元債務整理事務職員が教える、家族が自己破産すると自分に影響する?

自己破産手続きの利用について心配されている方の中には、自己破産手続きが家族にどのように影響するか?ということです。

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あたかも家族に無影響であるように書かれているサイトも多いのですが、自己破産手続きに付帯する事実上の影響が生じる可能性がある…というのが本音です。自己破産手続きという手続きがどのようなものか、債務が存在していることというのがどういう状態か、ということを知って、なるべく影響を少なくするようにしましょう。

このページでは自己破産が家族にどのような影響を与えるかについてお伝えします。

 

自己破産手続きの概要

自己破産手続きとはどのようなものなのでしょうか。

自己破産手続きは、任意整理・個人再生という手続きとともに「債務整理」の手段の一つで、借金の返済ができなくなってしまっているときに、裁判所に申し立てをして借金に関する調整を行い、債務の免除をしてもらう手続きをいいます。

借金返済に困ったときに法律的な手当をする債務整理の中でも、元金の分割弁済をしていく任意整理・元金を約1/5程度に圧縮して分割弁済をしていく個人再生と比べると、返済義務が原則なくなるという点に特徴のある手続きで、経済的な再生が一番早くできる手続きであるといえます。

原則として債務は免責されるのですが、扶養義務や故意重過失に基づく損害賠償の負担、税金などの道義的・政策的な観点から、一部の債権については免責されない仕組みになっています。

手続きは、弁護士・司法書士への法律相談から始まります。

法律相談は、弁護士・司法書士は裁判所や法務局・顧客先に出かけていることもあることから、まず事務所に電話などで連絡をして予約を取るところからはじめます。

法律相談では、債務の内容・収支の状況・資産の内容などの判断材料から、債務整理の方法の中でもどの方法が一番適しているかが弁護士・司法書士から伝えられますので、持ち帰って検討し上で、あるいはその場で契約をすることで、正式な手続きがスタートします。

自己破産手続きの依頼をすると、弁護士・司法書士は債権者に対して、自分が代理人になったことを伝える「受任通知」という通知を送ります。

この通知には、貸金業者に対しては取引の履歴を提出するように依頼するものと、それ以外の人については債権の届出をするように依頼するものが含まれています。

弁護士・司法書士は返送されてくる取引履歴や債権の届出を調査して債務額の確定を行います。

一方依頼者側では弁護士・司法書士に対する報酬を分轄して納入することになっています。

弁護士・司法書士に対する報酬の分割が終わる頃から、破産手続きの申立の準備をします。

申立には申立書の記載と添付書類の収集が必須となりますので、弁護士・司法書士にまかせっきりにはできず、書類のやりとりや打ち合わせを重ねることになります。

申立書には、債務に関する事項は弁護士・司法書士が調べているので、資産・収支に関する事項を追加します。

添付書類は住民票などの書類とともに、破産申立書に書いてある内容が正しいものであることを示すための書類を用意します。

たとえば預金については通帳の写し、保険に関しては保険証書の写し、収入に関しては給与明細の写しを添付します。

もし免責不許可事由がある場合や、個人事業を営んでいたような場合には少額管財という管財人が選任される正式な手続きになりますので、管財人に対して支払うべき予納金(東京地方裁判所管轄での事件については20万円)の積立も行います。

申立をすると、少額管財の場合には管財人が選任されて審理がされ、同時廃止という簡単な手続きの場合には裁判所がそのまま審理をします。

審理の中で不明点や質問・要望があるような場合には弁護士・司法書士に連絡がくるので、それにこたえます。

申立後に面接をする日程を決めるので、その日に少額管財の場合には管財人の事務所に、同時廃止の場合には裁判所に出向いて事情を説明します。

少額管財の場合には、再度裁判所でも必要な手続きをするために呼び出しがされますので赴きます。

この時に管財人や裁判官から質問がされますが、内容としては難しい法律上の議論のようなものではなく、借り入れに至った事情や収支・資産に関する確認を行います。

裁判所での確認がおわると、2週間ほどで破産手続きが確定し、その1ヶ月後に免責という状態になり借金がなくなるということになり手続きが終了します。

以上が自己破産手続きの内容と、手続きの流れです。

法律上の自己破産手続きと家族との関係

借金などの債務は家族にどのような影響を与えるか

まず借金などの債務がある場合に家族にどのような影響があるかを知りましょう。

債務は法律上はあくまで、個人のみを対象に発生するので、親子の関係があったとしても支払う義務はありません。

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よく「父の借金を肩代わり」というようなシチュエーションを見ますが、父の借金を子が肩代わりしなければならない法律上の規定はありません。

