2,000万円の退職金、税金はいくら?退職所得の納税シミュレーションとその仕組み

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退職金は税法上では「退職所得」となっています。退職金とはいえ所得なので所得税、住民税がかかってくるのです。

ただ、退職金にかかる税金は他の所得より優遇されています。理由は、長年の功労の対価と、老後の生活に対する一時金という2つの意味合いがある為です。

長い間働いてやっともらえた退職金。実際に税金でどれくらい引かれるのかとても気になりますよね。定年で退職金をもらった場合は、老後の生活の大切な資金になるのですから。

そして、退職金は受け取り方によっても、かかる税金が変わってくるのでよく理解しておきましょう。

退職金の税金の仕組み

退職金には所得税と住民税がかかると説明しました。よって、退職金のうち、受け取れる金額は総額から所得税・住民税を引かれた額です。

また、通常の住民税は前年の所得に対しての課税ですが、退職所得では所得税と同様に退職金を受け取る時に住民税が特別徴収されます。これが「現年分離課税」というものです。

そして、退職金は「分離課税」と「退職所得控除」という2つで、支払う税金がかなり下がる仕組みになっています。

ここでは、それぞれの仕組みを詳しく解説します。

退職金は分離課税方式

分離課税とは、特定の所得を独立した課税標準として課税することです。税金を課せられる全ての所得のうち、特定の所得を他の所得とは合算せずに計算します。

退職金は分離課税が認められている為、税額を他の所得と区分して計算できるのです。

一般的に、所得税の計算は所得金額が大きいほど段階的に税率が高くなります。これを超過累進課税率と言い、退職金を他の所得と合算してしまうと支払う税金も多くなってしまうのです。

したがって、分離課税の方が総合課税よりも有利だと言えます。

退職所得控除額は1,500万円

退職所得控除額とは、退職金にかかる所得税を計算する時に、勤続年数に応じて給付額から控除できる金額のことです。そして、残りの金額の2分の1に対して税率を掛けて計算します。

例えば、勤続30年で2,000万円の退職金を受け取ったとします。この場合、2,000万円から差し引く退職所得控除額は1,500万円です。そして、残りの500万円を2分の1にした250万円に対して税率が掛かります。

退職所得の計算方法

退職金にかかる税金は退職金の総額に掛かるわけではありません。「退職所得控除」、「2分の1課税」によって計算された金額にかかるのです。この計算された金額が「退職所得」となります。

退職金は、人によって貰える金額が違います。それに、勤続年数も人それぞれです。したがって、個別に計算するしか方法がありません。

ここでは、退職所得や所得税・住民税の計算方法について詳しく解説します。

自分が払う税金をしっかり計算して、今後のライフプランに役立ててください。

退職所得の計算方法

退職所得の金額は、基本的に次のように計算します。

  • (退職金の総額 − 退職所得控除額)×2分の1=退職所得の金額

所得税と住民税は、この計算式で求められた退職所得の金額に対して課せられます。

※勤続年数が5年以下の法人役員等が退職金を受け取る場合、退職所得の計算式で2分の1を適用しません。退職金の総額から退職所得控除額を引いたものが退職所得の金額となります。

所得税と住民税

退職金に課せられる税額を計算する時は、原則として分離課税です。退職所得の金額だけに掛かる所得税と住民税を計算します。それぞれの計算方法を解説していきましょう。

所得税の計算方法

所得税は超過累進課税率で計算されますので、所得金額により所得税額が変わります。課税される所得金額で計算されたものが基準所得税額です。

退職金の所得税額を求める計算式は以下の通り。

課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

【参考 : 国税庁、No.2260 所得税の税率

さらに、平成25年分の所得税からは復興特別所得税というものが適用されています。これは、平成23年12月2日の東日本大震災からの復興の為に実施しているものです。復興特別所得税として、平成25年から平成49年までの基準所得税額に2.1%を課税されます。

よって、復興特別所得税を加えた所得税の計算式は次の通りです。

  • 基準所得税額 × 102.1% = 退職金に課される所得税額

住民税の計算方法

住民税には2つの地方税が含まれています。都道府県税率と市区町村税率です。それぞれの割合と合計の税率は次の通りになります。※標準税率以外を適用している自治体もあるので注意が必要です

  • 都道府県税率(4%)+ 市区町村税率(6%)= 住民税の税率(10%)

そして、住民税の税率から求める、退職金に掛かる住民税の計算式です。

  • 退職所得の金額 × 税率10% = 退職金に課される住民税額

退職所得控除額とは?

