元債務整理事務職員が教える、生活保護を利用する場合の債務整理・自己破産はどうなる

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たとえば病気や怪我をした場合、仕事を休む必要があるような場合があったり、場合によっては仕事を辞めざるを得なくなるような場合もあります。

雇用保険や傷病手当、障害年金などの対象になった場合にはなんとか生活ができるかもしれませんが、そういった保障が受けられなくなった場合には生活をしていくこともままならないことになります。

その場合には生活保護の利用を検討することにもなりますが、生活保護を受ける前に借入をしてしまった場合には、生活保護が債務整理にどのような影響をするのか、また逆の生活保護を受けていることが債務整理や自己破産とどのように関係してくるのでしょうか。

このページでは、生活保護と自己破産などの債務整理についての関係をお伝えします。

債務整理の概要

まず、そもそも「債務整理」というものと「自己破産」の関係を見ておきましょう。

債務整理の概要

貸金業者から借金をするときには「金銭消費貸借契約」を締結することになり、金銭を受け取ることができる反面、返済をする義務を負います。

また個人から利息をつかないような金銭の借り入れをした場合には「使用貸借契約」という契約が結ばれたことになり、返済をする義務を負います。

金銭の返済などの義務のことを法律上「債務」と呼び、借金を返済するなどの債務の内容を実行することを「債務を履行する」と法律上は言うのですが、個人の場合には病気や怪我で収入が途絶えるなどで借金が払えないなどして、債務の履行が難しくなる・できなくなるということはあります。

そのような場合に、経済的な再生を目指して、法律上の救済手続きをするのが「債務整理」です。

「債務整理法」というような法律があるのではなく、自己破産・個人再生・任意整理といった救済手段をまとめたものを「債務整理」と呼んでいると理解してください。

弁護士・司法書士に依頼をすると、返済をストップすることができる、銀行・消費者金融といった貸金業者は債務者に取り立てをしなくなる、という金融実務が定着しているので、弁護士・司法書士に依頼をして行います。

自己破産手続きの概要

自己破産手続きとは、支払いができなくなっていると認定される場合に、裁判所に申し立てをして、債権に関する調整を行った上で、債務者の借金を免責する手続きのことをいいます。

破産法という法律にもとづくこの手続きは他の債務整理手段に比べて、借金返済の義務そのものがなくなりますので、強力な債務整理手段です。

任意整理手続きの概要

任意整理は、貸金業者と個別に返済の調整をする交渉を行って、借金完済に向けて有利な条件に訂正してもらって返済をしていく手続きです。

交渉とありますが、金融実務上は取り扱いはほぼ決まっており、基本的には元金を36回(3年)の分割返済にしていく手続きです。

元々借金には、通常時は利息、延滞しているような場合には遅延損害金、をつけて支払っていかなくてはなりません。

任意整理では、将来利息をつけない元金のみの支払いにしてもらって、未払いの利息や遅延損害金については免除してもらい、分割して支払うようにしてもらうことができるようになります。

個人再生

個人再生は、借金の返済ができなくなってしまっているおそれがある場合に、裁判所に申し立てをして、返済金額を1/5程度に圧縮してもらって最長36回(3年)の分割返済にしてもらう手続きです。

任意整理は支払い条件について楽になるとはいえ、それでも元金の返済はしなくてはならず、基本的には36回以上の分割弁済は認められないのが現状です。

そのため、36回以上の分割をしなければ支払えない程度の収入しかない場合には、自己破産手続きを利用しなければなりません。

しかし自己破産手続きを利用する際には、

  • 債権者全員に手続き参加してもらう必要があるため、住宅ローンがある場合には必ず住宅を手放さなければならない
  • 警備員・宅建業などの他人のお金を預かる資格については職業につけなくなってしまう

という不都合があります。

個人再生では、職業制限にひっかかることなく、また住宅ローン債権者だけを別にして借金を圧縮することができます。

そのため、住宅ローンを支払っていて家を維持したい、職業制限がある、といった方で任意整理ができない場合に個人再生を利用することになります。

生活保護を受ける場合の債務整理

それでは、生活保護を受ける場合には、どのような債務整理をすることになるのでしょうか。

そもそも、生活保護は憲法25条で保障されている最低限の生活を受ける権利という内容を実現するもので、そこで支給される金銭などは、最低限の生活を維持するという目的のものです。

最低限の生活を維持するというのは、衣・食・住といった生きていくためのもので、過去にした借金の返済はここには含まれません。

そのため生活保護で支給された金銭で返済をすることは認められていません

Expert
もし返済をしているのが民生委員や役所に知られると、「あなたにとって生活に必要な最低限はもっと低くて良さそうですね」という判断がされ、その分支給される金銭が減らされる可能性があります。