しかし、一定の事象がある場合には、「自分の債務」になることがあるので注意が必要です。

 

相続によって「自分の債務」になってしまう場合

一つは「相続」が発生した場合で、債務を負っている人の相続人になる場合には、責任を負うことになります。

たとえば、父が1,000万円の借金をしており、相続人が自分だけだったような場合には、父が亡くなった場合には相続人として、借金の返済義務を負うことになります。

これについては「家族の債務が影響する」と見られがちですが、実はこれは相続という法律関係に基づいて「自分の債務になった」と説明するのが法律上は正しいということになります。

相続というと、家・土地・株式などのプラスの財産を引き継ぐ事、を連想するかもしれませんが、法律上は「亡くなった人の法律上の地位を引き継ぐ」というのが正しい理解なので、債務者としての地位を引き継ぐことになると理解しておけばよいです。

では債務者の相続をしたせいで自己破産など債務整理をしなければならないのか?と心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、相続に関しては「相続放棄」という手続きを利用することで、相続人にならなかったということにできます。

相続放棄については、下記で詳述をしているので、是非参考になさってください

 

 

日常生活に関する夫婦一方の行為

たとえば、夫婦が生活をするために、住宅の賃貸をします。

賃貸をする場合には夫名義で賃貸をした場合、賃貸借契約に関する賃料の支払い義務の名義は夫になります。

当然ながらこの夫の債務を親や兄弟が負担しなければならないことは、上記の債務は個人で見られるという論理から当然にありません。

しかし、夫婦については、日常生活を営む上で必要な債務については連帯して責任を負うという民法の規定があります。

 

(日常の家事に関する債務の連帯責任)

第761条
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

 

どの程度の契約がこの条文でカバーされるかについては、夫婦の収入・職業などの生活水準によって判断することになるので、一概にいえませんが、住居確保のための賃貸借契約はこれにあたることがほとんどです。

このような場合、夫名義での契約でも、妻が連帯責任を負う可能性があります。この規定も夫の債務というより連帯責任規定により「自分の責任にもなる」という例外です。

ただ、夫がギャンブルをしたようなもの、事業に失敗したなどのケースでは、日常家事の範囲とはいえませんので、責任を負わされることはまずありません。

保証人になっている

たとえば、家族が事業をやっていて、銀行の借り入れや取引先への支払いに関する保証人になっていることがあります。

主債務者である家族に対して請求をしても回収ができなくなったような場合には、保証人に請求されることになっています。

保証人になっているような場合には、保証契約という契約を結んでおり、この場合も保証債務という「自分の債務」の請求をされいる、という評価になります。

なお、保証人には、通常の保証人と連帯保証人という異なる種類があります。

両者の違いは、通常の保証人になっているような場合には、保証人に請求がきても、「まず主債務者に返済してもらってください、返済してもらえない場合にこちらに請求してください」という事を主張することができます(検索催告の抗弁と法律上呼んでいます)。

一方で連帯保証人になっているような場合には、主債務者が支払える状態でも請求されると拒むことができません。

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銀行・消費者金融・商工ローンなどの貸金業者がつける保証人は必ず連帯保証人ですので、基本的に請求を無視することはできないと見ておきましょう。

 

 

保証債務を負う場合の保証契約には必ず書面での合意が必要となっていますので、もし勝手に保証人にされていたような場合には、保証契約は存在しないので無効を争うことになります。

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「書面を取っている」というような主張をする場合には、その文書は偽造文書なので、有印私文書偽造罪での告訴を検討したりするような事を伝えることも視野に入れておいてください。

 

 

自己破産手続きでどうしても自分に関わることがある場合

上記のように家族でも自分の債務として負担しなければならないケースを除いて、家族の債務を負ったりするような事は無いのですが、家族の自己破産でどうしても影響が避けられないパターンはいくつかありますので、注意をしておきましょう。

