元債務整理事務員がおすすめする、自己破産ができない場合の対処法

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このページの筆者は債務整理を取り扱っている法律事務所・司法書士事務所でパラリーガルという事務職員を経験してきました。

債務整理の手続きの中でも、借金を帳消しにしてもらって経済的な再生をする最も強力である自己破産によって、生活を立て直そうという人もいらっしゃると思います。

しかし、ケースによっては自己破産手続きが利用できないという場合があります。

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自己破産ができないとなった瞬間に一生借金に縛られた生活が始まる!と勘違いしてしまう方もいらっしゃいますが、経済的な再生の方法はいくらでもあります。いくつかケースを挙げながら一緒に考えてみましょう。

このページでは、自己破産が利用できないケースや、その場合どのような対応をするのか、ということを見てみましょう。

 

自己破産手続きの概要

そもそも「自己破産手続きができなくなる」という事態がどうしておきるのかを検討するにあたって、前提として自己破産手続きというものの概要を見てみましょう。

自己破産手続きの趣旨

まず、この手続きがどのような趣旨に基づいて定められたものかという事をしっておきましょう。

「借りたお金は返すべき」というのはあたりまえのことで、法律的には金銭消費貸借契約を結んだのであるから、返済をする債務があるという状態です。

しかし、何らかの原因で返済ができなくなる、ということは必ずあります。

そのような場合にも、債務を負担した以上必ず履行しなければならない、という原則を貫くと次の3点のような弊害が起きる可能性があります。

  • 債務者の残り少ない財産をめぐって債権者が厳しい取り立てを行う結果、「返さないと殺す」といったような恐喝行為や、「返せないのであれば内臓を売れ」というような強要行為が発生する可能性があります。
  • 債権者は平等に取り扱われるべきなのですが、債務者が自分に近い債権者のみを優遇して(友達なので優先して払う…など)、債権者の平等が徹底されない可能性があります。
  • 追い詰められた債務者が自殺をしたり返済資金をつくるために犯罪を行うなどの可能性があります。

そこで、債権者間を公正かつ平等に扱いつつ、債務者に経済的な公正の機会を与えることは社会全体からみると非常に有益であるということになります。

そのため破産法という法律が設けられており、この手続きを利用することで債権者の調整に協力をすることで、債務を免責することで、債務者の経済的な更生のすべをあたえています。

自己破産手続きを利用するのはどのような場合か

自己破産手続きを利用するのは、「支払不能」といえる場合です。

この支払不能とは、弁済期にある債務を継続的に支払いができなくなってしまったような状態をいいます。

借金が〇〇万円以上とか、収入が〇〇万円以下というような決め方ではありません。

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実務的には任意整理が現在の債務の元本額を最長36回で支払うことにする和解であり、それ以上の長期分割にしなければならない場合には最長60回の長期分割を貸金業者が飲める状況でない限り、任意整理での和解ができない状況になりますので、総債務額を36回の分割支払えるかどうかで支払不能かどうかを決めることが多いです。

自己破産手続きができなくなるケース

では自己破産手続きを利用できないのはどのような場合はどのような場合でしょうか。

そもそも支払不能とはいえないような場合

破産手続を利用するにはそもそも支払不能とはいえない場合である必要があります。

Expert
破産法は支払うことができないような債務負担をした場合に例外的に免責させることにしているだけで、そもそも支払いができる場合には払うべきであることにはかわりません。

支払不能の判断は上述したとおり、原則として総債務額の元本を36回分割できるかどうかで考えるのが基本です。

たとえ100万円を切るような大きな額ではなかったとしても、生活保護や障害年金を受けていて、生活費自体の捻出にも苦労しているような場合であれば利用することができます。

逆に300万円を超えるような大きな額の借り入れをしていても、多額の収入を得ていて充分に返済できると評価できる場合には自己破産は利用できないということになります。

破産法の趣旨にそぐわない行為を債務者がしている

破産法は公明正大な手続きのもとで債権者を調整して、やむをえない事情債務者の債務の免責をしようとするものです。

この破産法の趣旨にそぐわない行為を行っている場合には、そもそも免責という特典を与える必要はない、ということになります。

そのため破産法252条は、このような場合には免責をすることができません、という免責不許可事由というものを設けています。

条文の細かい規定の言及を避けますが大きく分けると、

  • 破産することが分かっていながら財産を消滅させたり、債務を負担するような行為
  • 浪費や賭博など
  • 手続きで嘘をつく

といった行為が挙げられます。

Expert
法律上は免責しませんとしていますが、実際にはキャバクラや競馬・パチンコといったギャンブルで散財してしまった場合や、友人や家族は自己破産手続きとは別だと思って支払ってしまった方、手続きに含めなくても良いと思っていた債権者に支払ってしまったなどということはよくあり、後述するように裁量免責という制度がありまして、実際上はほとんどのケースで免責が認められるので、あきらめないようにしましょう。

