【為替情報】Brexitとは何?イギリスポンドやユーロに大きな影響を与えるBrexitをわかりやすく解説します。

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イギリスがEUから離脱する話が数年前から話題になっています。以前からイギリスとEUの関係について様々な議論がなされていましたが、2016年の国民投票によって離脱を支持する比率は全体の72%という結果となり、それ以降イギリスはEU離脱の実施に向けて動いています。

イギリスはアメリカやロシア、中国などに比べると比較的に小さな島国でありながらも、スコットランド、北アイルランドを統合しUnited Kingdomとして世界をリードする主要国の1つでもあります。

このUK、すなわちイギリスがEUを離脱する結果が、イギリスポンドやユーロへの影響だけでなく世界的な規模で株式やその他金融商品へ与える影響は少なくありません。

そこで今回は、為替情報としてBrexitとは何なのか、BrexitがイギリスやEUに与える影響について解説していきます。

イギリスとEUの現状

イギリスのメイ首相は2017年3月29日にEU条約50条を発動し、正式にEU離脱の意向をEU側に通告しました。具体的な離脱条件の交渉をめぐってイギリスとEUは決して友好的・容易とは言えない論争を繰り返しており、現在でもかなり深刻な状態にあります。

法律的に離脱が開始されるのが、本年度2019年の3月29日となっていますが、その未確定である詳細については刻一刻とニュースで報道されています。

1月30日現在の最新のニュースによると、メイ首相が離脱条件の再交渉をEUに対して新たに申請したところであります。

これまでEUは強気の姿勢で離脱条件を推し進めていましたが、現在EUの経済が悪化していることから、双方にとって納得のいく条件にて合意される可能性が高まっているとのことです。

そこで、Brexitの実施にあたって適用されるEU条約50条についてまずはご説明しておきたいと思います。

EU条約第50条とは

EU条約第50条とは、2007年に締結されたリスボン条約の一部で、EUを脱退する時の手続きを規定したものです。

EU条約第50条を発動することによって、以下の流れでEU連合からの離脱が実施されていきます。

第一段階
EU理事会議長が会合を招集・開催します。
この理事会の総意によって、イギリスがEUから脱退する指針を受理します。

第2段階
EU脱退の意向を受理した後、EU委員会は離脱条件の交渉を開始することを通告します。
交渉開始の通告はEU委員会の合意によってなされます。

第3段階
EU理事会によって交渉開始が承認されたら、実際にEU理事会が指名した交渉者と脱退するイギリスが交渉を行っていきます。

脱退協定を結ぶ
そして、双方に納得のいく交渉が成立したら、脱退協定を結ぶことでイギリスのEU離脱が法的に実施されます。
EU離脱が実施されると、イギリスはEU連合から除外されます。

リスボン条約は、EU条約を改正するために定められた条約で2009年12月に発行されたものです。
EU条約とは、EU連合に加盟する諸国によって合意された条約のことで、EU連合の国際機関としての行動や目的の規定を定めたものです。

EU連合に加盟する国はそれぞれ国の法律があるわけですが、加盟国はEUの一部としてEU条約に従う必要があります。つまり、国内の法律よりもEU条約の方が法的拘束力が優れていいることになります。

EU条約の根底にあるのは、

  • 人権の尊重
  • 自由
  • 民主主義
  • 平和
  • 平等
  • 司法国家
  • 貧困の撲滅

などを目的とし、経済通貨同盟、共通外交、安全保障政策、警察・司法協力などを統合していくことになります。共同体、連合体として諸国が統一していくことが謳われています。

Brexitとは

というように、イギリスは現在EU条約50条を発動して脱退協定を完結させていく段階にあるわけですが、この現象をBrexitといいます。

Brexitとは、Britain(British) Exitを略したものです。Britain(British)とは日本ではイギリスのことを指しています。イギリスはイングリッシュ(English/England)という言葉が江戸時代に日本風に解釈され、そのまま現在も使われている言葉になります。

本来、イギリスとはUKに含まれる国の1つのことをいいますが、日本ではUK=イギリスと表現するのが一般的です。この記事でもイギリスという言葉を使っていきます。

ちなみに、UKに含まれる国は、

  • Walls
  • England(イギリス)
  • Scotland
  • North Ireland

になります。

そしてEUに加盟するヨーロッパ諸国28カ国あります。(イギリスが離脱すれば27カ国)

