投資信託で「売り時」を逃さないための解約戦略|一部解約による資産リバランスもあり

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投資信託は長期保有が原則である資産運用の1つです。理由として、投資信託を売買するときに発生する手数料があげられます。頻繁に投資信託の売買を行うと手数料がかさみ、結果として投資信託の運用成績がマイナスとなってしまいます。

投資信託で損をしないために、特に気を付けなければならないのが「解約時期」です。一部例外を除いて投資信託はいつでも解約することができますので、投資家が投資信託を解約するためのルールを自分で定めておけば、「解約時期」を見誤ることは少なくなるでしょう。

今回は投資信託の「解約時期」や、投資信託を解約するときの仕組みについて、具体例を挙げて解説していきます。

投資信託ではなぜ「解約時期」が重要なのか?

冒頭で紹介したように投資信託は売り買いを頻繁に行うと手数料がかさみ、結果として損をしてしまいます。商品にもよりますが、投資信託では年単位での保有が一般的です。基準価格の上下に心を囚われて右往左往するのではなく、どっしりと腰をすえて投信信託の運用をするように心がけましょう。

しかし腰をすえすぎて、運用成績が下がり続けている商品に投資を続けては元も子もありません。次から紹介していく、投資信託の「解約時期」と照らし合わせて、適切なタイミングで解約を行いたいところです。

投資信託の売り時(解約時期)はいつがおすすめ?

それでは具体的な「解約時期」を紹介していきます。次から紹介していく「解約時期」を1つずつ確認し、自分の中へ落とし込みましょう。基準価格の上下に一喜一憂し、解約タイミングに頭を悩ますことは少なくなります。

自身の投資ルールから価格が大きく変動した場合

1つ目は「自分の投資ルール」から当該商品の運用成績が大きく変動した場合です。

それでは「自分の投資ルール」とは一体どのようなことかと言うと、それは「リスク許容度」という言葉に変換することができます。

「リスク許容度」とは投資を続けるうえで、1年間にどの程度までの損失に耐えられるかを示した数値です。具体的な〇〇万円という金額から、〇〇%という百分率で表します。

「リスク許容度」ですが、明確な数値は存在しません。なぜかというと、年齢や性別、家族構成、就労形態などにより、投資を続けるうえで1年間にどの程度までの損失に耐えられるかが異なるからです。

仮に20代や30代の方であれば、投資で損失が発生したとしも挽回の見込みがありますが、60代や70代の方ではそういったわけにはいきません。もし「リスク許容度」について明確な指針がないのであれば、お金の収支状況をあらためて確認し、自分だけの「リスク許容度」を定めておきましょう。

そして「リスク許容度」を超えて損失を続ける投資信託は、解約時期にあると言えます。「もしかしたら、いずれ基準価格が上がるかもしれない」という誘惑に心を動かされて、なかなか解約に踏み切れないかもしれません。しかし「リスク許容度」を超えた時点で、その投資信託は「自身の投資ルール」に沿ったと言い難い商品です。後ろ髪を引かれる気持ちはわかりますが、当該ファンドは潔く解約しましょう。

購入した投資信託のブームや将来性に懸念を覚えた場合

2つ目が購入した投資信託のブームや将来性に懸念を覚えたときです。

投資信託には「テーマ型ファンド」と呼ばれる商品が存在します。「AI」であったり、「オリンピック」であったり、特定のテーマに該当する業界や企業へ投資を行う投資信託の一種です。「テーマ型ファンド」はテレビのニュースや新聞で目にするテーマが定められており、当該ファンドに組み入れられている企業がどのような業種名のか、わかりやすいということが特徴として挙げられます。

しかし身近に感じる「テーマ型ファンド」は、ブームが過ぎると運用成績が下降する傾向にあります。例えば「オリンピック」の「テーマ型ファンド」は、2020年に開催される東京オリンピック以降、運用成績が上がり続けるとは考えにくいでしょう。

逆を言えば「テーマ型ファンド」はブームが過ぎ去るまでは、一定の運用成績が期待できるということになります。総じて「テーマ型ファンド」は、短期間で売り抜けたい方向けの商品であると、胸にとどめておいた方がよいでしょう。そして短期間で売り抜けるためにも、「テーマ型ファンド」のブームや将来性に疑問を覚えたら、早急に解約することをおすすめします。

現金化が必要となった場合

3つ目は現金化が必要になったときです。

車や不動産の購入など、多額の現金が必要になった場合は解約しても問題ないでしょう。また緊急時の備えに現金が必要になったときに解約するのも選択肢の1つです。具体的には地震をはじめとした、天災に備えるための資金です。

2011年に発生した東日本大震災のときには各種インフラが寸断され、不動産や株式などの流動性の低い資産は現金化することが難しく、現金などの流動性の高い資産をある程度保有していないと、生活資金の確保が困難でした。

いつ訪れるかわからない天災のために、ある程度の資産は流動性の高いものへとしておくことをおすすめします。

そもそもなぜ投資信託の「解約時期」が重要なのか?

