【企業経営者必読】法人保険「逓増定期保険」とは?「逓増定期保険」のメリットデメリット・注意点・選び方

法人保険。あまり聞き馴染みのない名前の保険だと思います。それもそのはずで、法人保険とは、一般的な個人のための保険とは違います。法人保険は、その名の通り企業のための保険になります。

企業に保険?と思われる方も多いと思います。しかし企業にも保険は必要なのです。法人保険は、企業経営する上で様々な助けになる保険です。今回は、法人保険のうち代表的な逓増定期保険について詳しく説明していきます。

逓増定期保険とは

逓増定期保険とは、どのような保険なのでしょうか?(ちなみに「ていぞうていきほけん」と読みます。)

逓増定期保険は、保険期間が経過すればするほど保険金が増加していく保険です。保険金は最大契約時から5倍殖えます。被保険者は、オーナーや社長などの会社のキーマンになります。会社のキーマンに万が一のことがあった時に備えて加入するのが、逓増定期保険です。

個人向けの生命保険では、加入当初から5倍も保険金が増える保険はなかなかないと思います。会社のキーマンに万が一のことがあったら特に中小企業は大変です。

法人保険の保険金は、個人の生命保険より保険金が大きいのは会社に与える影響が大きいからです。逓増定期保険に入る第一の目的は、会社のキーマンの保障のためです。

しかし逓増定期保険に入る経営者は、死亡保障のためだけに入るわけではありません。少し話は変わりますが、企業経営は本当に大変です。企業経営をしていると、様々な問題が出てきます。

急に資金が必要になったり、後継者にどうやって事業を引き継ぐかも考えなければいけません。利益の出ている会社にとっては法人税も大きな問題になります。

逓増定期保険は、死亡保障だけでなく、様々な経営課題を解決してくれるツールになるのです。次の章では、逓増定期保険のメリットについて詳しく説明します。

ちなみに、逓増定期保険といわれるものは、以下の条件を全て満たすものをいいます。

  • 保険金額が加入時の5倍以内まで増加するもの
  • 保険期間満了時における被保険者の年齢が45歳を超えるものに

なります。この2つの条件が満たされない限り、逓増定期保険にはなりません。

逓増定期保険のメリット

逓増定期保険には、様々なメリットがあります。もちろん死亡保障は大きなメリットですが、逓増定期保険のメリットはそれだけではありません。逓増定期保険のメリットは死亡保障を入れて5つあります。

死亡保障

逓増定期保険の1つ目のメリットは、死亡保障です。先ほども説明しましたが、逓増定期保険は、保険を契約してからの年数が経過すれば経過するほど死亡保険金が増加する仕組みになっています。

中小企業で多いのは、オーナーが独断で物事を決めるなどオーナーの影響が非常に大きいことです。大企業の場合は、社長が変わっても正直大きな影響はありません。

しかし、中小企業の場合、オーナーに万が一のことがあった時の影響は計りしれないです。逓増定期保険は、死亡保障が大きいので、オーナーに万が一のことがあった時、混乱する社内を立て直すのに大きな助けになります。

法人税の節税

逓増定期保険の2つ目のメリットは、法人税の節税です。逓増保険の保険料は、最大2分の1まで損金に計上することが出来ます。例えば、毎年の保険料が500万円だとすると、2分の1の250万円を費用計上することが出来ます。

残りの250万円は「前払保険料」という資産として貸借対照表上に載せます。もし保険料を5年間支払った場合、5年後には、貸借対照表には保険料積立金が1,250万円貯まります。

逓増定期保険は、一定の期間で解約すると、今までの保険料のほぼ100%が戻ってきます。このケースで5年後に逓増定期保険を解約すると、解約返戻金は、2,500万円になります。

この2,500万円のうち1,250万円は事前に前払保険料という形で毎年計上しているので、損益計算書上に現れる利益は、1,250万円になります。この1,250万円は、雑収入として益金に算入されます。したがって逓増定期保険を解約した年に、1,250万円の費用があれば益金とぶつけることが出来るので結果として節税になるのです。

ちなみに損金の割合ですが、下記のようになります。

逓増定期保険の保険料の損金割合は、下記表に定める区分に応じます。

区分 保険期間の前半6割の期間 残りの期間
①保険期間満了の時における被保険者年齢が45歳を超えるもの(②ま又は③に該当するものを除く) 2分の1損金
2分の1資産
全額損金
保険期間満了の時における被保険者の
年齢が70歳を超え、かつ、当該保険に
加入した時における被保険者の年齢に
保険期間の2倍に相当する数を加えた数が95を超えるもの(③に該当するものを除く)
3分の1損金
3分の2資産
全額損金
③保険期間満了の時における被保険者の年齢が80歳を超え、かつ、当該保険に加入した時おける被保険者の年齢に保険期間の2倍に相当する数を加えた数が120を超えるもの 4分の1損金
4分の3資産
全額損金