  • France
  • Ireland
  • Italy
  • Germany
  • Greek
  • Austria
  • Belgium
  • Finland

など・・・

EU離脱の過程

実はイギリスにて、EU離脱の案が最初に提起されたのは1975年、イギリスがEUに加盟してからわずか3年後のことでした。独立国家としてもともと強靭な地位を築いてきたイギリスにとって、自分たちの国のことは自分たちで解決していく、という精神からEU連合加盟の意義が問われ始めました。

しかし当時はまだ、離脱を反対する残留派を支持する数の方が多く、本格的に離脱案が形成されたのは2013年以降のボリス・ジョンソンなどが率いる離脱派のキャンペーンによるものでした。

離脱を決意

GDP成長率も堅調で、経済的な進展にも自信があった離脱派は、国民にイギリスはEUに頼らなくとも自力で国を支えていけることを訴えかけます。

当時、EUに加盟する国も増えており、リーマンショック以降はとくに経済成長の足を引っ張る国の存在が懸念されていました。また、内戦から避難する中近東からの移民が増えすぎてしまったこともEU加盟へのマイナス要素として主張されるようになりました。

2016年6月23日、国民投票の結果EU離脱に賛成者の数が過半数を超え、残留派だったキャメロン首相に替わり、後任の離脱派メイ首相がEUからの離脱を決意します。

下記のグラフはEU加盟にかかる予算の負担額と、EU加盟から分配される支給額の比較になります。

※EU加盟にかかる予算負担額と支給額の比較

出典:Full Fact 参考リンク

  • 青色→予算負担額(イギリスがEUに支払った金額)
  • 赤色→支給額(EUからイギリスに支給された金額)
  • 黒色→予算負担額から支給額を引いた金額
グラフを見ても分かるように、イギリスは2010年以降はEUに支払った金額の半分も回収できていない状態が続きます。2017年にイギリスがEU加盟によって出す損失額は8.9憶ポンド(約2兆円)という巨額な数字を出しています。

もちろん、EU加盟によって受ける恩恵は金銭的なもの以外にも多くありましたが、独立することによって得るものの方が大きいとの公算で交渉を進めていくに至ります。

メイ首相はEU離脱の交渉にあたって、イギリス側の離脱条件としてソフトな条件、ハードな条件の2種類の離脱条件を提起しています。

ソフトとハード

 

Brexitの離脱条件として、

  • Soft-Brexit
  • Hard‐Brexit

の2つの離脱方法が今、イギリスとEUで論議されています。論議のポイントは4つあり、人、モノ、移動、サービスについてどのように対処していくのかを決めなければなりません。

では、Soft‐BrexitとHard‐Brexitの具体的な内容をご説明していきます。

Soft‐Brexit

Soft-Brexitの概要はイギリスがこのままEUでの市場の繋がりを持続して離脱する方法です。

イギリスはEU連合に加盟することで、規制を受けずにユーロ圏の市場で売買が行えます。その際、人、モノ、サービス移動が関税や制約を受けずに自由にできています。

この状態を保ったまま、離脱を実現することで、関税面で有利であると同時に他国からのイギリスへの入国を制限することが可能になり、イギリス国家へのEUの介入を防ぐことができます。

反面、多額の手切れ金をEUに支払う必要があり、自由な通商契約を他国と結ぶことができなくなります。

Hard‐Brexit

Hard‐Brexitの概要はイギリスが完全にEUとの繋がりを断って離脱する方法になります。

完全に離脱するということは、ユーロ圏で自由に身動きができなくなり、関税面でも優遇されなくなります。その代わり完全に独立してイギリス国家をコントロールしていくことができます。

そのためには、完全分離していくための一定期間が設けられことを要求する方法です。この離脱方法は経済的に非常に危険でありながらも離脱する価値は高いとも判断されています。

そもそも、離脱の理由は完全にEUの支配から逸脱することにあるので、この離脱方法を支持する人も少なくないようですが、リスクは高くなります。

そして、残留派からの反対や延期、再国民投票の提案が行われていたのですが、離脱派は過半数以上の支持を得ながら決して揺るがない決意を見せています。

万が一、交渉が進まずEUがBrexitに全く合意しない場合についても考慮されています。

EUがSoftーBrexitにもHard‐Brexitにも合意しなかった場合に備えて出されている方法が、No-Deal Brexitです。

NoーDeal Brexit

No-Deal Brexitは、全く合意が得られなかった場合に摂られる離脱方法で、半ば強引に一方的にEUから離脱していくことになります。

その結果、イギリス国内は大きな混乱に見舞われることが予想されています。

人、モノ、サービス、移動に関して3月29日から突然、自由がきかなくなります。万が一に備えて、すでにイギリスでは医薬品や医療機器などの在庫を確保したり、主要となる企業と対策を進めているとのことです。