人は損をすることに対して強いストレスを感じる生き物です。そして損失が発生する行動に対して、非合理な行動を取ってしまう傾向にあります。このことは不確実性下の意思決定モデルの1つである「プロスペクト理論」にて説明することができます。

本当に人は損失に対して非合理な行動を取ってしまうかどうか、簡単なモデルケースを交えつつ解説していきます。

コイントスをし、結果として以下の金額が手に入るとします。また、ゲームに参加しない場合には、以下の報酬がもらえることとします。

  • 表が出る:10万円もらえる
  • 裏が出る:5万円失う
  • ゲームに参加しない:2万円もらえる

上記のようなゲームを参加するかどうか尋ねられたとき、多くの人はゲームに参加せず2万円をもらう選択を取ります。しかしこの「ゲームに参加しない」という選択が合理的かどうかというと、合理的ではありません。

コイントスで獲得できる報酬の期待値を計算してみると、どの選択が合理的か判断することができます。期待値とは行動によって得られる、報酬の平均という認識で問題ないでしょう。期待値の求め方は以下の通りです。

  • 期待値=獲得金額×確率+損失金額×確率

それでは実際にコイントスにおける格闘賞金の期待値を計算していきます。

  • ゲームに参加する:10万(獲得賞金)×0.5(確率)+(-5万)×0.5=5万+(-2万5千円)=+2万5千円
  • ゲームに参加しない:2万×1=+2万

コイントスでの報酬と期待値をまとめたものが次の表です。

行動 コイントスの結果 報酬 確率 コイントスでの期待値 行動における期待値
ゲームに参加する +10万円 50% +5万円 +2万5千円
-5万円 50% -2万5千円
ゲームに参加しない +2万円 100% +2万円

上記の表にある通り、「ゲームに参加する」と獲得賞金の期待値が2万5千円であるのに対し、「ゲームに参加しない」と獲得賞金の期待値が2万円になってしまいます。いかに、人が損失に対して非合理的な行動を取ってしまうかが、確認できたのではないでしょうか。

「プロスペクト理論」から投資の「解約時期」がどうして重要なのかに話を戻しますと、今まで確認したように人は損失を前にすると合理的な判断を下せなくなります。「もしかしたら基準価格が上がるかも」と考えてしまい、解約できず損失が大きくなってしまうということは珍しいことではありません。損失を最低限にするために「解約時期」が重要なのです。

そして「もしかしたら基準価格が上がるかも」という誘惑に勝つために、今まで紹介してきた解約に関するルールを自分の中であらかじめ定めておきましょう。

投資信託の解約の仕組み

おすすめの解約時期について解説したところで、次は投資信託の解約の仕組みについて解説していきます。

投資信託の具体的な解約手順と方法は、後の項目で解説していきますので、この項目では投資信託の解約時に発生する手数料について、詳しく解説していきます。

投資信託の解約では二種類の費用が発生します。一つ目が「解約手数料」で、もう一つが「信託財産留保額」です。「解約手数料」、「信託財産留保額」はともに目論見書に記載されていますので、投資信託を購入する際には必ず確認するようにしましょう。

一つ目の「解約手数料」ですが、これは解約時に投資信託の販売会社に支払う手数料です。少数ながら「解約手数料」が発生する商品がありますので注意しましょう。

二つ目の「信託財産留保額」ですが、この費用は解約した投資信託を保有している、他の投資家に不利益が発生しないようにするための費用です。

なぜ投資信託を解約すると、他の投資家に対して不利益が発生するかというと、もしあなたが投資信託を解約すると、代金を支払うために当該投資信託の資産を売却ければなりません。そして投資信託の資産を売却するためには手数料をはじめとした費用が発生します。

その手数料は誰が負担するのかというと、それは投資信託を解約する投資家が適当であるということから、「信託財産留保額」が定められているわけです。「信託財産留保額」をあなたが負担する分、他の投資家は不利益を被らずに済みますし、他の投資家が「信託財産留保額」を支払うため、あなたが不利益を被らずに投資を続けられるわけです。

