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債務整理手続きを検討している方が心配をしている事の一つに、「今の生活がどう変化してしまうのか」という事が挙げられますね。
特に、今住宅ローンを返済している方にとっては、住宅ローンや住宅そのものがどうなってしまうのか、というのはとても心配になる事項ですし、事務員をやってた頃にすごく多かったのが「これから先、住宅ローンを組むような事もあると思うので、今のうちに借金をなんとかしておきたい」という声です。
このページでは、債務整理と住宅ローンのお話しを「今住宅ローンがある時の債務整理」と「債務整理が終わったあとに住宅ローンを組む」という2つの視点からお伝えします。
今住宅ローンがある時の債務整理
まず、今住宅ローンがある時の債務整理についてお伝えします。
債務整理の相談業務の補助をしていた頃、よく次のようなお話を弁護士にしている方をお見かけしました。
この方は、
という考えを持っておられるようなのですが、実はこの公式が間違っていることを知っておきましょう。
債務整理というのは個々の手続きの総称であって、手続きの中には住宅を失わないものもある
まず、債務整理というは、借金返済に困ったときになんとかしようとする手続きの総称で、自己破産・個人再生・任意整理という個別の手続きに分かれています。
自己破産手続きとは、債務者が債務の支払いができなくなってしまった場合に、裁判所に申し立てをして、財産を清算した上で借金を免除してもらう手続きをいい、破産法という法律に基づいてする手続きです。
個人再生手続きとは、債務者が債務の支払いができなくなってしまうおそれがある場合に、裁判所に申し立てをして、債務を債務額に応じておよそ1/5に圧縮してもらって支払いをしていくようにする手続きをいい、民事再生法という法律に基づいてする手続きです。
任意整理手続きとは、債務者が借金返済が苦しくなってきた場合に、個々の債権者と交渉をして、契約条件についての巻き直しを行った上で、支払いをしていく手続きをいい、民法に従った契約に基づいてする手続きをいいます。
そして、自己破産手続きを利用しなければ住宅を手放さなくても済む可能性があります。
債務整理でどうして住宅を失うことになるのかのメカニズムを知る
債務整理をするとどうして住宅を失うことになるのか、どうすれば債務整理をしても住宅を失わないで済むのかの基本的なメカニズムを知りましょう。
住宅ローンを利用して住宅を購入する際には、住宅金融支援機構や銀行に住宅を購入するための総額の借り入れをした上で毎月いくら支払うという内容の金銭消費貸借契約を結びます。
そしてその金銭消費貸借契約に基づく支払いができなくなってしまった場合に、購入対象となった家を競売にかけてお金に変えてそのお金を残った債務にあてる、抵当権という権利が設定されています。
この抵当権が設定されている場合には、債権者への支払いが遅れると、債権者は権利がついているものを競売にかけて、競落された代金を債務の支払いに充てることができることになります。
自己破産手続きをする場合には、すべての債権者への支払いを停止して、裁判所への申立手続きをすることになり、その中には住宅ローンへの債権者への支払いも停止することになります。
住宅ローンの返済を止めてしまうと住宅が競売にかかるため、住宅を手放さなければならなくなる、という事になります。
ところが、個人再生では住宅ローン特別条項という手続きがあり、基本的にはすべての債権者を平等に扱うのですが、住宅ローンだけは従来どおり払ってそのまま住宅に住んで良い、ということになっています。
また、任意整理をする場合は、個別にどの債権者と交渉をするかを自由に決定することができる手続きですので、住宅ローン債権者は外してその他の債権者だけ交渉する、ということが可能です。
以上の理由により、債務整理の中でも住宅を守ることができる手続きが存在するという事になります。
しかし、これらの手続きを使う場合には注意が必要で、二つの手続きともに、そもそも返済ができる場合でないと利用できません。
また、住宅ローン債権自体を圧縮できるものではないので他の債務を債務整理をした場合でも住宅ローンの支払いがそもそも厳しい場合には利用できないことも注意として知っておくべきです。
