“雇用保険は離職した時だけじゃない! 離職以外の有効な活用法とは”

雇用保険は「失業保険」とも言われており、会社を離職した人等の仕事がなくなってしまった人がハローワークで手続きをすることで受給することができる制度です。

世間のイメージでは、この「失業保険」というイメージが強いですが、近年では、資格取得のために通っているスクール等で「教育訓練給付金制度」を活用している人も増えているため、雇用保険の恩恵を感じられる場面も増えいます。

今回は、雇用保険から行われる給付制度について、全編・後編の全2回に分けて詳しく解説していきます。前編では、雇用保険の各種給付の中でもっとも利用する人が多い「求職者給付」と「就業促進給付」について、失業をした場合以外にどのような給付がいくら支給されるかについて、解説していきます。

1.雇用保険の給付の種類

雇用保険の給付には、失業した場合にもらうことができる「基本手当」以外にもたくさんの給付の種類が存在します。内容によっては、働いている状態でも支給される給付があり、目的に合わせた給付が行われる仕組みとなっています。

では、具体的にはどのような給付があるのかを確認していきましょう。

【雇用保険の給付の種類】

(1)離職に関する手当(求職者給付)

雇用保険において中心となる手当で、雇用保険の被保険者の種類によってもらうことができる給付の種類が異なります。

具体的には、「基本手当」「高年齢求職者給付金」「特例一時金」「日雇労働求職者給付金」等があります。

(2)就業の為の手当(就職促進給付)

就職促進給付とは、離職者の就職活動をフォローするための給付で、就職促進給付には「就業促進手当」「移転費」「求職活動支援費」の3つの給付があります。

(3)教育訓練給付

教育訓練給付とは、労働者や離職者が厚生労働大臣が指定する講座を受講して修了した時に、その教育訓練に要した費用の一部を支給する制度です。教育訓練給付は、現在働いている人であっても利用することができる給付であり、年々対象となる口座の範囲が拡大しています。

教育訓練給付には、「教育訓練給付金」と「教育訓練支援給付金」の2種類の給付制度があります。

(4)雇用継続給付

雇用継続給付とは、雇用の継続が困難になる事由(高齢・育児・介護)が生じた人に対して、雇用保険から給付を行うことで、職場復帰を促進する事を目的としている給付です。

雇用継続給付は「高年齢雇用継続給付」「育児休業給付」「介護休業給付」の3種類の給付があります。

2.離職に関連する手当(求職者給付)とはどのようなものか?

求職者給付は、会社等を離職もしくは退職をした者が公共職業安定所へ出頭することで失業の認定を受けることで、給付される所得補償となる給付です。離職等をした人であれば、だれでも基本手当を受給することができるわけではなく、一定の期間において雇用保険に加入していることが要件とされています。

求職者給付には、最初にも述べたように雇用保険に加入していた時の勤務状態や年齢等によって区分が分かれており、さらに、公共職業訓練を受ける人のうち、一定の要件を満たす被保険者については、別途手当が支給されることがあります。

 

【求職者給付の種類】

(1)基本手当

(2)技能修得手当

(3)寄宿手当

(4)傷病手当

(5)高年齢求職者給付金

(6)特例一時金

(7)日雇労働求職者給付金

(1)基本手当

基本手当は一般の被保険者が失業等をした場合において、公共職業安定所へ出頭して失業の認定を受けた人が受給することができます。

 

【受給要件】

<原則>

離職をした日からさかのぼって2年間(「算定対象期間」と言います。)のうち、12カ月以上の雇用保険の加入実績(1月の中で15日以上働いている月が12月以上ということです。)があること。

<特例>

解雇・倒産などの特定の理由による離職(正当な理由のある離職)をした者の場合、離職をした日からさかのぼって1年以内6月以上の雇用保険の加入実績があること。

基本手当の日額(平成30年8月1日以降)

(60歳未満の者)

賃金日額 給付率 基本手当日額
2,290円以上4,970円未満 80% 1,984円~3,975円
4,970円以上12,210円以下 80%~50% 3,976円~6,105円
12,210円超 50% 6,105円~8,250円

(60歳以上65歳未満の者)

賃金日額 給付率 基本手当日額
2,290円以上4,970円未満 80% 1,984円~3,975円
4,970円以上10,980円以下 80%~45% 3,976円~4,941円
10,980円超 45% 4,941円~7,083円

・基本手当の日額の上限額

離職時の年齢 賃金日額の上限額 基本手当日額の上限額
29歳以下 13,500円 6,750円
30~44歳 14,990円 7,495円
45~59歳 16,500円 8,250円
60~64歳 15,740円 7,083円

・賃金日額、基本手当日額の下限額

離職時の年齢 賃金日額の上限額 基本手当日額の上限額
全年齢 2,480円 1,984円

(2)技能修得手当

技能修得手当とは、基本手当の受給資格を有している人が公共職業安定所長の指示した公共職業訓練を受講している期間について、基本手当に加えて支給される給付で「受講手当」「通所手当」の2種類があります。

