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筆者は債務整理を得意とする法律事務所・司法書士事務所で事務職員(パラリーガル)として弁護士や司法書士の下で補助にあたってまいりました。
客観的に任意整理や個人再生といった支払いを継続する手続きが難しく自己破産手続きの利用をしなければならないにもかかわらず、「自己破産なんてすると人生終わるのでしたくないです」というお言葉をいただくことはよくありました。
このページでは、自己破産手続きの正しい実態についてお伝えします。
債務整理における自己破産とは
まずは、そもそもの「債務整理」とか「自己破産」ということの言葉の意味を正確に理解をしましょう
債務整理とは
債務整理というのは、自己破産・個人再生・任意整理といった借金をしてしまって、返済が難しくなった場合にとる手続き全般についての総称です。
自己破産とは
自己破産というのは、債務整理の中の手続きの中の一つで、裁判所に債務が返済不能であることを申立ることによって、残った財産を債権者に平等に分配し、残った借金については免責という形で支払う義務をなくしてくれる制度をいいます。
本来であれば借金をはじめとする債務は支払いをしなければならないのが通常です。
しかし、資本主義経済をとる我が国においては経済的に破綻することもまた想定されており、そのような場合に絶対に無限に責任を負い続けなければならないとすると、極端な話犯罪や自殺といった手段を選んでしまうようなことも出てきます。
また、経済的に破綻した者がいる場合に、残った財産を巡って債権者同士が対立するようなこともあり、法律が想定する債権者の平等がはかれない場面も出てくるようになります。
その結果取り立てが過酷になるなどして社会問題となることも考えられます。
ですので、債権者を平等に扱いつつ、債務者の債務を免除して経済的な再生の機会を与える趣旨から破産法というものが規定されており、これに基づくのが自己破産手続きです。
「自己」という表現がされているのは、自分から裁判所に申し立てをするという、破産申立に関する形式の話ですので、気にしなくても大丈夫です。
裁判所に書類を作成して申立をして、破産手続きを経て免責が確定すると、債務は原則として払わなくてよくなります。
ただし、税金や養育費のように、性質上免除することができないものが例外的にあります。
債務を免責されることによって収入から返済をしなくてよくなるので、経済的な再生がはかれる…ということになります。
平成29年度の司法統計によると、76,015件もの破産事件を新たに受付したという記録があります。
他手続きとの違い
自己破産は他の債務整理の手続きとどのように違うものなのでしょうか。
他の方法の一つは、元本のみを将来利息がつかないような形になるように話し合いをして、3年以上の長期分割にしてもらう、任意整理という手続きです。
もう一つの方法は、裁判所に申し立てをして、債務を約1/5程度に圧縮をしてもらって、3年以上の長期分割にしてもらう、個人再生という手続きです。
自己破産と個人再生は、前者は債務の支払いから免責するもので、後者は債務を約1/5に大幅に減額する手続きになるので、裁判所が厳格にチェックするために、裁判所の決定をもらうために、裁判所への申立を必要としている点で共通しています。
しかしこの2つの手続きは、どちらも長期分割にしてもらっても支払い自体はしていく必要がありますが、自己破産は支払いをしなくてよいという点で決定的な違いがあります。
自己破産のメリット・デメリット
自己破産手続きんはどのようなメリット・デメリットがあるのかを確認しましょう。
メリット
メリットは、再三申し上げていることなのですが、原則として債務を支払わなくてよいとしてくれることです。
また、弁護士・司法書士といった専門家に依頼した場合のメリットになりますが、依頼をして相手方になる貸金業者に受任通知という「案件を任せてもらったよ」という通知が送られると、督促をしてはならないことになっていますので、生活の平穏が保たれるようになります。
さらに、強硬な債権者がいるような場合には、いち早く破産手続きを利用すると、弁護士・司法書士が交渉窓口に立ってくれて、再建を破産手続きで処理してくれることになります。
デメリット
便利な手続きではあるのですが、もちろんデメリットもあります。
まず、債務整理のどの手続きにも言えることなのですが、信用情報という個人の貸し付け状況などを整理している情報機関に、事故情報として登録されてしまうことになり(いわゆるブラックリストといわれているものです)、その結果新たな借入が5年~7年できなくなることです。
住宅ローン・自動車のローン・クレジットカードの作成ができなくなりますので、人によっては影響を受ける場合があります。
次に、すべての債権者を平等に扱う必要があるので、自動車ローンや住宅ローンも平等にあつかわなければならないので、住宅や自動車が維持できないということもあります。
次に、一定の資格を利用して仕事についている人については、破産者ではないことが条件になっています。
適用の対象になる人として多いのが、宅建士や警備の資格をもっている人で、おおむね他人の財産を預かる可能性がある人がこれにあたります(医師・看護師・薬剤師は該当しませんが、弁護士・税理士・公認会計士は該当します)。
さらに、後述する正式な手続きである少額管財手続きの場合には、裁判所に申し立てをしてから、手続きが終了するまでは、郵送物が裁判所に転送されるという措置がとられますので、家族に内緒にするというのが難しい場合があります。
裁判所に対する申立が必要になるので、たとえ弁護士・司法書士といった法律の専門家に任せても自動でなにもかもやってくれるわけではなく、通帳を記帳の上提出したり、家計に関する情報を提出したり、必要に応じて電気料金などがわかる書類を提出したりなどの義務があるので負担だという事も挙げられます。