なお一般的に「信託財産留保額」は別途発生するのではなく、基準価格に対し〇〇%という割合で解約代金から差し引きされます。

投資信託の「一部解約」による保有資産リバランス方法

これまで解約時期について解説してきましたので、「一部解約」によるリバランスについてもあわせて解説させていただきます。

「一部解約」によるリバランスとは、時間経過によって変化した資産割合を、想定している資産割合へと調整するために行わなければならない作業のことです。

例えば株式50%、債券50%の割合(ポートフォリオ)で投資信託を購入し始めたとします。一年後基準価格の上下により、投資信託のポートフォリオが株式75%、債券25%になってしまった場合、投資信託を始めたころの割合である株式50%、債券50%の割合に戻さなければなりません。そこで想定している割合から大きくなった株式の25%を「一部解約」する必要があるのです。この一連の作業が「一部解約」によるリバランスです。

投資信託は長期保有が原則であり、株式のように頻繁に売り買いする必要がありません。毎月一定額の投資信託を購入できる「積み立て購入」という購入方法があり、「積み立て購入」をしている方であれば、手間のかからない投資方法の一つと言えるでしょう。

しかし「積み立て購入」で投資信託を購入している方でも、1年に1回程度で問題ありませんので、リバランスを行わなければなりません。年末年始やお盆休みなどのまとまった時間が取れるときに、保有している投資信託のリバランスを行いましょう。

解約時の税金は?課税計算の方法

投資信託を解約した時に利益が発生した場合は基本的に課税対象になり、税金を支払わなければなりません。税率は一律20.315%となっています。課税の対象となるのは、投資信託の解約時に発生した利益(解約益)です。

なお解約益が発生した場合には確定申告を行う必要があります。例外的に特定口座で投資信託を運用し、「源泉徴収あり」にした場合に限り、確定申告は行う必要はありません。確定申告が手間であると考えている方は特定口座を利用し、「源泉徴収あり」にしたほうがよいでしょう。

さて先ほど解約益が発生した場合には基本的に課税対象になると紹介しましたが、例外的に解約益が課税対象外となる場合があります。それは、個人投資家のための税制優遇制度である「NISA(ニーサ)」を利用したときです。

「NISA」として開設した口座を利用し投資信託の運用を行い、発生した解約益は非課税となります。といっても制限なく非課税となるわけでなく、非課税の対象となる期間であったり、投資枠であったり、「NISA」を利用するには一定の決まりがあります。

「NISA」には「積み立て購入」によって投資信託を運用する方向けの、「つみたてNISA」と呼ばれるものがあります。こちらは利用できる商品が限定されているものの、最長で20年間も解約益が非課税となります。「NISA」にしろ、「つみたてNISA」にしろ、非課税の対象になる投資枠が定められているため、少額でコツコツと投資したい方に適した制度と言えます。逆を言えば、多額の資金で投資信託を運用している方は利用できません。自身の投資スタイルと相談し、「NISA」または「つみたてNISA」を利用するようにしましょう。

投資信託を解約する手順と方法

それでは具体的な投資信託の解約手順を解説していきます。今日、投資信託は銀行や証券口座などの窓口、インターネットでも購入することができます。基本的に当該投資信託を購入した場所にて解約を行います。銀行や証券会社の窓口で、投資信託を購入したのであれば購入窓口にて、インターネットで購入したのであれば、購入したインターネットのサイトにて解約が行えます。

インターネットで投資信託を購入した場合には、各サイトに解約手順が記載されています。また「投資信託を購入したサイト名 解約手順」等のキーワードで検索を行っても、解約手順を調べることができます。

いずれにしろ投資信託を解約しなければならなくなったときに、あわてて解約手順を調べることがないように、事前に購入窓口やインターネットで投資信託の解約方法を確認しておくことをおすすめします。

投資信託の解約を行う時にはいくつか注意が必要なことがあります。一つ目が「クローズド期間」が設定されている商品は解約することができない点です。解約時だけでなく、投資信託を購入するときにも「クローズド期間」は設定されているかどうかを確認しましょう。

二つ目は解約したからといって即日、お金が戻ってくるわけではない点です。解約したあとにお金が戻るまで3営業日ほどかかることが一般的ですので、急いで投資信託を現金化したいときには注意が必要です。投資信託の解約は余裕をもって行うようにしましょう。

投資信託の解約時期まとめ

「投資信託」を解約するために定めておくべきルールや解約に必要な手数料、「一時解約」におけるリバランス等について解説してきました。投資信託の解約には、前もって準備が必要なことがあることをおわかりいただけたのではないでしょうか。

投資信託は長期保有が原則ですので解約時期を見定めて、できるだけ解約の機会を少なくすることをおすすめします。どうしても解約しなければならなくなったら、売却金の受け取りには数日間かかりますので、時間に余裕を持ち解約の申し込みを行いましょう。

また個人向けの税制優遇制度である「NISA」や「つみたてNISA」は一定期間、解約益を非課税にすることができますので、投資スタイルと相談し積極的に活用したいところです。

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