①受講手当

受講手当は、基本手当の受給資格者が公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受けた日のうち、基本手当の支給対象となっている日について、日額500円が支給されます。(40日分が上限となりますので、最大で20,000円が支給されるということです。)

 

【支給対象とならない日】

①公共職業訓練等を受けない日

受講手当は公共職業訓練等を受講した日が対象となりますので、公共職業訓練等を受講していない日については支給されません。

②基本手当の支給対象となる日以外の日

受講手当は、基本手当に上乗せする形で支給されるため、基本手当が支給されない日については、受講手当は支給されません。具体的には、「待機期間中(公共職業安定所に出頭して離職票を提出した日から7日間)」や「給付制限期間(待機期間満了後11カ月以上3カ月以内の期間とされていますが、実際には「待機期間満了後3ヶ月間」とされています。)」については、基本手当が受給されない為、受講手当の支給も行われないということです。

②通所手当

通所手当は、公共職業訓練等を行う施設へ通うための交通費です。

 

【通所手当の支給額】

①交通機関等を利用する場合 月額 (上限)42,500円

②自動車等を利用する場合 月額 (上限)8,010円

 

(3)寄宿手当

寄宿手当は、基本手当の受給資格者が公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受けるために、家族と別居して寄宿する期間について支給される手当ですが、公共職業訓練等を受講期間中の受講している日についてのみ支給されるものですので、受講開始前及び受講終了後の期間については支給されません。

 

【寄宿手当の支給額】:月額10,700円

3.就業のための手当(就職促進手当)

就職促進給付は、「就業促進手当」「移転費」「求職活動支援費」の3つの給付の総称で、基本手当を受給している人の再就職を促すために支給されています。

(1)就業促進手当

就業促進手当は、受給資格者が就業をした場合に手当を支給することで、安定した職業への再就職を促進するために支給する給付です。

就業促進手当には「就業手当」「再就職手当」「就業促進定着手当」「常用就職支度手当」の4つの手当があります。

①就業手当

就業手当は、受給資格者が職業に就いた場合において、一定の要件を満たしている場合に、現に職業についている日について支給されます。

【就業手当の受給要件】

ア 職業について日の前日において、基本手当の支給残日数が所定給付日数(基本手当をもらうことができる日数の上限)の3分の1以上、かつ、45日分以上あること

(具体例):就業手当の支給要件を満たす場合

職業に就く日の前日時点において、所定給付日数が90日である人が、支給残日数が60日を残している場合は所定給付日数の3分の1以上(90日×1/3≦60日)あり、かつ、支給残日数が45日以上(45日≦60日)となるため、就業手当の受給をすることができます。

 

イ 再就職手当の対象とならない職業に就き、又は事業を始めたこと

ウ 離職前の事業主に再度雇用されたものでないこと

エ 待機期間が経過した後に、職業に就き、または事業を始めたこと

オ 離職理由による給付制限を受けた場合、待機期間満了後1カ月の期間については、公共職業安定所又は職業紹介事業者等の紹介により職業に就いたこと

カ 求職の申し込みをした日前に予め雇入れをすることを約束した事業主に雇用されたものでないこと

 

【就業手当の金額】

現に職業についている日×基本手当日額×3/10

 

②再就職手当

受給資格者が安定した職業に就いた場合で、以下の要件のいずれにも該当する場合に支給されます。

【再就職手当の支給要件】

ア 安定した職業に就いた者で、その職業に就いた日の前日における基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上であること

イ 安定した職業に就いた日前3年以内に就職について再就職手当又は常用就職支度手当の支給を受けていないこと

ウ 1年を超えて引き続き雇用されることが確実であると認められる職業に就き、又は事業(その事業により受給資格者が自立することができると公共職業安定所長が認めた場合のみ)を開始したこと

エ 離職前の事業主に再雇用されたものでないこと

オ 待機期間が経過した後に職業に就き、又は事業を開始したこと

カ 離職理由による給付制限を受けた場合、待機期間満了後1カ月の期間については、公共職業安定所又は職業紹介事業者等の紹介により職業に就いたこと

キ 求職の申し込みをした日前に予め雇入れをすることを約束した事業主に雇用されたものでないこと

ク 再就職手当を支給することが受給資格者の職業の安定に資すると認められるものであること

 

【再就職手当の金額】

・支給残日数<所定給付日数×2/3の場合 基本手当日額×支給残日数×0.6

・支給残日数≧所定給付日数×2/3の場合 基本手当日額×支給残日数×0.7

 

③就業促進定着手当

就業促進定着手当とは、再就職手当の支給にかかる同一の事業主の適用事業に、その職業に就いた日から引き続いて6カ月以上雇用されている人で、その者のみなし賃金日額が、算定基礎賃金日額を下回った場合に支給されます。

【用語の意味】

・みなし賃金日額

再就職手当の支給対象の事業所に雇用された日から6カ月の期間に支払われた賃金日額を基本手当の計算の基礎となる賃金日額とみなしたもの

・算定基礎賃金日額

再就職手当の計算の基礎となった「基本手当日額」の算定基礎となった賃金日額のこと

 