最後に国の新聞である官報に、破産手続きの利用をしたことが掲載されますが、ほとんどの人はこれを見ないためデメリットとして挙げるほどでもないといえるでしょう。
都市伝説に注意しよう
この破産手続きをするにあたって、都市伝説といえるような情報が信じられていることがあります。
上記のようにデメリットが避けられない手続きではあるので、ある程度の負担は伴います。
しかし、人によってはまったく該当しないデメリットもありますし、後述するように代替するようなものがあったりするので、自分が「これがなければ困る」というものを専門家にぶつけてみてください。
きちんと債務整理に詳しい専門家であれば、うまく不利益を回避できるような方法について伝えてくれるはずです。
本当にデメリットか考える
たとえば、信用情報に事故情報として名前が載るので、借入ができなくなるのがデメリットと伝えられることが多いです。
しかし、そもそもなぜ多重債務に陥ってしまったのか?という原因を考えると、収入に見合った生活をせずに安易な借入に頼ってしまった結果ではないでしょうか。
自己破産をすることによって、借り入れができなくなったり、クレジットカードが利用できなくなるなどの不便は、確かにあるかもしれません。
しかし、収入以上の行動をすることができない生活をしなければならないのは、逆に言うと身の丈にあった生活習慣がいやでも身に着くチャンスだといえます。
代わりになってくれる方法はある
自己破産手続きを利用すると、従来と同じ生活を送るのは難しいかもしれませんが、代わりになる方法がたくさんあるので、いくつか紹介します。
クレジットカードが使えなくなるので、インターネットでの買い物などができないと考えている人もいらっしゃるかもしれませんが、デポジット方式のVIZAデビットを利用することで代用できます。
ETCカードが使えないと困る方は、同じくデポジット方式のETCパーソナルカードなどのサービスが用意されているので、こちらを利用することができます。
住宅ローンをかけていて自宅を守れないと困るという場合や、資格制限などで自己破産手続き自体を利用できない場合には、個人再生手続きを利用することも検討されることになります。
その人によって、どのような方法で従来の生活を維持することができるかが異なってくるため、悩んでいるならば早めに相談をするようにしましょう。
自己破産までの流れ
では自己破産手続きはどのように進むのかを、自己破産の2つの手続きの同時廃止・少額管財に分けてみてみましょう。
同時廃止
同時廃止という手続きは、省略された手続きなので、手続きが簡単に・安く終わります。
まず法律事務所・司法書士事務所に事前に、相談の予約をします。
予約日時を決定すると、当日に法律事務所・司法書士事務所を訪問します。
事前に準備は不要ですが、相談をするにあたって、以下のようなことの聴取をするので、まとめておくと相談がスムーズにすすむでしょう。
債務に関すること | 債権者の会社名
残高がいくらあるか いつから借り入れをしているか(大体でもよいです) 途中で完済したことがあるか 連帯保証人の有無 担保の有無 公正証書を作成したかどうか |
返済能力に関すること | 現在の収入
ざっくりとした家計の状況 |
その他 | 妻に内緒にしたい
親へ仕送りをしている 離婚協議をしている |
依頼をすると、弁護士・司法書士は債権者に受任通知(依頼をうけたことを知らせる通知)を送付します。
受任通知には取引の履歴の提出をもとめる文言が書かれているので、取引履歴が到着次第弁護士・司法書士は債務額の確定をします。
債務額が確定すると、弁護士費用の分割払いの返済が終わるまでは、特にすることはありません。
分轄払いが終了すると、申立の準備に入ります。
申立に必要な事項の聴取と裁判所に提出する証拠書類を作成してゆくことになります。
申立書類を作成すると、弁護士・司法書士が申立を行い、申立が同時廃止事件として取り扱うことができるかを検討します。
問題がなければ、裁判所に呼び出しをするための期日を設定をして、期日に裁判所へ出頭します。
裁判所が自己破産手続きを認めて終了を宣言して、1ヶ月が経過すると免責が確定することになります。
少額管財
少額管財というのは、管財人という裁判所から指定される破産案件の調査をする人(弁護士が選ばれる)が登場する自己破産手続きをいいます。
申立までは前述の同時廃止と基本的にはかわりませんが、申立にあたって予納金という裁判所に納めるお金を積み立てなければならなくなります(東京地裁管轄の場合には20万円)。
申立がされると、管財人が選任されますので、管財人との面接をするための日程を組みます。
管財人との面接を経て免責をするための裁判所での打ち合わせを行うことになります。
管財人という人に払う費用が増え、手続きとしては打ち合わせが2回に増える、というものになります。
まとめ
このページで「自己破産手続きをすると終わる」という意見に対して、手続きに携わってきた者の観点から自己破産は経済的な再生をするための協力な手続きであることをお伝えしてきました。
どうしてもマイナスのイメージがつくので敬遠されがちな自己破産ですが、実際には多数の方がこの手続きを利用して経済的な再生を果たしています。
心理的な負担や手続き的負担は確かに存在するのですが、どうしてそのようなものがあるのか?ということをしっかり知った上で、早期の経済的再生を目指したいところ。
デメリットとされるものがどの程度自分に関わり合いがあるのかは、個人の状況によって異なってきます。
経済的な再生をしたいのであれば、弁護士・司法書士といった専門家に早めに相談するようにしましょう。