つまり、債務整理の方法の中でも任意整理・個人再生は利用できない、という事になります。

そのため、自己破産手続きの利用が基本となります。

Man
生活保護を受ける場合には個人再生を使って住宅を維持できないのですか?
Expert
住むための金銭の支払いと考えると同じかもしれませんが、住宅ローンは完済すると資産としての住宅が手に入ります。生活保護のお金を使って住宅を手に入れる、というのは認められないというのはできません。そのため個人再生は利用できないのです。賃貸をする場合には規定の範囲内の賃料の賃貸物件にうつって生活をしていくことになります。

自己破産手続きを利用する場合には弁護士・司法書士に依頼する必要があり、弁護士・司法書士に依頼するには費用の支払いが必要になります。

この自己破産の費用は事務所によるのですが、分割での支払いを認めてくれるのですが20万円40万円程度支払う必要があります。

しかし、自己破産手続きを利用するにあたって、法テラスという国から支援を受けている機関が行っている「民事扶助」を受けると、費用が安くなる上に法テラスが立て替えてくれます。

世帯の所得次第になるのですが、月5,000円程度の支払いにしてもらったり、生活保護を受けている世帯では法テラスが立て替えてくれた費用を免除してもらえることになっています。

ただし、借り入れの原因が浪費やギャンブルであるなどして免責不許可事由があったり、自営業などをやっていたような場合には、少額管財という管財人という人が裁判所から選任される正式な手続きになるため、管財人に対して予納金の積立をしなければなりません(東京地方裁判所管轄で最低20万円程度)。その金銭の負担はする必要があるので、注意をしましょう。

債務整理手続きへの生活保護の影響

逆に、自己破産等の債務整理手続きをしたら生活保護にどのような影響を与えるのでしょうか。

Expert
結論といって、債務整理をしたからといって生活保護を受けられなくということはありません。

まず、生活保護を受けることができる人は、生活をするためにあらゆる手をつくしたけれども、生活が困窮してしまっている人をいいます。

 

そして、自己破産や個人再生・任意整理をした人は生活保護を受給できなくなる、という法律の規定もありません。

自己破産との関係

上記のように、生活保護を受給しないと生活がなりたたなくなっているようなケースでは、借金返済をすることは基本的にできません。

Expert
あってはならない事なのですが、生活保護を取り扱う役所の中には、借金返済に回されることを回避するために、「借金をしている人は生活保護を受けられない」と口頭では伝えているところもあります。そのような措置が違法だというようなことかで争うよりも、生活保護自体に審査などで多少時間がかかることもありますので、すみやかに自己破産手続きに着手して返済しないことを明らかにしたほうが良いでしょう。

また、過去に自己破産をしていた事があり、その時は生活保護を受けなくてもよかったけれども、今は生活保護を受けなければならなくなったような場合でも、問題なく生活保護自体はうけることができます

 

個人再生・任意整理との関係

個人再生や任意整理との関係において、個人再生・任意整理で支払いをしている人が生活保護の受給をする場合には、受給した金銭を返済に回してはいけないという事に注意が必要です。

この場合、残った債務がわずかの場合でも、わずかな債務についての自己破産手続きをあらためて行うことになります。

生活保護の窓口の対応や、役所・民生委員といった人たちとの連動も必要なので、早めに弁護士・司法書士に相談をすることをお勧めします。

生活再建に向けて

不動産いつから4

当然なのですが、自己破産をして生活保護を受ければ終わり…というのではなく、生活再建のための行動をしなければなりません。

いくつかの事例とともに、どうやって生活を立て直して社会復帰をするかを実例とともにお伝えします。

うつ病で働けなくなったAさんの事例

いくつか実例を見ながらみてみましょう。

 

【事例】

Aさんは、うつ病が原因で仕事を休みがちになってしまい、足りなくなった生活費を借り入れをすることで賄っていました。

会社にうつ病になった事を伝えることができなかったAさんは、自己都合で会社を退職してしまい、失業手当がでるまでのしばらく生活費が途絶えたところを借り入れでつないでいました。

失業手当がでてからしばらくは生活はできていたのですが、3ヶ月の間に新しい職場を見つけることができず、失業手当が切れあとは再度借り入れをしてくらしていました。

6ヶ月後に派遣社員としてようやく仕事を見つけたのですが、そのころには簡単に返済できない額の借り入れをしてしまっていた上に、派遣社員となった事から収入が落ち込んでしまい、返済が思うようにいきませんでした。

