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ある人にお金を貸したけれども返済をしてもらえない、といった場合に、強制的に相手から取り返したい…となります。
このような場合に、当然のことながら相手に暴力をふるって相手から回収するような事をすると「強盗罪」となりますので当然に禁止されています。
法律上認められているのは、相手の財産に対して強制執行をすることで行います。
このページでは債権差押の方法についてお伝えします。
相手からお金を取る法律的な方法
お金を払う義務があるにもかかわらず払ってもらえないような場合には、いろんな手を尽くしてみたいものです。
上述もしましたし当然の事なのですが、たとえ債権者であるからといって、債務者のモノを盗めば窃盗罪ですし、暴行・脅迫を用いて奪えば強盗罪になるのが刑法の運用です。
面倒なことではあるのですが、裁判を起こして勝訴した上で強制執行をするというのが法律の秩序に基づいた方法です。
差押えの対象となるのは差押禁止財産以外のすべて
まず、差押えの対象となるのはどのような財産でしょうか。
差押えなどの強制執行に関しては民事執行法という法律が規定をしています。
この法律では差し押さえができる財産はこれです…という規定の仕方よりも、差し押さえできない財産はこれです、という規定をしているので、差し押さえができる財産は「差押ができない財産以外のすべて」ということができます。
そして、民事執行法131条で差押をすることができない動産について、同152条で差押をすることができない債権について、それぞれ定めています。
表現は難しいのですが条文を見てもらえればイメージはつきますので条文をご覧ください
(差押禁止動産)
第百三十一条 次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。
一 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
二 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
三 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
四 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
五 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
六 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
七 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
八 仏像、位牌はいその他礼拝又は祭祀しに直接供するため欠くことができない物
九 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
十 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
十一 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
十二 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
十三 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
十四 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品
(差押禁止債権)
第百五十二条 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。
3 債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。
おおむね生活に必要最小限の財産を規定しており、借金返済をしてくれないなどの場合で、その原因が債務者の方にもはや目ぼしい財産がないような場合には差押ができるようなものがなくなる、と考えておくのが正しいでしょう。
しかし、その中でも、ほとんどの人は給料を得て生活をしていることが想定され、給与に関しては3/4は差押をしてはならないと上記の禁止規定に書いていますが、逆に言うと給与1/4は差し押さえることができるのです。
ですので、いざとなった場合の給与債権の差し押さえについての知識は、持っておくべき知識だといえます。
債権の差し押さえの方法
それでは、給料などの債権差押の方法について見てみましょう。
そもそも債権とは
そもそも債権とはどのようなものかを把握しておきましょう。
債権とは、法律上は人に何かをしてもらう権利の事をいいます。
債権というとイメージしやすいのは金銭債権ですが、債務者の財産を自由にする権利というわけではなく、債務者に金銭をしはらってもらう権利を有しているのです。
つまり、債権は目に見えるものではありませんが、法律上の回収手段を取ることで強制執行ができるということになります。
債権の差し押さえの手順1:債務名義の取得
強制執行についての次の民事執行法の条文をご覧ください
第二十二条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
まず、差し押さえをするためには、「債務名義」というものが必要であるということを知ってください。
債務名義にはたくさんの種類があるのですが、よく利用されるものを解説します。
確定判決
まず、確定判決は債務名義になるとされています。
確定判決というのは、民事訴訟によって勝訴を勝ち取って、その判決が確定したものをいいます。
裁判については「三審制」という制度を取っており、判決に不服があれば原則としてあと2回は上級裁判所での審理をしてもらうことが可能になっています。
確定判決というのは、三度の裁判を終えてこれ以上控訴・上告ができなくなったものや、控訴・上告をせずに期間が経過したため、「勝訴」が確定したものをいいます。
要は、民事裁判を起こして上記の状態になるまで勝ちましょう、ということになります。
これが必要とされているのは、たとえ契約書で債権・債務の内容が記載されたものがあったとしても、その権利が有効がどうかはわかりません。
契約書があれば契約の存在を推認することはできても、契約が有効とえいるためには、ほかにも無効になる原因や、取消になる原因がないといった事など、様々な事情を総合的に考慮しなければなりません。