名義はうつってもそこに住み続けられる任意売却という制度を知っておく
住宅を維持したい方の動機は、
- 長年住み慣れた我が家なので手放したくない
- 引っ越しを強いられると世間体が悪い
- 自分たちや子供が今の家に居ないと通勤・通学などに影響する
などで、その場所に居ることが主な動機となっています。
であれば、自宅を売却することになっても、ケースによっては自宅に住み続けることができる「任意売却」という制度を知っておきましょう。
任意売却とは、住宅ローンがついている物件について、債務者が競売による売却をしないで自分で買い手をみつけて売却する制度をいいます。
実は日本では競売をすると市場価格の6割程度に金額が下がるといわれています。
そのため競売で売却することは法律上の制度であるため利用せざるを得ないとはいえ、債権者からすると自分の債権への支払いのために行う回収活動としてはかなり価値が下がってしまうことになっています。
すこしわかりづらいかと思うので事例を踏まえてお話ししますと
債務額:3,000万円
住宅の市場の評価:1,800万円
競売すると予想される最低金額:1,200万円
この場合、債務者が支払いができなくなった場合に、3,000万円の残債務の回収をするために、1,200万円で競売をして、残りの1,800万円を担保がついてない債務として回収することになります。
実際は1,800万円の残った無担保債務は回収することは事実上不可能なので、自己破産などのタイミングをもって貸し倒れ処理をすることになってしまいます。
しかし、市場価格としては1,800万円なので、この金額で売れれば差額の600万円を余計に回収することができますので、債権者としても例え50万円程度の引っ越し代金を債務者に与えてあげてでも、市場価格での売却活動をしてもらったほうが債権をより多く回収できることになります。
その任意売却の手法として、従来は企業間の金融のために利用されていた「セル&リースバック」という方法を利用することで、不動産自体はあたらしいオーナーの名義になるけれども、その家を賃貸して新しいオーナーに金銭の支払いをしていくことで、その住宅に住み続けることができ、上記のような不動産を維持したい動機が達成される場合があります。
この任意売却ですが、実は不動産会社としては普通の売却活動よりも難しい傾向にあります。
なぜなら、通常の売却活動であれば、買主が見つかったときに買主とだけ値段の交渉をすればよいのですが、任意売却の場合には買主との値段交渉は債権者がいくらでうりたいか?という事情とすり合わせをしなければならず、通常は債権者の意向が強くなり値下げという形で買い主をつけるのが難しいのです。
そのため、債権者との合意を取り付けるのが上手な不動産会社でないと取り扱うのが難しいので、不動産会社の中でも任意売却に特化した会社に相談する必要があります。
任意売却に特化した不動産会社はインターネットで検索すると調べることができますが、債務整理に詳しい弁護士・司法書士であれば任意売却に特化した不動産会社ともつながっていたり、中には弁護士・司法書士がグループとして任意売却に特化した不動産会社を運営しているケースがありますので、弁護士・司法書士に聞いてみましょう。
債務整理が終わったあとに住宅ローンを組むために
債務整理をした直後は住宅ローンを組むことが出来ず、手続きに応じて5年~7年が経過しないと住宅ローンが組むことができなくなります。
そもそもなぜ住宅ローンを組むことができないのか
そもそもなぜ債務整理をすると住宅ローンを組むことができないのでしょうか。
という疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、
信用情報とは、住宅ローンをはじめ、信販会社・消費者金融などに借入をしている場合にその状態を共有するものです。
たとえば、A銀行のカードローンを50万円借り入れをした、という場合にはその情報が共有されています。
そして、債務整理をしたような場合には、この信用情報機関にその旨が登録され(いわゆるブラックリストという状態)、住宅ローンを取り扱っている金融機関では借り入れをすることができなくなります。
信用情報はいつ消えるのか
ではひとたび債務整理をすると一生信用情報と付き合っていくのかというとそういうわけではなく、一定の期間の経過により事故情報は消滅します。