うつ病の度合は一進一退を繰り返していた最中、派遣契約が終了してしまい、生活ができなくなってしまいました。

 

生活をできなくなってしまったAさんは、生活を再建するにあたって、借金をどうするかという問題と、収入をどうするかという2つの問題がありました。

とくに親族から支援が受けられる状態ではなかったAさんの場合、借金については債務整理をする必要があったのですが、うつ病による勤務が正常にできない状態が長く続いていました。

このまま仕事を探しても従来通り体調に関しては一進一退の状態が続き、借り入れだけが増える状態でしたので、Aさんは一度仕事をしないで静養をする必要があります。

精神疾患の場合でも障害年金の受給を受けられ、2級の認定を受けることができるようになれば月に10万円程度、3級のにんていをうけることができれば月に7万円程度の支給を受けることができます。

しかし、障害年金の申請から受給開始までには少なくとも4ヶ月程度の期間が必要であり、その間の生活は生活保護を利用して立て直すべきことになります。

 

Expert

障害年金よりも生活保護によって受け取る金額のほうが上なので、生活保護で受け取れる満額のお金から障害年金で受け取ることができる差額を受け取る事ができる上に、病院代の負担もなくなるため、両方を受給している人も多いです。

もし、手元に全くお金がない状況になってしまっているならば、生活保護も決定から実際の受給開始まで長いと1ヶ月程度の時間がありますので、いったんは生活福祉貸付という制度を利用することで手元に生活をするための現金を手に入れることができます。

うつ病の治療では診療と継続的な服薬が必要になるため、自立支援医療制度を利用すると、病院や薬局での負担が3割から1割に下がる仕組みがありますので、このような制度も利用します。

精神障がいも障害者手帳の交付の対象となり、交通機関や公共施設などの利用の割引の対象になることから、役所の「生活福祉課」といった場所で(役所によって名称は異なります)、障がい者手帳の交付を受けます。

アルコールやギャンブル等の依存症を発症しているような場合には、専門の外来を持っている精神科の治療を受けたり、同じ疾患を持っている人の自助団体に参加するなどして、自分の病気の特性との付き合い方を知ります。

いきなり復職するのはハードルが高い可能性がありますので、精神障がい者の復職をするための専門の作業所といわれる施設に通うなどして、徐々に社会復帰の準備をします。

Expert
最近ではパソコンに関する基本的なツールの使い方を勉強したり、webプログラミングを勉強しながら社会復帰ができるようになるような場所もあり、収入アップにつながりますので、役所や民生委員に相談してみると良いでしょう。

いきなり通常の勤務をするのがハードルが高い場合には、障がい者としての配慮をうけながら勤務できる、障がい者雇用という雇用があるので、そういったものを利用するようにもしましょう。

 

その他

手に職がなく、就職が難しいという方であれば、ハローワークを通して職業訓練を受けることができます。パソコンなどのデスクワークに関わるようなものもあれば、人材不足で強い需要がある介護に関する資格、電気工事に関する資格などといった事を勉強したり、資格を取得できるようになりますので、再就職への道が近づきます。

年齢が原因で再就職先がないような場合には、シニア向け求人など年齢に応じた求人をあつめて職業に関する情報を提供しているサイトや団体があるので、そういったものも積極的に活用しましょう。

精神疾患とは別に、発達障害があるような場合には、同じく障害手当を受けることができる可能性があったりしますし、自助のための団体も多数立ち上げられているので、そういったものを利用します。

家計の管理や生活が困難な場合には、地域の役所の生活相談や社会福祉協議会といった公的な団体が、生活に関する支援等を行っています。

地域の市区町村や民間のNPO団体などが、生活保護の受給が必要になっている方のために、お米などの食料の提供をしているフードバンクといったシステムを利用すると、食費の支出を大幅に削ることが可能となります。

自己破産をすると、信用情報機関に事故情報として登録をされてしまうことになるため(いわゆるブラックリスト)、新たな借入ができなくなってしまいます。冠婚葬祭など一時的な資金需要に関しては、生活保護のシステの利用をすることもできますが、生活福祉貸付といった制度の利用をすることも検討に入れます。

まとめ

このページでは、自己破産などの債務整理と生活保護に関する手続きについてお伝えした上で、生活再建のための制度利用を実例を挙げながらお話しさせていただきました。

借金がある際に生活保護を受けるためには自己破産はセットになっていることを知っていただいた上で、借金返済から解放されることと生活保護を受けることで早期に生活再建ができることを知ってください。

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