仮に、No-Deal Brexitになった場合、収拾がつかないパニック状態になる恐れがあり、危険性が最も高い離脱方法ですが、手切れ金を一切支払う必要がなくなるというメリットがあります。

このように、最悪の事態まで考えて進められているBrexitですが、予定では3月29日までには答えを出し、離脱開始の第一歩が踏み出されることになります。

イギリスとEUの視点

では、なぜ円満に離脱合意に至らないのかを、イギリス・EUの両方の視点から見ていきましょう。

離脱交渉において、論点となっている項目に沿って解説していきます。

貿易関税

イギリス

貿易や関税に対して、イギリス側はセクター別に異なる対応を望んでいます。

例えば、化学・医薬品・航空などに関してはこれまで通りEU当局の管轄において、EU市場へのアクセスを維持しますが、農業漁業に関しては完全離脱の方針です。

また、貿易上においてある程度の意志決定ができることを要求しています。

EU

反面、EU側は基本的にセクタ―別に個別での対応はできないとする方針です。

もし、イギリスがEUの共通規制・管轄から外れるのであれば、EU市場へのアクセスは自由に行えないとしています。ただ、一部のセクターに関しては無関税にて適切な協力を実施するとしています。

移民・旅行

イギリス

EU連合に加盟している限りは、イギリスはEUの一部として扱われ、ユーロ圏の人であれば自由に行き来できることになっています。

イギリスは離脱することで、完全に国境をコントロールでしていく方針です。ただし、離脱交渉によっては、一定期間(2020年まで)は完全分離の準備期間として自由に行き来できるとしています。

それ以降は、仕事や学業でイギリスに滞在する場合は給与基準や資格・能力基準などを定めていく方針です。

EU

EU側は、もし交渉が成立して準備期間が必要であれば、その準備期間はEUの加盟国となることで了承していく方針です。

準備期間中に、EUに滞在するイギリス市民、イギリスに滞在するEU市民への対応を検討していく旨では同意が見られています。ただ、増加する移民・難民の受け入れがEUでも深刻な問題となっており、準備期間後に予想される入国制限には否定的な態度です。

イギリスも移民の受け入れに関しては、極端になりすぎず協力しいく姿勢が求められます。

アイルランド

イギリス

アイルランドは、北アイルランドとアイルランド共和国に分かれており、北アイルランドは現在はイギリス(UK)の一部になっています。

UK離脱の最大のネックとなっているのがイギリス管轄の北アイルランドとEU加盟国であるアイルランドの国境問題をどうするかです。

大陸が1つにつながっている北アイルランドとアイルランドはいつでも自由に出入りができる状態です。しかし、UKの管轄である北アイルランドがEU離脱を実現すれば、北アイルランドとアイルランドに厄介な国境ができてしまいます。

もともと北アイルランドとアイルランドは長い紛争歴があり、せっかく和解状態にある両国を国境によって厳しい状況にしてしまう可能性が危惧されています。

EU

EU側はこれに対して、北アイルランドのみを関税同盟国として残せば問題は解決すると見ています。

北アイルランドだけを例外として、アイルランドとの国境を設けないようにすれば、検問や税関調査などの国境管理をする必要がないとの所見です。

イギリスは、北アイルランドだけに特例をつくることに、国の統合力がなくなると反対していましたが、条件次第では合意する方向に向かっていました。ところが、アイルランド政府からの要請で国境に対する措置がなければ拒否権を主張するとのことで解決策が見いだせない状態となっています。

イギリスポンドとユーロの今後の展開

ここまでご説明してきたように、Brexitの具体的な交渉内容は不明瞭なままとなっているのが現状です。

イギリスとしては、不利な条件に合意してまで手切れ金を払うつもりはなく、最悪の場合は強行離脱を考えているほどです。EUとしても、美味しい部分だけをイギリスに都合のいいように渡すわけにもいきません。

