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日本の公的年金制度は、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人に、国民年金への加入義務があります。原則的には保険料を納めないと年金を受け取ることは出来ません。今まで納めてきた公的年金は、定年後にようやく受け取れます。しかし、老齢年金も所得とみなされ課税の対象になってしまうので注意が必要です。
そして、余裕のある老後の生活にする為に、私的年金に加入している場合もあるでしょう。その場合にも、年金を受け取る際に税金がかかります。
年金は老後の生活を支える重要な制度ですので、しっかり学んでおきましょう。
公的年金の税金と納税ルール
公的年金は雑所得として扱われ、一定額以上は所得税・住民税の対象となってしまいます。 ただ、年金は老後の生活にとって重要なお金です。その為、公的年金については退職金と同様に、税制上でかなり優遇される「公的年金控除」という控除が最初に差し引かれます。
そして、所得税の計算は、公的年金控除額から国民健康保険料や介護保険料などの「社会保険料」と「各種控除」を差し引いてから税率をかけて計算します。
課税対象となる公的年金
一定額以上の公的年金が課税対象となります。また、年齢によって課税対象となる金額に違いがあり、以下の2パターンです。
- 65歳未満で、その年の年金受給額が108万円以上
- 65歳以上で、その年の年金受給額が158万円以上
収入が公的年金のみで、課税対象となる年金受給額を下回っている場合には所得税はかかりません。
ここで言う公的年金には次のようなものがあります。
- 社会保険制度に基づく年金(国民年金・厚生年金・国民年金基金・厚生年金基金等)
- 公務員の共済年金・職域加算等
- 一時恩給を除く恩給・過去勤務にかかる年金
- 適格退職年金契約に基づく退職年金
ただし、公的年金のうち、障害年金と遺族年金は非課税です。
公的年金等にかかる税金の計算方法
公的年金にかかる税金は下記の計算で算出されます。所得控除は種類が多く個人差がかなりあるので省略しますが、税金の節約の為に各人で調べておきましょう。
- 下の【公的年金等に係る雑所得の速算表】で算出 = 公的年金等に係る雑所得
- 公的年金等に係る雑所得 – 所得控除の合計額 = 課税所得
- 課税所得 × 税率 = 税金
まず、公的年金控除額を、一定の計算方法に基づいて計算します。その計算方法は年齢によって分けられていて、次の表の通りです。
【公的年金等に係る雑所得の速算表】
公的年金等の収入金額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 | |
65歳未満の方 | 70万円以下 | 0円 |
70万円超130万円未満 | 収入金額−70万円 | |
130万円以上410万円未満 | 収入金額×0.75−37万5千円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額×0.85−78万5千円 | |
770万円以上 | 収入金額×0.95−155万5千円 | |
65歳以上の方 | 120万円以下 | 0円 |
120万円超330万円未満 | 収入金額−120万円 | |
330万円以上410万円未満 | 収入金額×0.75−37万5千円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額×0.85−78万5千円 | |
770万円以上 | 収入金額×0.95−155万5千円 |
【参考 : 国税庁、高齢者と税(年金と税)】
また、③の税率のところに所得税と住民税の税率をそれぞれ当てはめて計算して下さい。所得税と住民税の税率は次の通りです。
【所得税の速算表】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
【参考 : 国税庁、No.2260 所得税の税率】
この表の課税される所得金額に対応する税率を掛けてから、最後に控除額を引いたものが基準所得税額です。
さらに、平成25年分の所得税からは復興特別所得税というものが適用されています。これは、平成23年12月2日の東日本大震災からの復興の為に実施しているものです。復興特別所得税として、平成25年から平成49年までの基準所得税額に2.1%を課税されます。
よって、復興特別所得税を加えた所得税の計算式は次の通りです。
- 基準所得税額 × 102.1% = 公的年金に課される所得税額
住民税の税率
住民税には2つの地方税が含まれています。都道府県税率と市区町村税率です。それぞれの割合と合計の税率は次の通りになります。※標準税率以外を適用している自治体もあるので注意が必要です