職業制限に該当する

自己破産手続きが開始してから、免責が確定するまでは、自己破産者は「破産者」という法律上の地位におかれます。

この「破産者」である人は国家資格として登録をして仕事をすることができないと規定されています(欠格事由といいます)。

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警備員や宅建士という職業につかれている方が割合的に多いのですが、概して「他人の資産を預かるような資格」の人にはそれぞれの業法で欠格事由が定められています。警備員は建物を警備していますし、宅建士は不動産を預かっていますね。弁護士や公認会計士といった職業はもちろんこれにあたります。医師や看護師・薬剤師は他人の財産を預かる国家資格ではないので破産者でも国家資格を失いません。

自己破産手続きを検討するにあたっては、これらの職業についている場合で、その仕事を続ける場合には、自己破産手続きの利用をすることができなくなります。

連帯保証人に迷惑をかけたくない

借入について連帯保証人がついている場合で、連帯保証人に迷惑をかけたくない、という場合があります。

この場合自己破産手続きは会社・個人問わずすべての債務を対象にする手続きなので、連帯保証人がついているものがあって、それを対象にすることができないという場合には、自己破産手続きの利用ができなくなります

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奨学金については両親が連帯保証人についているので影響があります。消費者金融等は緊急連絡先といった事項として、家族の氏名と連絡先を聞くことがありますが、ほとんどのケースでは要求されていません。一部の地方の小規模消費者金融や、事業者を対象とする商工ローンでは連帯保証人がついていることがあります。

住宅ローンを利用しており自宅を失いたくない

住宅ローンで自宅を購入した場合には、住宅ローン債権者(住宅金融支援機構や銀行など)は、住宅を抵当権という担保に入れています。

そのため、自己破産手続きを利用した場合には、住宅ローン債権者は自宅を競売にかけることができますので、自宅を失うことになります。

住宅を維持したままの自己破産手続きはできないので、自宅を維持したいという希望がある場合には自己破産手続きの利用はできなくなります。

職場に借入があり職場に知られたくない

場に借入があるような場合でも、職場も債権者となりますので債務整理の対象となります。

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給与から天引きされているような場合で返済をしているわけではないといっても、法律的には返済をしていることとして取り扱われますので、債権者に含めなければなりません。申立の段階で給与明細の提出は必須なので天引きがあるような場合は必ずわかりますので注意しましょう。

国家公務員に関しては共済からの借り入れも職場からの借入として考えるようにします。

法律上は債務整理をしたからといって解雇をすることはできないのが原則ですが、就業規則で記載している場合や、事実上居られなくなってしまうというようなことがありますので、影響を考えると自己破産できない場合はあります。

自己破産手続きを利用できない場合の代替策

上記のように自己破産手続きを利用できない場合にはどのような代替案や対策があるのでしょうか。

そもそも「支払不能」とは言えない場合の対処法

そもそも支払不能と法律上評価されないけれども支払ができない…という場合はあるのでしょうか。

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たとえば収入自体は月50万円あったとしても、その収入を妻が管理をしていて、本人は月3万程度のお小遣い生活をしており、そうなると少額の借り入れでも返済ができない、といった相談は多いです。

お小遣いの範囲の中では支払不能となっていても、家族に内緒で借金をしているので自己破産手続きの利用をしたい、というのは通用しないです。

そのため、借金をしていることを素直に話をする必要があります。

またお小遣いの範囲内で支払いが可能なのであれば任意整理をするということも可能といえば可能ですが、信用情報への債務整理歴の登録を考えると、素直に話してしまって支払いをすることが良いといえなくもないです。

免責不許可事由がある場合

すこし上述したのですが、免責不許可事由がある場合には条文上は自己破産を利用することができません。

しかし、破産法は免責不許可事由がある場合でも、その後の更生状況を鑑みれば、免責をすることが相当な場合は、裁判所の判断で免責をすることができるようになっています。

そして実務上は、きちんと破産手続きに協力していれば裁量免責という制度で免責をしてもらえます。

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この場合には自己破産手続きを利用するためには少額管財という正式な手続きを経ることになります。裁判所からは管財人という方が選任されることになり、予納金(東京地方裁判所の管轄の場合には20万円)を納めることになったり、管財人に対して様々な説明をする必要がありますが、自己破産自体は利用できます。

