価格に割合に応じて取り戻しができることになっています。
遺贈を全部取り戻しても請求できる分があるような場合には、次に生前贈与からの取り戻しを行います。
この場合亡くなった日を起点に昔にさかのぼって近い順番から取り戻しを認めていくことになります。
参考:民法
(贈与と遺贈の減殺の順序)
第千三十三条 贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。
(遺贈の減殺の割合)
第千三十四条 遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(贈与の減殺の順序)
第千三十五条 贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする。
これらの規定があるものの、現実には遺贈・生前贈与を受けた人の側で相当額の金銭の支払いをすることで解決できる、という風になっており、現実にはこの金銭での解決がされています。
参考:民法
(遺留分権利者に対する価額による弁償)
第千四十一条 受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
遺留分を請求する道筋
では現実に遺留分の侵害があった場合にはどのように解決をしていくのかについて見てみましょう。
内容証明郵便を送る
まず請求をすると決めた段階で内容証明郵便を送ります。
内容証明郵便とは、郵便法によって文章の内容を証明してくれる郵送物をいいます。
参考:郵便法48条
第四十八条(内容証明) 内容証明の取扱いにおいては、会社において、当該郵便物の内容である文書の内容を証明する。
遺留分を主張することを法律上「遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)」と呼んでいるのですが、この遺留分減殺請求権は相続の開始を知った時から1年の時効にかかることが規定されています。
参考:民法
(減殺請求権の期間の制限)
第千四十二条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
ですので、1年以内に遺贈・生前贈与を受けた人に対して権利を行使したことを証明するために、内容証明郵便を送る必要があるのです。

内容証明を送る際には併せて配達証明というオプションをつけます。
配達証明をつけると、いつ送ったのかを証明してくれるので、内容証明と合わせると「いつ・どのような内容の郵便」を送ったのかを証明してくれることになり、相手が「請求がきていないので時効です」という事を防ぐことができます。
参考:郵便法
第四十七条(配達証明) 配達証明の取扱いにおいては、会社において、当該郵便物を配達し、又は交付した事実を証明する。
内容証明郵便を送った上で、まずは相手方とどのようにするか協議をします。
証明郵便には
- 自分が法定相続人であること
- 相続が開始したこと
- 遺贈・生前贈与を受けた人が遺留分を侵害していること
- 遺留分減殺請求権を行使すること
以上の内容を明確にして行います。
文例としては次のようなもので行います。
平成◯◯年○○月◯◯日
●●県◯◯市◎◎1-2-3
被通知人(相手方)殿
◎◎県◯◯市△△2-3-4
通知人(自分)
遺留分減殺請求通知書
被相続人(亡くなった人)は平成◯◯年○○月◯◯日に死亡しましたが、
同人は平成◯◯年○○月◯◯日付け公正証書遺言ですべての財産を遺贈するものとしました。
同遺言は通知人の遺留分を侵害するものになりますので、
本書面により遺留分減殺請求権を行使することを通知します。
以上
通知は内容証明郵便が規定している所定の書式に従って記載します。
通知が到達したら、後に裁判で「請求を受けていない」と主張されても、内容証明郵便の控えを証拠として提出すると、その主張は採用されません。
通知を送ったあとは相手方と金額・どのような内容にするのかを交渉します。
裁判等を利用する
当事者間の協議で解決をすれば良いのですが、協議で解決をできない場合には裁判手続きによります。
遺留分に関する事件については、通常の民事裁判の中でも家事事件に属するものとして、裁判をする前に必ず「調停」を利用することになっています(調停前置主義)。
参考:家事事件手続法
(調停前置主義)
第二百五十七条 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
(調停事項等)
第二百四十四条 家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか、この編の定めるところにより審判をする。
調停とは、裁判所から選任される3名の調停委員(裁判官1名・民間人2名)が間に入って双方の主張を聞いた上で解決をはかるものです。
数回当事者から相互に話を聞いた上で、調停委員としての解決方法を呈示して、それに納得がいった場合には裁判をしたのと同一の結果になるとしています。
もちろん調停委員からの提案を受け入れないことも可能で、その後は民事裁判を行うことになります。
遺留分に関する専門家
内容証明から始まって最終的には裁判をしなければならないので、法律の専門家に依頼をすることも可能ですが、どのような専門家が遺留分に関する業務を行っているのでしょうか。
遺留分に関する事項は法律事務なので弁護士に依頼をするのが基本
遺留分に関する事項は「法律事務」にあたるので、報酬を得て行うことができるのは基本弁護士となっており、その他の人は例外を除いては報酬を得て行うことができません。
参考:弁護士法72条
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
基本は弁護士に依頼をすることになります。
内容証明を送りたいだけなのであれば行政書士が対応してくれる場合も
行政書士という法律に関する国家資格者は、事実及び権利関係に関する書面の作成を業として請け負うことができ、相続を専門領域とする行政書士もいます。
参考:行政書士法1条の2
(業務)
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
この規定が弁護士法の例外となるので、遺留分減殺請求の内容証明を送ってもらうことは可能です。
しかし、遺留分に関する交渉やそのアドバイスを受けることはできませんので注意が必要です。
裁判書への書面作成は司法書士も対応可能
また裁判になったときに、裁判所に提出する書類の作成は司法書士でも行うことができます。
参考:司法書士法
第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
四 裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第六章第二節の規定による筆界特定の手続又は筆界特定の申請の却下に関する審査請求の手続をいう。第八号において同じ。)において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。
司法書士の業務として一部で裁判の代理をしていますが、遺留分に関する裁判手続きについては業務の範囲外になるので、あくまで書面をつくってくれるにとどまると考えましょう。
まとめ
このページでは、遺留分という権利についてお伝えしてきました。
通常の相続では不当な扱いを受けるのであればハンコを押さなければいいだけなのですが、遺言や生前贈与があるような場合には不当な扱いを受けている場合には遺留分という権利を行使する必要がありますので注意が必要です。