退職金の捻出

逓増定期保険の3つ目のメリットは、退職金を計画的に貯めることが出来ることです。

一般的に、その会社に多大な貢献をしたオーナーや社長などのキーマンの退職金は、多額に上ります。億を超えることも決して珍しくありません。これだけ大きな資金をすぐに用意出来ればいいですがなかなか難しいのが実情でしょう。

逓増定期保険は、解約返戻金がピーク時は100%を越えるので計画的に退職金を貯めることが出来ます。しかも逓増定期保険を解約した時に出る益金に退職金をぶつければ節税にもなります。

退職金の捻出のために逓増定期保険を契約している企業はたくさんあります。

事業承継

逓増定期保険の4つ目のメリットは、事業承継です。

事業承継で悩んでいるオーナーや社長は、非常に多いです。私は、銀行員なのでよく中小企業のオーナーや社長に会いますが、ほとんどのオーナーや社長は、事業承継に悩んでいます。

悩みのパターンは、2つに分かれます。

1つは、後継者がいないこと。2つ目は、自社株の評価が高くなってしまっていることです。1つ目の悩みは、正直どうすることも出来ません。しかし自社株の評価に関しては、対策を打つことが出来ます。

自社株の評価の対策の1つに逓増定期保険は利用出来ます。つまり自社株が高すぎて後継者が買い取れないのであれば、自社株の評価を下げればいいのです。自社株の評価を下げるには、利益を少なくすることです。

業績が悪くなって利益が少なくなってしまうと銀行融資などにも影響が出てしまうので困ってしまいます。しかし、逓増定期保険の保険料の2分の1(もしくは3分の1、4分の1)は、費用計上することが出来ます。

保険料を多額に払い費用を増えせば自社株の評価は下がります。下がったタイミングで自社株を後継者に買い取らせることが出来るのです。

緊急資金に備えての活用法

逓増定期保険の5つ目のメリットは、急な資金需要に備えることが出来ることです。会社を経営しているとなにが起こるかわかりません。予期せぬ支出を迫られることはよくあることです。

逓増定期保険は、解約した時の解約返戻金の返戻率が高いので、いざというときは、逓増定期保険を解約して、資金を充てることが出来るのです。

また逓増定期保険は、保険を担保にお金を借りることが出来ます。借りることの出来るお金は、解約返戻金の80%~90%程度のことが多いです。

銀行から融資を受ける時に必要な審査は、特にないので申惧してから大体1週間くらいで、手元にお金を手にすることが 来ます。金利は、逓斌定期保険の利率+1%程度です。この保験を担保にお金を借りる仕組みを「契約者貸付」といいます。逓増定期保険は、資金が必要になった時に、活用することが出来ます。

逓増定期保険の税務処理

この章では、逓増定期保険の税務処理について説明します。逓増定期保険の税務処理を、保険料の支払いの段階の税務処理、解約した段階での税務処理、万が一が、あった時の税務処理の3つに分けて説明します。

保険料支払いの段階の税務処理

保険料の支払いの段階の税務処理は、保険料を支払う最初の60%の期間と残り40%の期間によって異なってきます。

なぜ全期間、同じ税務処理ではないのでしょうか?それは、保険料が全期間一定のことと死亡率が関わってきます。本来、保険は、年齢が上がるにつれて死亡率が上がっていくので保険料は毎年上がってくるはずです。

例えば契約期間20年の保険で、契約時の年齢が40歳の場合、保険の満期を迎える時は60歳になっています。40歳と60歳では死亡率は全然違います。しかし、逓増定期保険の保険料は、満期まで常に一定です。

保険料が一定の理由は、保険料が一定の方が、加入者である企業は先の見通しを立てやすいからです。しかし死亡率が年齢によって違うためあるからくりがあるのです。

保険会社は、保険料を一定するために、保険期間の前半の間、保険会社が後半の保障に充てるお金を預かっておく仕組みを採用しているのです。要は保険料の前払いを受けている形になります。これを、前払保険料と言います。

このような考え方で保険料を預かっているので、前半の保険料は、死亡保障に充てる保険料と前払保険料という資産に分かれるのです。

逆に保険の後半の保険料は、後半に預かる保険料だけでは、その時点での死亡保障を補えなくなるので前半に預かっていた前払保険料を、保険料に充てるようになります。

保険料の支払いの仕組みを、会計上厳密に行うと非常に難しいため、前半60%、後半40%で保険料の取り扱い方を変えているのです。

前半60%は、前払保険料が含まれているため、一部を資産計上、一部を損金計上にしているのです。この一部の部分が2分の1損金タイプ、3分の1損金タイプと呼ばれるのです。後半は、前払保険料を保険料に充てるので全額損金計上出来るようになります。