最終的に契約書にかかれた内容の権利があるかどうかについては、裁判所に決めてもらうしかないので、まずは一旦裁判所に、契約書に記載された内容の権利は有効であると宣言してもらう必要があります。
このページでは確定判決のみを取り扱いましたが、請求内容次第では他の簡易な裁判手続きなどもあり、そういったものも簡易ではあっても権利の内容について裁判所の正式な判断を経ているものなので、同様に債務名義になります。
調停調書・和解調書
民事上の争いについては、裁判をしなくても当事者間で話し合うことで解決することもあります。
話合いの方法として裁判所を利用した話合いをすることもあり、裁判所を利用した話合いの手段として調停・裁判上の和解というものがあります。
調停は、裁判所において当事者が相互に裁判官を含む調停員という仲介をしてくれる人を間にたてて話合いをするもので、離婚などの家事事件においては裁判をする前に必ず使うようになっています。
裁判上の和解は、民事裁判の最中でも裁判官は当事者間に和解をすることを促すことができ、これに応じて当事者が和解をした場合には、裁判上の和解とします。
参考:民事訴訟法
(和解の試み)
第八十九条 裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。
調停や裁判上の和解をした場合には、それらの合意については裁判上の和解と同じ効力を持つとされています。
参考:
民事調停法
(調停の成立・効力)
第十六条 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
民事訴訟法
(和解調書等の効力)
第二百六十七条 和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。
「確定判決」は争いがあるものについて正式な判断をしたことにより、争っている内容を確定するものですが、裁判所の関与もとで当事者が決めたことなのであれば、同様の効力を与えるとしても良いとしているのがこの規定です。
公正証書
一般の人であれば利用することはまずないのですが、もし商工ローンの利用などをしている場合には債権の差し押さえをされる可能性があるものとして知っておいていただきたいのが「公正証書」についてです。
借金の契約書(金銭消費貸借契約書)の作成時に、公証人役場というところに依頼をして「公正証書」という書類によって契約書を作成する場合があります。
そのことでどのようなメリットが貸主にあるのかというと、執行証書というものがついている公正証書については債務名義になるということです。
それが何を意味するかというと、裁判をしないで執行が可能になる、ということです。
執行裁判所に申立を行う
債務名義を取得したら、執行裁判所に申し立てを行います。
強制執行専門の裁判所の窓口があり、そちらに申し立て書類と添付書類を添えて申立をすることになっています。
申立書類の記載例とどのような書類の添付が必要かについては、東京地方裁判所のホームページに例があるのでこちらが参考になります。
その後の手続きについて大まかに申し上げますと、債権は第三者に対して何かを請求する権利ですので、裁判所からその第三者(第三債務者という言い方をします)に対して、債権を差し押さえた旨の通知が送付されます。
給与を差し押さえる場合には、差し押さえ対象となるのは給与債権で、給与債権の第三債務者は会社になるので、裁判所から会社に対して通知がおくられます。
この通知が送られると、第三債務者は裁判所に対して支払いをすることになるので、支払いを受けた裁判所が債権執行の申立人に対して配当をするという形で行うことになります。
どの専門家に依頼するのか
ここまで見てもらえばわかるとおり、前提として裁判に勝たなければいけない上に、差し押さえを必要とする局面では債務者の財産を探す必要があったりするので、何の情報もないような場合に一般の人がおいそれと手続きをするめるのは難しいというのが実情です。
そこで、専門家に依頼するのが通常なのですが、どの専門家に依頼すべきなのでしょうか。
民事訴訟を含めた債権回収については、弁護士法所定の法律事務とされており、弁護士以外の人がこれを有料で依頼をうけて請求することはできません(やった場合には刑事罰の対象になります)。
参考
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
第七十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
三 第七十二条の規定に違反した者
上記のように法律に特別な定めがある場合にはよく、訴額が140万円を超えない請求に関しては、司法書士の中でも「特定司法書士」という特別な資格を持っている方に依頼は可能です。
参考
司法書士法
(業務)
第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
六 簡易裁判所における次に掲げる手続について代理すること。ただし、上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定又は命令に係るものを除く。)、再審及び強制執行に関する事項(ホに掲げる手続を除く。)については、代理することができない。
イ 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定による手続(ロに規定する手続及び訴えの提起前における証拠保全手続を除く。)であつて、訴訟の目的の価額が裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
ホ 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第二章第二節第四款第二目の規定による少額訴訟債権執行の手続であつて、請求の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
裁判所法
第三十三条(裁判権) 簡易裁判所は、次の事項について第一審の裁判権を有する。
一 訴訟の目的の価額が百四十万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)
まとめ
このページでは、給料の差し押さえの方法についてお伝えしてきました。
前提としてほとんどのケースで民事で裁判を提起する必要があるのに加えて、執行裁判所への申立行為を必要としています。
2つの裁判所での手続きを経ているため、すべての条文知識をお伝えするのは困難ではあるのですが、このページでお伝えした概略を頭に入れておいていただいた上で、専門家を利用したり、裁判所の窓口やホームページの情報を集めて独力で行うことも不可能ではありません。