計算の仕方は2通りで、勤続年数が20年以下の場合と勤続年数が20年超の場合です。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
20年超 70万円 ×(勤続年数 – 20年) + 800万円

勤続年数1年未満の端数は切り上げになり、数日でも1年と計算します。また、退職所得控除額の最低額は80万円です。計算した金額が80万円未満の場合でも、80万円の控除が受けられます。

障害者となった事が原因で退職した場合は、上記で計算した金額に100万円を加算した金額が退職所得控除額です。

そして、死亡退職の場合は退職金に所得税はかかりません。しかし、死亡退職の退職金は遺産として扱われ、相続税がかかります。死亡退職金を相続する時は、法定相続人1人当たりの控除額が500万円です。

「退職所得の受給に関する申告書」について|退職先へ提出が必要!

「退職所得の受給に関する申告書」とは、退職金が支給される際に勤務先へ提出する書類のことです。「退職所得の受給に関する申告書」を提出していると、勤務先が退職所得に応じた所得税額・復興特別所得税額を計算して源泉徴収してくれます。自分で確定申告をする必要は無いです。

もし、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出するのを忘れた場合は、支給時に一律で20.42%の所得税額が源泉徴収されてしまいます。計算すると、提出した場合と比べて納める所得税額が大きく違うのが分かるでしょう。

しかし、安心して下さい。「退職所得の受給に関する申告書」の提出を忘れて税金を納め過ぎてしまっても、確定申告をすることで所得税額の還付を受けられます。

ただ、納め過ぎた税金が戻ってくるとは言っても、自分で確定申告するのは不安ですよね。スムーズに退職金を受け取る為にも、「退職所得の受給に関する申告書」は忘れずに勤務先へ提出しましょう。

また、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出してあったとしても、さらに差し引ける所得控除があるなら確定申告をしたほうが有利になります。勤務先では所得税と住民税を退職所得の計算式で引いてくれるだけだからです。

所得控除は14種類あって、所得から差し引くことが出来ます。次に出す2例は、確定申告で差し引ける可能性がある場合です。

  • 給与所得・事業所得・不動産所得など、他の所得から差し引ききれなかった所得控除がある
  • 給与所得と退職所得が支給される年度が違ったので、退職所得から差し引く所得控除がある

退職金の納税額シミュレーション

これまで、退職金の納税の仕組みや計算方法について解説してきました。ここでは、例を挙げてシミュレーションしてみましょう。

以下はいずれも、退職所得申告書を提出している場合とします。

12年勤務、退職金が500万円の場合

退職所得控除額

40万円×12年(勤続年数)=480万円

退職所得の額(課税対象額)

500万円−480万円×1/2=10万円

所得税額(復興特別所得税含む)

10万円×5%×102.1%=5,105円

住民税額

1万円(都道府県民税=10万円×4%=4,000円。市町村民税=10万円×6%=6,000円)

25年勤務、退職金が2,000万円の場合

退職所得控除額

70万円×(25年−20年)+800万円=1,150万円

退職所得の額(課税対象額)

2,000万円−1,150万円×1/2=425万円

所得税額(復興特別所得税含む)

425万円×20%×102.1%=86万7850円

住民税額

42万5000円
(都道府県民税=425万円×4%=17万円。市町村民税=425万円×6%=25万5000円)

退職金の「受け取り方」にも注意!

退職金の受け取り方には3パターンがあります。全額を一括で受け取る「一時金のみ」、何年かに分けて受け取る「企業年金」、あとは「一時金と年金の組み合わせ」です。受け取り方が選べるかどうかは企業により異なります。

しかし、受け取り方によって退職金に掛かる税金が変わってくるのはご存知でしょうか。一時金で受け取れば「退職所得」、分割で年金として受け取れば公的年金と同様に「雑所得」として扱われるので税金の計算方法が変わります

ここでは、分かりやすく「一時金で受け取る場合」と「年金として受け取る場合」の2つの違いについて解説しましょう。

退職一時金で受け取る場合

「退職所得」として受け取る最大のメリットは、他の所得と合算せずに税額を計算する「分離課税」だということです。税負担が軽くなるように配慮されていますが、他にも2つのメリットがあります。

  • メリット①:「退職所得控除」が適用される
  • メリット②:社会保険料が優遇される

一方で、次の2点が一時金で受け取るデメリットです。

  • デメリット①:まとまったお金が入って気持ちが大きくなる
  • デメリット②:総額が年金で受け取るよりも少なくなる場合がある

以下で、メリット・デメリットについて詳しく解説します。

メリット①:「退職所得控除」が適用される

「退職所得控除」が適用されて所得税が優遇されるのは、「退職所得」で一時金として受け取るからです。そして、「退職所得控除」の額は長く勤めるほど多くなります。

この大きな税制優遇が、退職金を一時金で受け取るメリットです。

メリット②:社会保険料が優遇される

全額を一時金として受け取ると、健康保険・雇用保険・厚生年金保険等の社会保険料がかかりません。また、前年度の所得が対象となる国民健康保険の計算からも対象外です。退職後に国民健康保険に加入する場合も配慮されています。