債務整理の場合には、信用情報機関によっていつから計算するかが異なるのですが、一番消えるのが遅いものだと、返済や自己破産が終わってから任意整理で5年、個人再生や自己破産で7年となっております。
では、5年~7年経過後には必ず借りられるのでしょうか?というとそういうわけではなく、一般の審査がされる状態に戻った、と考えるべきです。
住宅ローンは上記のように頭金をいくら、どうやって準備をしたのか、職業に関する情報などを総合考慮をした上で、貸付に適しているかどうかという与信について総合的に判断をすることになります。
そのため、信用情報に事故情報が登録されていない場合であっても、頭金の額や収入面で不安であれば、審査に通らないということはあるのです。
なお、信用情報から事故情報が消えた場合には信用情報には何の借入もない状態になります(この状態のことをスーパーホワイトということがあります)。
債務整理をしないで世の中を過ごしているならば、スーパーや百貨店などのポイントカードを作る際にクレジット機能を搭載したものを申し込むことがあり、ほとんどの人は大なり小なり信用情報に何かが掲載されているのが通常です。
そのため、信用情報になんらの記載がないというのは、過去に債務整理をして信用情報が回復した状態の人である、ということも分かってしまいます。
そのため、信販会社などでクレジットカードを作る際にも審査は厳しくなるといわれており、それよりも金額がはるかに大きく長期にわたる借入になる住宅ローンではさらに審査がきびしくなることが予想されます。
住宅ローンを組みたいような場合には、FPなどのお金の専門家に相談することにより、住宅ローンに通りやすい状態をつくることが可能になります。
債務整理をした事実は話辛いものではありますが、きちんとその事実と向き合わなければ審査を通すのも難しくなってしまいますので、専門家にはきちんと伝えることがよいでしょう。
将来住宅ローンで住宅を買いたいのであれば自己破産をすべきか任意整理をすべきか
今は借金の返済で大変になってしまっているけれども、将来住宅ローンで家を買いたい…というような希望がある場合には、今すべき債務整理は自己破産なのでしょうか、それとも任意整理なのでしょうか。
一見、信用情報に載っている期間が5年と短い任意整理を利用するのがよい、と思われがちで、実際に弁護士・司法書士の補助として相談に同席すると、このような希望を口にされる方が非常に多くいらっしゃいます。
しかし、自己破産手続きによるべきと考えます。
なぜなら、まず1点目として、信用情報に記載されている期間なのですが、自己破産は「手続き終了から」7年であるのに対し、任意整理は信用情報機関によるのですが、「完済から5年」と考えておくのが無難です。
任意整理は手続きが終了してから3年程度の支払いをする手続きになるので、3年間の支払い+5年の経過で単純に考えて8年の歳月が必要で、結局任意整理のほうが長くかかります。
また、任意整理は3年間返済をしていく手続きになり一方、自己破産は債務を免除してもらえます。
そうすると、自己破産をして債務の支払いがなくなればその間は頭金の貯金をすることができますが、任意整理をする場合には3年間こういった貯蓄が難しいという状態になります。
上述したとおり、信用情報は「自己破産をしたことがある」「任意整理をしたことがある」といったものではなく、スーパーホワイトといわれる何もない状態ですので、どちらの手続きによったからといって差が生まれることはありません。
たしかに心情的にはきちんと任意整理によって返済をしたほうが良いのですが、返済をしたことを伺い知る客観的な証拠がない状況です。
そうすると、いち早く住宅ローンのために貯金ができる自己破産によるほうが、住宅ローンで住宅を買う準備が早くできるといえます。
まとめ
このページでは債務整理と住宅ローンの関係についてお伝えしてきました。
「債務整理」といっても複数の手続きがあり、その中でも任意整理や個人再生を利用すれば住宅を守りながら債務整理できるということ、住宅ローンを組むにあたって債務整理を利用した後の注意点についてお伝えしました。
実務的な処理を知れば、今ある住宅を守ることも、これから組む住宅ローンも問題なく利用することができますので、正確な知識を得て早めに専門家に相談するようにしましょう。