どのような条件で双方が納得し合意していくのかが、イギリスポンドとユーロの今後の展開を左右していくと言えます。

それでは、現時点でこの2つの通貨を比較しておきたいと思います。

為替チャートの比較

※イギリスポンド/円 6カ月間のチャート

出典:楽天証券

※ユーロ/円 6か月間のチャート

出典:楽天証券

一見したところ、双方の通貨の動きはあまり変わらないようにも見えますが、明らかに2018年の後半からイギリスポンドの方が上昇の勢いが強いことがわかります。

ここ数日のニュースでも見られるように、メイ首相の恐ろしい程の気迫が投資家に希望を与えているのかもしれません。

そこで、まずは代表的な見解としてどのような展望があるのかを見ておきましょう。

代表的な見解

フランス、イタリア、ドイツとユーロの3大強国に経済成長の乏しさが伺える。国際通貨基金はユーロの2019年の見通しを1.9%から1.6%へと修正している。

しかし、Brexitをはじめとする政治・経済的な懸念からユーロ圏からの資本流出が圏内に留まる結果となり、さらにドル安が加速すれば追い風となって動いてく可能性はある。

出典:REUTER 参考リンク

イギリスの政治的不安を意識したポンド売りは縮小。主要経済指標の内容や中央銀行の利上げの思惑からもポンドは手堅い動きを見せていくだろう。

取引レンジ:151円20銭~65銭

出典:kabutan 参考リンク

 

イギリスがEU離脱した場合には、ユーロ圏のGDP成長率は17%くらい縮小するだろう。イギリスもEUへの輸出率が高いため離脱から受ける損失は大きい。ポンドもユーロも売られ比較的安全な円が買われる可能性が高い。

出典:NHK News  参考リンク

などの見解が見られており、ユーロやポンドの展開を楽観的に見ていく意見もあれば、かなり深刻な打撃として判断する声も聞かれるようです。

個人的な見解

個人的な見解としては、

まずBrexitはイギリスにとって必要不可欠な精神的処方であると言えます。なぜなら、宗教的にも法律的にも、政治的にも思想的にもイギリスは数世紀前から、ヨーロッパ大陸とは全く異なる独自の道を歩んできているからです。

おそらく、今回のBrexitはもはや経済問題、移民問題、国際化などを論じる以前の問題だと言えます。賛否両論あるとしても、イギリス民族として、まずは根底にある精神や思想を取り戻す必要があったのだと個人的に分析しています。

もう、これは金銭的な問題ではないことが、メイ首相の演説でも伺えます。イギリスは本来の姿に還る必要があったのです。

もちろん、Brexitによって打撃を受けないわけにはいかないでしょうが、本来のイギリス国家に戻ることによって、むしろ力を取り戻す可能性は高いと言えるでしょう。

ユーロに関しても打撃は少ないと予想します。

結局のところ、いくらイギリスのEU離脱に反対したとしても、イギリスはもう損失を出してでも離脱する覚悟でいます。ほどよいところで、妥協案を見出していく以外に道はありません。

そして、ユーロ圏にしてもイギリスが脱退することで、ヨーロッパ経済の再建に迫らざるを得なくなります。そのことからも、EUは解決策を見出していくために結束力を高めて努力していくことが予想されます。

そうしながらも、イギリスとのこれまでとは違う接点を見つけるであろうと期待できます。

EUとイギリスの間には、新たな信頼関係が生まれ、世界経済に貢献していくに違いない、きっと展望は明るいと思うのですが、いかがでしょうか。

まとめ

人類は古くから、独自の民族性や思想にこだわるあまりに数々の争いを起こしてきました。時には、それが悲惨な恐ろしい結末をもたらす場合もあります。

しかし、世界平和や国際化、人類平等に基づき、世界経済を進展させていくために欠かせないものの1つが、この民族主義や思想へのこだわりです。

自らが民族としての誇りや、思想に対する信念が持てなければ、どうして他人の気持ちを尊重することができるというのでしょう。国際化や平等、平和、そして経済発展への道はそのような気持ちが根底にあってこそ成り立つものではないでしょうか。

世界中で懸念されているBrexitですが、一時的にポンドやユーロの価格が落ち込むことがあるにしても、いずれは正常な状態に戻っていくことが期待できるでしょう。

むしろ、価格が下がった時を狙って購入しておくと、案外予想以上の利益につながるかもしれないですね。

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