このように、社会保険料の面でも優遇されているのがメリットです。

デメリット①:まとまったお金が入って気持ちが大きくなる

やっぱりまとまった金額を手にすると、気持ちが大きくなって無駄遣いをしてしまいかねません。老後の大切な生活資金となるので、しっかりとした資金管理対策で気持ちを律する必要があります。

投資などにも注意しなければいけません。

デメリット②:総額が年金で受け取るよりも少なくなる場合がある

長期的に見た場合に、ある時点から退職金の受け取り総額が年金受け取りよりも少なくなる可能性があります。これは、会社が一定の運用利率で年金を運用しているので、その運用収益を得られる為です。

年金として受け取る場合

年金として分割で受け取る場合は雑所得となり、年金の収入金額に対して「公的年金等控除額」が適用されます。そして、所得税額は公的年金等と合算しての計算です。

公的年金等の収入金額 公的年金等に係る雑所得の金額
65歳未満の方 70万円以下 0円
70万円超130万円未満 収入金額−70万円
130万円以上410万円未満 収入金額×0.75−37万5千円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85−78万5千円
770万円以上 収入金額×0.95−155万5千円
65歳以上の方 120万円以下 0円
120万円超330万円未満 収入金額−120万円
330万円以上410万円未満 収入金額×0.75−37万5千円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85−78万5千円
770万円以上 収入金額×0.95−155万5千円

【参考 : 国税庁、高齢者と税(年金と税)

分割で受け取れる期間は、退職金の制度により終身・20年・10年等と様々な期間があります。年金として受け取る場合のメリットとデメリットを見てみましょう。

  • メリット①:運用収益を得られる
  • メリット②:計画的にお金を使える

デメリットも同様に2点あります。

  • デメリット①:一時金のような税優遇が無い
  • デメリット②:一定時期まで受け取る金額が一時金より少ない

以下で、メリット・デメリットについて詳しく解説します。

メリット①:運用収益を得られる

年金受取りのメリットは、会社が一定の利率で運用を行うので運用収益を得られることです。運用利率は、多くの会社では2%程度を設定して運用しています。個人での運用では2%の成果を出し続けることは難しい為、年金受け取りでの運用収益は大きいです。

そして、運用収益のおかげで、一定年齢を過ぎると一時金よりも受け取る金額が多くなる可能性があります。長生きをすればするほど得をする受け取り方法です。

メリット②:計画的にお金を使える

年金として定期的にお金が振り込まれる為、計画的なお金の使い方ができます。定期収入で生活が安定するのがメリットです。

デメリット①:一時金のような税優遇が無い

年金受け取りは雑所得として、所得税・住民税の課税対象となります。また、社会保険料や介護保険料計算の対象になる点もデメリットです。

一時金のような税金の優遇が無く、長期間に渡って課税が継続されることを頭に入れておきましょう。

デメリット②:一定時期まで受け取る金額が一時金より少ない

分割で支給されるので、どうしても一定時期までは受け取る金額が一時金より少なくなってしまいます。運用収益があったとしても、税金や社会保険料の負担もあるので仕方がありません。

その他、会社が破綻した場合や、本人が死亡した場合などが退職金の種類によって変わってくるので事前に確認しておく必要があります。

まとめ|退職金の次は年金の税金を学ぶ

退職金の税金について理解は深まったでしょうか。退職金の税金は定められた計算方法と税率で計算するようになっているので、算定された金額を納付するだけです。

しかし、退職金の受け取り方では一時金と年金、それぞれのメリットとデメリットがありました。どちらを選ぶかという事で、今後の資金管理を考える良い機会になった方もおられるでしょう。退職金の受け取り方だけでも老後の生活に大きな影響があります。

また、もう1つ老後の生活に欠かせないものが年金です。現在、年金は一部の特例を除いて65歳からが支給開始年齢となっています。ただ、ご存知の通り支給開始年齢の引き上げが議論されているのも事実です。

年金のこういった話を聞くと不安に思われる人もいます。しかし、国の年金制度は世間で言われているよりも手厚くなっているので心配は要りません。それに、実際に支給開始年齢が引き上げられるとしてもまだまだ先の話です。

今のうちから年金制度の仕組みを学び、どういう状況になったとしても困らないように対策を考えておきましょう。

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