保証人になっている

上記にもありましたが、保証人になっているような場合には当然に請求がきます。

連帯保証人になっているような場合には当然のように支払わなければなりませんが、普通の保証人になっているだけのような場合でも、主債務者が自己破産をした、自己破産手続きの準備をしているようなケースでは、主債務者が支払える状態ではないと判断されるため請求がくることになります。

家族の債務の保証人として典型的な例としては、奨学金や事業に関する保証になります。

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奨学金については、保証しているのが債務全体の1/2でも全額の請求がくることになります。法律上支払わなければならないのが1/2でも、その事を伝えてくれるわけではないそうなので注意をしましょう。

保証債務の支払いが難しいような場合には、一緒に債務整理をするなどのケースも検討します。

 

家族カードの利用者であるような場合

クレジットカードの契約の方法として、夫の名義に紐づいて、妻・子などがカードを使うことができるような場合があります。

このようなカードを家族カードと呼んでいます。

このような場合、たとえば夫が自己破産をするようなことによって妻・子はカードの利用ができないことになります。

裁判所によっては家族の給与明細の提出を求めることがある

破産申立においては、債務の支払いができなくなっている状況であることを伝える資料として、家計の状況の申告をします。

単身者であれば、収支は簡単なのですが、夫婦共働きであるような場合には、家計は世帯単位で動いているのが通常です。

そのため、収支に関するものを申告する中に、自己破産手続きを利用しない妻などの家族の収入に関しても申告内容に含まれます。

申告事項については必要に応じて、それが本当であるという事をわかってもらうために添付資料をつけなければなりません。

本人の給与明細はどこの裁判所でも必ず提出しなければならないのですが、裁判所によっては家族の給与明細の提出を求めてくる場合があります。

この場合には、家族が給与明細を取得するなどの負担をすることになるので、家族に影響する、と考えておくべきでしょう。

ヤミ金融業者からのDMが増える

ヤミ金融業者とは、貸金業登録をしないで貸し付けを行っている者をいいます。

「金融業者」という言い方をしているのですが、その実態は、点々と事務所を変えて、正規のルート以外で利用できる銀行口座や携帯電話を利用して、貸し付けた相手に違法な督促をする「犯罪者集団」であると認識してください。

自己破産手続きの利用をすると、信用情報機関に事故情報として登録をされるため、新たな借入ができなくなってしまいます。

このような状況でも急な資金需要はあるので、そういった窮状につけこんで「ブラックOK」というような少額の貸付を促す旨の業者がヤミ金融業者です。

信用情報機関に事故情報として登録された人の情報は、あってはならないことですが市場に出回ってしまいますし、住所などの情報は官報に掲載されます。

このような情報をもとに、携帯電話・スマートフォンにショートメッセージを送ったり、自宅にDMを郵送するようなことが頻発します。

特に自宅へのDMは家族が目にする可能性が高いことから影響するといえるでしょう。

家族の就職転職に自己破産は影響するか

金融・保険といった業種では他人の財産を預かる職務ですので、会社によっては信用情報や自己破産に関する情報を参照する可能性があり、このような場合には本人は就職をすることができない場合もありえます。

中には、家族に関する自己破産歴や債務整理歴も参照することがあるといわれており、会社によってはこれから就職するのが難しいような事例もあるようですが、現在就職をしている方について影響はないと見られています。

しかし、金融・保険といった特殊な会社に限られ、一般の会社ではこのような調査は行っていないので、基本的には影響はないと考えておいてよいでしょう。

公民権・選挙権を失うといったデマは信じない

弁護士・司法書士の相談の補助をしていると、一定の割合で「公民権・選挙権を失うようなマネはしたくない」という声を聞きます。

ここに公民権というのは、選挙に関する権利で、選挙投票をする権利や、候補者として立候補をする権利のことを指します。

まず、本人が自己破産をしても公民権・選挙権を失うようなことはありません。

ましてや、家族が自己破産をして本人がそのような権利を失うようなことはありえません。

このような話はデマですので耳を傾けないようにしましょう。

まとめ

このページでは、自己破産手続きと家族との影響についてお伝えしてきました。

法律上の直接の影響はない、というのが建前ですが、事実上影響が0かというとそういうわけではありません。

弁護士・司法書士には、手続き選択の際に自分の希望する手続きを、どのような不利益を避けたいか、という観点からも、しっかり伝えられるようにしておくと、不利益を避けることが可能になります。

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