雇用保険のさらなる活用法を伝授!

以前に雇用保険の中でも中心的な保障制度である「求職者給付」と再就職を目指す求職者を支援するための「就職促進給付」の給付制度についてお話しました。雇用保険は大きく4つの給付制度が柱となっており、労働者や求職者の保護を行う制度となっています。

後編は、スキルアップを図る人であれば利用したことがある人が多い「教育訓練給付金制度」とやむなく職を離れていた人が職場に復帰する際に行われる保障制度である「雇用継続給付制度」の2つの制度についての解説と雇用保険制度の助成金制度についてお話します。

1.教育訓練給付金制度

教育訓練給付とは、一定の要件を満たす労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に支給される給付です。教育訓練給付には、一般教育訓練給付金専門実践教育訓練給付金があり、平成34年3月31日までの期間限定ですが、教育訓練支援給付金があります。

(1)一般教育訓練給付金

一般教育訓練給付金は、一定の要件を満たした労働者等が雇用の安定及び就職の促進を図るために必要な職業に関する教育訓練を受け、その教育訓練を修了した場合に、支給されます。

一般教育訓練給付金の受給要件

次のいずれかに該当する者が支給対象となります。

(ア)はじめて教育訓練を開始した日(「基準日」という。以下同じ。)に一般被保険者又は高年齢被保険者である者で、支給要件期間(雇用保険の加入期間)が3年以上あること

(イ)(ア)以外の者であって、はじめて基準日がその基準日の直前の一般被保険者又は高年齢被保険者でなくなった日(離職等をして、被保険者で無くなった日)から1年以内にある者で、支給要件期間が3年以上あること

(ウ)教育訓練給付金をするのが2回目以降の(ア)・(イ)に該当する者で、支給要件期間が1年以上あること

一般教育訓練給付金の金額

一般教育訓練を受講する為に支出した費用の額×20/100(上限10万円)

一般教育訓練を受講する為に支出した費用に含まれる費用の範囲

一般教育訓練を受講するために支出した費用に含まれる費用の範囲は以下のいずれかに該当するものとなりますが、一般教育訓練の期間が1年超となるときは、その1年を超える部分にかかる受講料は除外されます。つまり、1年超の期間を有する講座については、1年分に相当する部分の費用が一般教育訓練給付金の対象となるということです。

なお、対象となる費用の金額が4,000円に満たない場合は一般教育訓練給付金は支給されません。

(ア)入学料及び受講料

(イ)一般教育訓練の受講開始日前1年以内にキャリアコンサルタントが行うキャリアコンサルティングを受けた場合は、その費用(上限2万円)

<具体例1>入学金1万円・受講料20万円・受講期間6カ月の場合

(1万円+20万円)×20/100=42,000円 ⇒ 一般教育訓練給付金の金額

<具体例2>入学金1万円・受講料50万円・受講期間1年の場合

(1万円+50万円)×20/100=102,000 ⇒ 一般教育訓練給付金の金額は10万円

(2)専門実践教育訓練給付金

専門実践教育訓練給付金とは、一般教育訓練給付金よりも、より専門的・実践的な専門実践教育訓練の受講を促進し、中長期的なキャリアアップを支援するため新たに設けられた教育訓練給付金です。

専門実践教育訓練給付金に該当する教育訓練とは?(参照:厚生労働省HP

専門実践教育訓練給付金の対象となる専門実践教育訓練は、厚生労働省が指定した一定の講座の事で、以下のいずれかに該当するような講座を言います。なお、毎年4月と10月に講座の指定の見直しが行われています。

(ア)業務独占資格または名正独占資格の取得を訓練目標とする養成課程(看護師、美容師、歯科衛生士など)

(イ)専修学校の職業実践専門課程(衛生関係、商業実践、自動車整備など)

(ウ)専門職学位課程(ビジネス、MOTなど)

(エ)大学等の職業実践力育成プログラム(特別の課程(保健。社会科学・社会)など)