- 都道府県税率(4%)+ 市区町村税率(6%)= 住民税の税率(10%)
ただし、平成30年分(2018年)以後の個人住民税については、「政令指定都市」のみ次のように変更されています。
- 都道府県税率(2%)+ 市区町村税率(8%)= 住民税の税率(10%)
「扶養親族等申告書」の提出が必要
公的年金控除を受ける為の注意点として、「扶養親族等申告書」の提出が必要だということです。年金受給額が65歳未満の方は108万円、65歳以上の方は158万円を超える場合に、日本年金機構から「公的年金等の受給者の扶養親族等の申告書」という書類が送付されます。
この「扶養親族等申告書」を提出しないと、公的年金控除を受けられません。それに加えて、所得税の税率が高くなってしまうのです。一般の所得税の税率が適用され、税率は「10.21%」です。
もう一つ問題点があり、扶養親族等を対象にした控除を受けられなくなります。扶養親族の情報は、「扶養親族等申告書」で申告することで確認されるからです。しかし、書類の提出は、扶養親族のいない方も必要なので注意して下さい。
私的年金(個人年金保険)の税金と納税ルール
老後の生活資金が公的年金だけでは心もとないという方は、私的年金にも加入されていることでしょう。私的年金は生命保険の一種で、加入すると種類別に3つの控除を受けられます。しかし、やはり私的年金も受け取るときには、公的年金と同様に課税されるのです。
ただ、私的年金の場合は、受取人が違うと発生する税金が変わってきます。年金受取人が契約者(保険料を支払う人)と同じ場合と、年金受取人が契約者と異なる場合の2パターンです。
契約内容 | 税金の種類 | 該当する例 |
①契約者と受取人が同じ | 所得税 | 契約者 : 夫、受取人 : 夫 |
②契約者と受取人が違う | 年金受取開始時 : 贈与税 2年目以降の年金 : 所得税 |
契約者 : 夫、受取人 : 妻 |
私的年金は、保険料を支払った人が年金を受け取る時は所得税の対象となります。一方で、年金を受け取る人が別人の時は、受け取り開始時点の年金の評価額に贈与税がかかるのです。加えて、2年目以降の年金受け取りには、初年度の評価額から運用で増えた部分に所得税がかかります。
2つのパターンのそれぞれにかかる税金と計算方法を下記で詳しく解説します。
①契約者と受取人が同じ
本来の年金の受け取り方で、契約者本人が毎年年金を受け取る場合は「雑所得」です。
雑所得は次の計算方法で算出できます。
- 受け取る年金(年額)×払込保険料合計額/年金の総支給見込額=必要経費
- 受け取る年金(年額)−必要経費=雑所得
私的年金では受け取る年金額が総収入(年額)となり、支払った保険料が必要経費です。必要経費は、支払った保険料の合計額と年金の総支給見込みの比率に応じて計算します。
そして、算出された雑所得と公的年金などの他の所得がある場合、全て合算した金額が課税対象です。
②契約者と受取人が違う
私的年金の契約者と年金の受取人が違う人の場合は、年金を受け取る人が契約者から年金を受け取る権利を贈与されたとみなされてしまいます。こういった場合に「贈与税」がかかるのです。
贈与税は、年金受け取り開始時の段階で今後受け取ることができる年金受給権の評価額に対してかかります。課税対象となる年金受給権評価額は「解約払戻金」・「一括で受け取る場合の金額」・「予定利率等を基に計算した金額」の中で最も大きい額です。
また、贈与税には基礎控除があり、受け取る私的年金額から110万円が控除されます。したがって、110万円までは非課税です。
贈与税額は次の計算式で算出できます。
- (年金受給権評価額 − 基礎控除110万円)× 税率 – 控除額 = 贈与税額
年金受給権評価額から基礎控除110万円を引いた金額が課税価格です。そして、計算式の税率と控除額は、下の基礎控除後の課税価格ごとに定められた表を使用します。
【贈与税の速算表】
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | − |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
【参考 : 国税庁、No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)】
贈与税がかかるのは、年金の受け取り開始時に年金受給権が贈与されたとみなされた初年度だけです。
2年目以降は所得税のみが対象となります。初年度で税金を支払った部分(年金受給権評価額)には課税されず、課税の対象となるのはそれ以上の金額があった場合です。
年金を受け取る「年齢」にも注意!