職業制限に該当する場合の対策

職業制限があって自己破産手続きを利用できない場合には、自己破産手続き自体の利用を諦め、任意整理や個人再生手続きの利用を検討します。

任意整理というのは、債務額を元本のみの分割弁済にしてもらうように貸金業者に交渉する手続きをいいます。

個人再生というのは、債務額を1/5程度に圧縮して分割弁済にしてもらうように裁判所の決定をもらう手続きをいいます。

個人再生は自己破産手続きと同じく裁判所を利用する手続きなのですが、こちらの手続きを利用しても欠格事由にはならないのです。

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任意整理も個人再生も返済をしなければならない手続きです。返済ができない場合は自己破産手続きを利用することになります。その際には本社の事務職など資格がなくてもなれる職種に異動してもらうか、端的に退職するほかないのですが退職金の扱いなどもあるので、必ず弁護士・司法書士などの専門家に相談するようにしましょう。

連帯保証人に迷惑をかけたくない場合の対策

連帯保証人に迷惑をかけたくない場合には個人再生手続きを利用してもすべての債務を手続きの対象にすることになりますので、任意整理での返済を検討すべきことになります。

しかし任意整理での支払いができないような場合には、連帯保証人に請求が行くことはやむを得ない、という状態になります。

この場合には連帯保証人も一緒に債務整理をすることも検討すべきことになります。

現在連帯保証人の制度については議論されているところなのですが、現状連帯保証人として契約をしてしまっている場合にこれを回避する手段はありません

連帯保証人に迷惑をかけたくないという理由で連帯保証人に対してだけ支払いをするようなケースがありますが、上述した免責不許可事由になる上で手続きの中で管財人が連帯保証人に返せと請求できるようになっています。

弁護士や司法書士を通して上手に解決できる方法を模索しましょう

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自己破産手続きの中では、連帯保証人に請求されるようになって支払いをすると、連帯保証人は破産者に請求する権利が発生することになります(求償権)が、この債権も免責されます。もっとも実際上は自己破産手続きが終わった後に連帯保証人に対して分割して返済するということがよく行われているようで、免責された債権も返済を受け取ること自体まで否定はしていません。

 

住宅ローンを利用しており自宅を失いたくない場合の対策

住宅ローンを利用しており自宅を失いたくない場合には、住宅ローンをそのままにして他の債務を圧縮できる個人再生手続きの住宅ローン特約を利用しての債務整理を目指すのが基本になります。

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圧縮された債務の支払いが難しい場合や、住宅ローンの支払い自体が6ヶ月以上滞っているような場合には個人再生の手続きも利用することができません。この場合には任意売却という方法で住宅を売却すると、うまくいくと引っ越し代の捻出ができることがあったり、セル&リースバックという任意売却の方法に成功すれば、家に住み続けながら自己破産できるような場合もあります。

任意売却については通常の不動産の売却活動ではなく、住宅ローン債権者との交渉を伴う不動産売却活動になりますので、任意売却専門の会社に依頼することになります。

職場に借入があり職場に知られたくない場合の対策

職場に借入がある場合には自己破産手続き、個人再生手続きのどちらを利用する場合でも職場には知られてしまいます。

そのため任意整理の利用が基本になります。

もっとも、任意整理での支払いが難しい場合にはやむを得ず債権者に入れることにしなければなりません。

上述もしましたが、法律上は労働者として守られた地位にはあるにもかかわらず、事実上様々な扱いをすることは避けられません。

職場からの借り入れがある場合には支払いができなくなる前にきちんと相談をしましょう。

Expert
債務整理は手をつける時期が早ければ早いほど選択肢が多いです。相談をためらった結果、借入額が増えてしまい、自己破産手続き以外に採りようがないとなってしまう前に相談をしていただければ、やれることはたくさんある可能性があります。

 

 

まとめ

このページでは、自己破産手続きが利用できないような場合にはどのような場合があるのか、についてとその場合にはどういう回避方法があるのかについてお伝えしてきました。

債務を免除してもらえるという強力な経済的再生手段ではあるのですが、デメリットがない訳ではありません。

Expert
自己破産が利用できない状況でも、専門家は次善の策を常に持っていますので、あきらめずに債務整理に強い弁護士・司法書士に相談をしてみてください。

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