保険料支払いの段階の税務処理の注意点

保険料支払いの段階での税務処理の注意点は、やはり前半60%と後半40%で税務処理が異なってくることです。逓増定期保険は、解約返戻金のピークが、前半に来ることが多いので後半の税務処理についてはあまり取り上げられることがありません。しかし、満期まで逓増定期保険を持っている可能性は「0」ではありません。後半の逓増定期保険の保険料はすべて損金計上出来ることは一応知っておくことは重要です。

解約した段階の税務処理

逓増定期保険を解約した時の税務処理ですが、解約返戻金のピークは前半60%の間に迎えることが多いのでピークで解約した場合の税務処理について説明します。

解約返戻金ー前払保険料=雑収入

という形になります。

解約した段階の税務処理

解約した段階での税務処理の注意点は、ずばり出口戦略です。解約をすることによって出た雑収入を退職金などの費用に充てることが出来なければ、この雑収入に対してしっかり課税されてしまいます。課税されてしまったら単なる課税の繰り延べになってしまうのでしっかりとした出口戦略を持つことが重要になります。

 

万が一があった段階の税務処理

万が一があった時の税務処理ですが、基本的に解約返戻金を受け取った場合と一緒になります。

保険金ー前払保険料=雑収入

になります。

万が一があった段階の税務処理

万が一があった時の税務処理ですが、これについては特に注意点はありません。もちろん保険金の受取で発生した雑収入を何かの費用に充てることが出来ればいいですが、人はいつ亡くなるか分からないのでそこまでの予想は難しいでしょう。したがってもちろん費用に充てることが出来ればいいですがそれよりも経営者に万が一のことが起きた時のその後の経営についてどうしていくかをしっかり考えておくことの方が重要です。

 

逓増定期保険のデメリット

この章では、逓増定期保険のデメリットについて説明します。逓増定期保険の主なデメリットは5つあります。

解約のタイミングによっては意味が無くなる

逓増定期保険のデメリットの1つ目は、解約のタイミングよっては、逓増定期保険を契約した意味がなくなってしまうことです。

逓増定期保険のメリットのところで節税について触れましたが、逓増定期保険の解約のタイミングによっては単なる税金の繰り延べになってしまう可能性があることです。逓増定期保険は、解約返戻金に対して前払保険料を引いた分が益金になります。

もしこの益金に費用をぶつけることが出来なければ丸々課税されてしまうことになってしまいます。逓増定期保険の解約返戻率のピーク期間は短いので計画的な利用が必要になります。

キャッシュフローを圧迫してしまう

逓増定期保険のデメリットの2つ目は、キャッシュフローを圧迫してしまうことです。逓増定期保険の保険料は、節税に目的で作られている部分があるので、一般の保険に比べて高額に設定されていることが多いです。保険料が高かいことで利益を圧迫するからです。

余裕のある保険料で契約していれば問題はありませんが、たまたま業績が良かった時に合わせて保険料を設定すると後々大変になります。

今後のビジネスの展開や、解約返戻金のピークまで保険料を払い続けることが出来るかをしっかり契約の段階で検討することが必要があるのです。逓増定期保険は、法人税の節税や事業承継に役に立つ保険です。しかし高すぎる保険料は、後々自分を苦しめてしまうのです。

医的審査がある

逓増定期保険のデメリットの3つ目は、医的診査があることです。

保険なので当然なのですが、逓増定期保険に加入するには健康でなければいけません。特に高齢のオーナーや社長が被保険者になる場合は、医的審査で引っかかってしまうことが多いので注意が必要です。

早期解約のリスク

逓増定期保険のデメリットの4つ目は、早期解約のリスクです。逓増定期保険は、一般的に契約して短期間で解約をすると大きくマイナスになってしまいます。特に、一定期間の解約返戻金を抑えた、低解約返戻型逓増定期保険の場合は早期で解約してしまうとごくわずかな解約金しか受け取ることが出来ません。一時的に大きな利益が出たからとって大きな保険料で契約してしまうと、結果的に大きな損失を被ってしまうことになるのです。

まとめ

今回は、法人保険の中の逓増定期保険について説明しました。法人保険は、あまり一般的ではないですが、使い方によっては非常に優れた保険になります。当然デメリットもありますが、しっかり注意して加入すれば大きなデメリットにならないものばかりです。

しかし銀行員や保険会社の社員は、法人保険は収益率が高いので大きな保険料の提案をしてくることが多いです。安直に提案された保険に入ってしまうのは危険なのです。是非この記事を参考に適切な保険料の逓増定期保険を検討することをおすすめします。

 

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