【就業促進定着手当の金額】

(算定基礎賃金日額ーみなし賃金日額)×6ヶ月間の賃金支払基礎日数

ただし、「基本手当日額×支給残日数×4/10(早期再就職者の場合は3/10)」が上限

④常用就職支度手当

常用就職支度手当は、安定した職業に就いた受給資格者等であって、身体障害者その他就職が困難な者として厚生労働省令で定められている者が、以下の要件のいずれにも該当する場合に支給される手当です。

【常用就職支度手当の受給要件】

ア 安定した職業に就いた日前3年以内に就職について再就職手当又は常用就職支度手当の支給を受けていないこと

イ 1年を超えて引き続き雇用されることが確実であると認められる職業に就いたこと

ウ 公共職業安定所又は職業紹介事業者等の紹介により職業に就いたこと

エ 離職前の事業主に再雇用されたものでないこと

オ 待機期間が経過した後に職業に就いたこと

カ 給付制限期間(離職理由による給付制限期間にあっては、公共職業安定所長の指示を受けた公共職業訓練等を受ける期間及び受け終わった日後の期間を除く)が経過した後に職業に就いたこと

キ 常用就職支度手当を支給することが受給資格者等の職業の安定に資すると認められるものであること

 

【常用就職支度手当の金額】

・原則:基本手当日額×90×4/10

・支給残日数が45日以上90日未満の場合:基本手当日額×支給残日数×4/10

・支給残日数が45日未満の場合:基本手当日額×45×4/10

 

(2)移転費

移転費とは、受給資格者等が公共職業安定所長の紹介した職業に就くため、又は、公共職業安定所長が指示した公共職業訓練等を受けるため、その住所又は居所を変更する場合であって、次のいずれの要件にも該当する場合に支給される手当で、その者の雇用期間が1年未満であったり、その他特別な事情がある場合については支給されません。

【移転費の支給要件】

ア 待期期間又は給付制限期間が経過した後に就職し、または公共職業訓練等を受けることとなった場合であって、管轄公共職業安定所長が住所又は居所を変更することが必要だと認めたとき

イ 当該就職又は公共職業訓練等の受講について、就職準備金その他移転に要する費用が就職先の事業主、訓練施設の長その他の者から支給されないとき、またはその支給額が移転費の額に満たないとき

【移転費の種類】

鉄道賃・船賃・航空賃・車賃・移転料・着後手当の6種類

(3)求職活動支援費

求職活動支援費とは、受給資格者等が求職活動に伴い、以下のいずれかの要件に該当する場合において、公共職業安定所長から厚生労働大臣の定める基準に従って必要があると認めるときにその要件に該当する手当が支給される。

①求職活動支援費の種類

ア 広域求職活動費

公共職業安定所の紹介により広範囲の地域にわたる求職活動(以下「広域求職活動」といいます)をする場合であって、次のいずれにも該当する場合に支給されます。

【支給要件】

・待期期間又は給付制限期間経過後に広域求職活動を開始した時

・広域求職活動に要する費用(以下「求職活動費」といいます)が広域求職活動のために訪問する事業所(以下「訪問事業所」といいます)の事業主から支給されないとき、又はその支給額が広域求職活動費に満たない時

【広域求職活動費の範囲及び額】

鉄道賃・船賃・航空賃・車賃及び宿泊料(原則として、8,700円(一定の場合は7,800円)に、鉄道賃の額の計算の基礎となる距離や訪問事業所の数に応じて定められた宿泊数を乗じて計算され、当該距離が400キロ未満の場合は支給されません。)

イ 短期訓練受講費

短期訓練受講費とは、公共職業安定所の職業指導に従って行う職業に関する教育訓練の受講その他の活動に向けて支給される手当の事を言います。ただし、教育訓練給付金の支給を受けていると支給されません。

 

【短期訓練受講費の額】

受給資格者等が教育訓練の受講の為に支払った費用の額×20/100(上限10万円)

 

ウ 求職活動関係役務利用費

求職活動関係役務利用費とは、受給資格者等が求人者との面接等をし、又は就職活動関係役務利用費対象訓練を受講するため、その者の子に関する保育等のサービス(保育所や認定こども園等における保育などで受けるサービス等)を利用する場合に支給される手当です。

 

【求職活動関係役務利用費の額】

受給資格者等が保育等サービスの利用の為に負担した費用の額(以下の区分に応じた日数を限度とし、それらを行った日にかかる費用(1日8,000円が限度)の事)×80/100

・求人者と面接等をした日:15日

・求職活動関係役務利用費対象訓練を受講した日:60日

 

4.まとめ

雇用保険は、失業等をした人や再就職を目指している人などに対して行う保障として、大きく4つの保障制度が軸となっています。今回説明した「求職者給付」と「就業促進給付」は、失業等をされた人であれば少なからずお世話になったことがあるものだと思われます。

意外と、給付の仕組みや具体的な金額などについて知らないまま制度を利用していることも多く、本来であればもらうことができるものをもらいそびれてしまったりしていることがありますので、注意が必要です。

後編では、スキルアップを図ろうとしている人がお世話になることが多い「教育訓練給付」と「雇用継続給付」について解説していきます。

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