(オ)一定レベル以上の情報通信技術に関する資格取得を目標とした課程(情報処理安全確保支援士、ネットワークスペシャリスト等)

(カ)第四次産業革命スキル習得講座(AI、データサイエンス、セキュリティなど)

専門実践教育訓練給付金の受給要件

専門実践教育訓練給付金の受給要件は、教育訓練給付対象者が雇用の安定及び就職の促進を図るために必要な職業に関する教育訓練として厚生労働大臣が指定する専門教育訓練を受け、その専門実践教育訓練を修了した場合において、支給要件期間が10年以上(2回目以降は2年以上)であるときに支給されます。

専門実践教育訓練給付金の金額

以下の区分に応じて定められた割合を乗じて得た金額となります。

(ア)専門実践教育訓練を受け、修了した者((イ)に該当する者を除く)

⇒専門実践教育訓練にかかる教育訓練の受講の為に支払った費用×40/100(上限は96万円(連続した2支給単位ごとに支給する額は32万円が上限))

(イ)専門実践教育訓練を受け、修了し、その専門実践教育訓練にかかる資格の取得等をし、かつ、一般被保険者又は高年齢被保険者として雇用された者(その専門実践教育訓練を受講し、修了した日の翌日から1年以内に雇用されている者に限る)又は雇用されている者

⇒専門実践教育訓練にかかる教育訓練の受講の為に支払った費用×60/100(144万円(連続した2支給単位期間ごとに支給される場合は48万円が上限)

支給単位期間とは

専門実践教育訓練を開始した日又は専門実践教育訓練を受けている期間において、6カ月ごとにその日に応当し、かつ、専門実践教育訓練を受けている期間内にある日(該当する日がない月については末日)から6ヶ月後のその日の前日までの各期間に区分した場合におけるその区分における期間の事を言います。

つまり、専門実践教育訓練を開始した日から6カ月ごとに期間を区切り、その期間の開始日から区切りの日の前日までの期間をいいます。

(具体例)2018年4月1日が専門実践教育訓練の受講開始日であり、受講期間が2年である場合

2018年4月1日~9月30日(開始日から6カ月を経過した日(10月1日)の前日)を最初の支給単位期間として専門実践教育訓練給付金を支給するということになります。なお、具体例のように支給単位期間が連続して2以上となる場合は、それぞれの支給単位期間の上限額が32万円((イ)の場合は48万円)となります。

(3)教育訓練支援給付金

教育訓練支援給付金は、専門実践教育訓練の受講している者の生活を保障し、訓練受講を促進するために設けられた制度で、平成34年3月31日までの期間限定の給付となっています。

教育訓練支援給付金の支給要件

(ア)専門実践教育訓練を開始する日(基準日)において、一般被保険者又は高年齢被保険者出ない者であって、その基準日が直前の一般被保険者又は高年齢被保険者でなくなった日から1年以内であること

(イ)専門実践教育訓練給付金の支給率が40/100とされる者で、はじめて教育訓練給付金の支給を受けることとなる者であって、その基準日前に教育訓練給付金を受けたことがないこと

(ウ)その専門実践教育訓練を開始した日における年齢が45歳未満であること

教育訓練支援給付金の金額

⇒基本手当日額×50/100×支給日数

(支給日数について)

支給日数は、支給単位期間の区分によって日数が定められています。

(ア)(イ)以外の支給単位期間

⇒支給単位期間において教育訓練支援給付金に支給にかかる失業の認定を受けた日数

(イ)専門実践教育訓練を修了した日の属する支給単位期間

⇒対象となる専門実践教育訓練を開始した日又は支給単位期間の初日から専門実践教育訓練を修了等した日までの期間内に教育訓練給付金の支給についての失業の認定を受けた日数(支給対象期間の最終日が専門実践教育訓練の修了等した日となる支給対象期間については、その期間内に失業認定を受けた日数が支給日数となるということです。)