公的年金控除は、【公的年金の税金】のところで説明した通りで一律ではありません。年齢によって控除額が変わり、「65歳未満」か「65歳以上」で計算方法が違うのです。
「65歳未満」で年金を受け取るとすると、「65歳以上」で受け取る場合と比べて税額が多くなってしまいます。上記の【公的年金等に係る雑所得の速算表】を見ても、控除額に大きく違いがあるのがお分かりでしょう。
ただ、現在の公的年金の支給開始年齢は、原則65歳以上です。60歳から年金を受け取りたいという場合は、繰上げ支給となります。繰上げ支給は年金の支給額が減ってしまうだけではなく、税額も多いです。
どうしても必要な場合を除いて、年金は65歳以上から受け取るようにしましょう。
年金受給者に確定申告が必要なケース
これまでは会社が年末調整をしてくれていた為、確定申告をする必要はありませんでした。しかし、定年退職して年金をもらうようになると、確定申告が必要なときは自分で行わなくてはなりません。
年金受給で確定申告がどのような場合に必要になるのか、学んでおきましょう。
「確定申告不要制度」の条件を外れる場合
高齢者には細かい計算が必要となる確定申告は、大きな負担になります。その為、年金受給者の負担を減らすように、「確定申告不要制度」という制度が用意されているのです。この制度で多くの年金受給者は確定申告をしなくても済むようになっています。
確定申告不要制度の対象となるのは、以下の2つの条件を同時に満たす場合です。
- ①公的年金等(国民年金・企業年金・国民年金基金・共済年金など)の合計額が400万円以下。これらの公的年金等の全てが源泉徴収の対象となっている。
- ②公的年金等以外の所得金額(給与所得・公的年金以外の雑所得・譲渡所得・不動産所得・一時所得など)の合計額が20万円以下。
①、②を詳しく解説します。
①公的年金等の合計額が400万円以下
ほとんどの方は該当するのではないでしょうか。現役時代に相当な高給で無い限り、なかなか公的年金だけで400万円は超えません。
また、公的年金だけですので私的年金を入れないように注意して下さい。同じ年金ですが、あくまで公的年金だけの金額です。
公的年金の受給額が「確定申告不要制度」の対象となるかどうかは、公的年金等の源泉徴収票で確認するのが1番です。毎年1〜2月に日本年金機構や企業年金の担当者から確定申告向けの書類が、年金受給者に送られてきます。
公的年金等の源泉徴収票にある「支払金額欄」の金額が、400万円以下であるかを確認しましょう。企業年金の受給などで公的年金等の源泉徴収票が複数あるときは、すべての「支払金額欄」を合計して下さい
②公的年金等以外の所得金額の合計額が20万円以下
こちらは対象外の方も多くおられるでしょう。年金をもらいながら、アルバイトや投資などで他の所得を得ている人を多く見かけるからです。
公的年金以外の所得には以下のようなものがあります。
- 給与所得(再雇用・アルバイト)
- 雑所得(私的年金)
- 譲渡所得(株などの投資)
- 不動産所得(家賃収入)
- 一時所得(満期保険金)
これらの収入がある場合は、収入金額を所得の種類別に分けて所得を計算します。そして合計で20万円を超えている場合は確定申告が必要です。
合計額が20万円以下の場合、確定申告は要りません。ただし、住民税の申告は必要です。
源泉所得税が天引きされている場合
ここでは、確定申告が必要とまではいかないケースで「した方が得をする」ケースを紹介しておきましょう。確定申告不要制度の対象者でも税金が還付される場合があるからです。
年金も一定額以上で支給額から源泉所得税が天引きされます。確認するには、公的年金等の源泉徴収票を見て下さい。「源泉徴収税額」の欄に記載があれば、年金を受け取る前に源泉所得税が天引きされています。
確認して天引きされていなければ、還付金は無いので確定申告の必要も無いです。
しかし、もし天引きされていて以下の項目のどれか1つにでも該当した場合は、確定申告で所得税が還付される可能性があります。税金を払いすぎている可能性があるので、確定申告をして払いすぎた税金を取り戻しましょう。
- 生命保険料を支払った場合
- 地震保険料を支払った場合
- 国民健康保険料を支払った場合
- 公的年金の「扶養親族等申告書」を提出していない場合
- 家族の医療費を年間で10万円以上支払った場合
- 住宅ローン控除を受ける場合
- ふるさと納税など寄付金控除を受ける場合
年金の税金計算シミュレーション
公的年金等にかかる税金の計算例を2つのパターンで挙げてみます。
62歳、公的年金等の収入合計が200万円の場合の所得税額
公的年金等に係る雑所得
200万円×0.75−37万5千円=112万5千円
他の所得控除が無い場合
112万5千円−0円=112万5千円
所得税額(復興特別所得税含む)
112万5千円×5%×102.1%=57,431円(小数点以下切り捨て)
66歳、公的年金等の収入合計が200万円の場合の所得税額
公的年金等に係る雑所得
200万円−120万円=80万円
他の所得控除が無い場合
80万円−0円=80万円
所得税額(復興特別所得税含む)
80万円×5%×102.1%=40,840円(小数点以下切り捨て)
このように、同じ金額の年金を受け取っても「65歳未満」と「65歳以上」では年間の所得税に差が出ます。この計算例では、57,431円−40,840円=16,591円の差です。
もちろん、適用できる所得控除があれば、その分課税所得も圧縮されるので税金もさらに下がります。
年金の税金まとめ
公的年金と私的年金にかかる税金の違いや、年齢・収入に応じて控除額が変わってくるなど、年金の税金は意外とややこしいものです。
しかし、自分の年金収入・所得控除等をひとつひとつ確認して、上に挙げたような計算式に当てはめて下さい。そうすれば、自分の年金収入にかかる課税額もきちんと分かるはずです。
医療費控除など、「還付を受けられたのに知らなかった」ということもあります。場合によっては確定申告が必要になるかもしれませんので、日頃から所得等の記録をつけておきましょう。
資金管理を他人任せにせずに、しっかり自分で把握することで安定した老後のライフプランを立てられます。