2.雇用継続給付制度

雇用継続給付制度は、雇用の継続が困難となる理由(高齢・育児・介護)が生じた労働者に対して、雇用保険からの給付を認める制度です。

(1)高年齢雇用継続給付

高年齢雇用継続給付は、60歳到達月から65歳到達月までの期間において、引き続き被保険者として雇用されている場合又は再就職した場合において60歳到達時又は離職時に比べ、賃金が低下した時に一定の要件を満たしている場合に支給されます。

高年齢雇用継続給付には、高年齢雇用継続基本給付金高年齢再就職給付金の2種類あります。

①高年齢雇用継続基本給付金

高年齢雇用継続基本給付金とは、60歳以降の賃金が75%未満に低下した場合に、雇用の継続を援助、促進するために行われる保障の一つです。ここでいう、賃金とは、「60歳に達した時点(60歳に達した時点で、雇用保険の加入期間が5年未満であれば、5年に達した日)における賃金の金額(これを「みなし賃金日額」といいます)」をいい、その賃金額を基準に高年齢雇用継続給付の金額が決定します。

高年齢雇用継続基本給付金の受給要件

高年齢雇用継続基本給付金は、以下の要件をすべて満たしているときに支給期間において支給されます。

(ア)被保険者に対して支給対象月に支払われた賃金の額が、みなし賃金日額の75/100に相当する額を下回ること

(イ)60歳に達した日又は60歳に達した日後において、算定基礎期間に相当する期間(被保険者であった期間)が、5年以上であること

(ウ)支給対象月に支払われた賃金の額が、支給限度額(357,864円:平成29年8月1日以降)未満であること

(支給対象月とは?)

被保険者が60歳に達した日の属する月から65歳に達する日の属する月までの期間内にある月であって、その月の初日から末日まで引き続いて、被保険者であり、かつ、育児休業や介護休業をしなかった月を言います。

(支給期間)

支給期間とは、原則として「60歳に到達した日の属する月から655歳に達する日の属する月までの期間」を言いますが、60歳に達した日の時点で被保険者期間が5年以上ない場合は、「被保険者期間が5年に到達した日の属する月から⑥5歳に達した日の属する月」を言います。

高年齢雇用継続基本給付金の金額

高年齢雇用継続基本給付金の金額は、1支給対象月(支給期間となる月の事)に支払われた賃金の額がいくらであるかによって金額が異なります。

(ア)1支給対象月に支払われた賃金の額が「みなし賃金日額の61/100未満」である場合

⇒支給対象月に実際に支払われた賃金の額×15/100

(イ)1支給対象月に支払われた賃金の額が「みなし賃金日額の61/100以上75/100未満」である場合

⇒実際に支払われた賃金額×0~15/100

②高年齢再就職給付金

高年齢再就職給付金は、60歳に達した日以降に安定した職業に就きことができた場合に、60歳に達する日の時点で支払われていた賃金額との差額を保障する保険給付です。

高年齢再就職給付金の受給要件

高年齢再就職給付金は、以下の要件をすべて満たしているときに支給期間において支給されます。

(ア)60歳に達した日以降に安定した職業に就くことにより被保険者となったこと

(イ)60歳に達した日又は60歳に達した日後において、算定基礎期間に相当する期間(被保険者であった期間)が、5年以上であること

(ウ)就職日の前日における基本手当の支給残日数が100日以上であること

(エ)被保険者に対して支給対象月に支払われた賃金の額が、みなし賃金日額の75/100に相当する額を下回ること

(オ)支給対象月に支払われた賃金の額が、支給限度額(357,864円:平成29年8月1日以降)未満であること

高年齢再就職給付金の支給対象期間・支給対象月

高年齢再就職給付金の支給対象期間は、就職をした日の属する月から、その就職をした日の翌日から起算して2年間(基本手当の支給残日数が100日以上200日未満である場合は1年間)を経過する日の属する月までの期間で、初日から末日まで、雇用保険に加入しており、かつ、育児休業や介護休業による給付を受けている日がない月となります。

再就職をした日が2019年4月1日であった場合、支給対象期間となる期間は、再就職をした日賀属する月である2019年4月から、その翌日である2019年4月2日から2年後の2023年4月2日が属する月(つまり、2023年4月まで)となり、その期間内で、育児休業や介護休業などによる休業をしていない月が支給対象月となるということです。

高年齢再就職給付金の金額

(ア)実際に支払われた賃金の額が、支給対象月の賃金(賃金日額×30)の61/100未満である場合

⇒実際に支払われた賃金×15/100

(イ)実際に支払われた賃金の額が、支給対象月の賃金(賃金日額×30)の61/100以上75/100未満である場合

⇒実際に支払われた賃金×15~一定の割合で逓減する率/100

(2)育児休業給付

育児休業給付金は、育児休業中の期間について、休業前の一定の賃金水準を給付額として支給する給付で、育児休業期間中の所得補償が目的とされた保険給付です。

育児休業給付の受給要件

育児休業給付は以下のいずれの要件を満たしている場合に支給されます。

(ア)被保険者が1歳に満たない子(一定の場合については1歳6か月)を養育するための休業をしていること

(イ)育児休業を開始した日前2年間にみなし被保険者期間(育児休業をした日を離職日とみなして、1か月ごとに期間を区切り、その期間の賃金支払基礎日数(簡単に言うと「労働日」のこと)が11日以上ある月を1月とする)が12月以上あること。

育児休業給付の金額

育児休業給付の金額は育児休業中に賃金の支払いの有無によって変化します。

(ア)育児休業期間中に賃金の支払いがない場合

・最後の支給単位期間以外の支給単位期間 

➡休業開始時の賃金日額×30日×50/100(育児休業を開始した日から180日までは67/100)

・最後の支給単位期間 

➡休業開始時の賃金日額×支給単位期間の最初の日から育児介護休業を修了する日までの日数×50/100(育児休業を開始した日から180日までは67/100)

(イ)育児休業期間中に賃金の支払いがあった場合

・支給単位期間中に支払われた賃金額が「賃金開始時賃金日額×支給日数×13/100(育児休業開始日から181日目以降については30/100)」以下の場合

➡休業開始時賃金日額×支給日数×67/100(育児休業開始日から181日目以降は50/100)

・支給単位期間中に支払われた賃金額が「賃金開始時賃金日額×支給日数×13/100(育児休業開始日から181日目以降については30/100)」超「賃金開始時賃金日額×支給日数×80/100」未満の場合

➡休業開始時賃金日額×支給日数×80/100-支給単位期間に支払われた賃金

(3)介護休業給付

介護休業給付金は、介護休業の期間中について、休業前の賃金水準に一定の割合を乗じて得た金額を所得補償として支給されます。

介護休業給付の受給要件

介護休業給付は以下のいずれの要件を満たしていることが要件です。

・被保険者が対象家族を介護するための介護休業をしたこと

・介護休業をした日前2年間にみなし被保険者期間が12月以上あること

介護休業給付の金額

介護休業給付の金額の計算方法は育児休業給付金と同じですが、支給される期間が合計で93日分までとなっている点が大きく違います。

3.まとめ

雇用保険の給付の種類には、自己研鑽のために支出した費用や、育児・介護休業をしている場合、高年齢者の継続雇用や再就職に対するものなど、失業した場合に支給される者や就職支援を目的とした給付だけでなく、雇用を継続していくために必要な給付を行うことがあります。

育児・介護休業については別の法令でも規定がされているため、雇用保険としての給付を行う上で確認をしっかり行っていくことが必要といえます。

とはいえ、雇用保険は失業したときにお世話になるというイメージが根強く残っているため、こういった制度をもっと有効に活用することで、失業以外の場面での有効活用が出来ればと考えています。

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