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この記事をお読みになった皆様の中に、両親が遺した自宅の処分に困っていらっしゃる方もいるかと思います。
筆者の両親は地方に自宅を持って住んでいます。
一方筆者自身は両親の住んでいる地域から遠く離れた三大都市圏に住んでおり、両親が住んでいる地方には帰る意思がないため、筆者自身も将来、両親が遺した自宅の処分に悩む時がくるため、この空き家問題はずっと気にかけていました。
空き家を処分するにしても、維持するにしても、税金等でお金がかかってきます。
以下の記事では空き家に係る税金の概要、空き家に係る税金の節約方法をまとめました。
皆様の空き家問題対策のヒントになれば幸いです。
空き家問題の概要
空き家問題の背景
「空き家」問題は、地域住民の生活の安全性などに大きな影響を及ぼしています。
その発生原因は、直接的には、空き家の利用等が見込まれないことやその売却にも困難が伴うことが少ないことによると考えられています。
発生原因の根源は、日本が人口減少社会へ移行していること、土地の資産としての有効性が低減していること、などが挙げられます。
空き家の現状
平成25年10月時点で、住宅の数は、総世帯数に対して約820万戸超過している状況にあります。
また、空き家を取得した原因の半数が「相続」になっているなどという分析が行われている各種統計資料もあります。
空き家を売却する場合の税金
ここでは空き家を売却する場合に税金を安くする方法(法律上の用語では特例と呼んでいます。)を紹介します。
自分の居住用財産を売却して譲渡益が生じた場合に受けられる特例
3,000万円特別控除
居住用財産を譲渡して譲渡所得が発生する場合、一定の要件を満たしていれば、その譲渡所得の金額から3,000万円を控除することができます。
譲渡所得の金額が3,000万円に満たない場合には、その譲渡所得の金額を限度として控除することができます。
この特例は居住用財産を配偶者、生計を一にする親族、一定の同族会社などに対して譲渡する場合には適用できません。
また、譲渡する年の前年、前々年に譲渡した居住用財産について、既にこの特例の適用を受けている場合には適用できません。
なお、他の一定の居住用財産に関する譲渡所得の課税の特例を既に受けている場合も適用できません。
軽減税率
所有期間が10年を超える居住用財産を譲渡した場合に、通常の税率によらず、軽減税率を適用して所得税・住民税を計算することができます。
ちなみに、10年を超えるという所有期間は、資産を取得した日から譲渡する年の1月1日までの期間で判定します。
不動産の譲渡所得に対する税率は、所得税率15.315%(復興特別所得税を含みます。)、住民税5%の合計20.315%の税率となっています。
この特例を受ける場合は、以下のような税率になります。
課税長期譲渡所得の金額 | 所得税(復興税含む) | 住民税 |
6,000万円以下の部分 | 10.21% | 4% |
6.000万円を超える部分 | 15.315% | 5% |
特定の居住用財産の買換え・交換の特例
居住用財産を買換え・交換した場合、一定の要件を満たしていれば、譲渡をなかったものとみなしたり、譲渡所得の金額を通常の計算よりも低くすることができます。
買換えの特例は、平成31年12月31日までの間に、所有期間が10年を超え、かつ、居住期間が10年以上の居住用財産を譲渡し、買換え資産を取得したときは次のようになります。
買換資産の資産の取得価額が譲渡資産の収入金額以上に大きい場合は、譲渡資産の譲渡はなかったものとみなされ課税はされません。
譲渡資産の収入金額が買換資産の取得価額を超える場合は、以下のように譲渡所得が計算され、課税されます。
A 譲渡収入 = 譲渡資産の収入金額① - 買換資産の取得価額②
B 必要経費 = (譲渡資産の取得費+譲渡費用)× (①-②)/①
C 譲渡所得 = A-B
なお、この特例については、以下の場合には適用できないので、留意が必要です。
居住用財産を配偶者、生計を一にする親族、一定の同族会社などに対して譲渡する場合には適用できません。
譲渡する年の前年・前々年に譲渡した居住用財産について既にこの特例の適用を受けている場合には適用できません。
他の一定の居住用財産に関する譲渡所得の課税の特例を既に受けている場合には適用できません。
譲渡対価の額が1億円を超える場合には適用できません。
自分の居住用財産を売却して譲渡損が生じた場合に受けられる特例
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算・繰越控除
損益通算
居住用財産を譲渡して損失が生じた場合に、一定の要件を満たしていれば、その譲渡損を他の所得と損益通算することが可能です。
※損益通算とは、平たく言いますと、赤字が出ている所得と黒字が出ている所得を合算して所得を減らすことを言います。
所得に対して税率をかけて、所得税が算出されますので、損益通算をすれば、しない場合よりも税金を減らすことができます。
なお、以下の条件を満たすことが必要です。
- 平成31年12月31日までの間に、所有期間が5年を超える居住用財産を譲渡して譲渡損が発生すること
- 買換資産を住宅ローンなどで取得した場合
ただし、買換資産を取得した年の年末に、その買換資産にかかる住宅ローンが残っていることが必要です。
繰越控除
また、損益通算してもなお控除しきれない損失の金額があるときは翌年分以降3年間の繰越控除も認められます。
なお、以下の条件を満たすことが必要です。
- 繰越控除をする各年の年末に買換資産にかかる住宅ローンが残っていること
- その年の合計所得金額が3,000万円以下であること
損益通算、繰越控除ともに、以下の場合には適用できないことに留意が必要です。
居住用財産を配偶者、生計を一にする親族、一定の同族会社などに対して譲渡した場合には適用できません。
譲渡する年の前年・前々年に居住用財産に関する譲渡所得の課税の特例を既に受けている場合には適用できません。
特定の居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除
居住財産を譲渡して損失が譲渡して損失が生じた場合に、買換資産を取得していなくても、一定の条件を満たせば、以下のように、損益通算・繰越控除をすることができます。
損益通算
平成31年12月31日までの間に、所有期間が5年を超える居住用財産を譲渡して譲渡損が発生した場合には、譲渡した居住用財産にかかる住宅ローンの譲渡契約締結日の前日の残高から譲渡の収入金額を引いた金額を限度として、その金額を他の所得と損益通算することができます。
繰越控除
損益通算してもなお控除しきれない譲渡損の金額があるときは、翌年以降3年間の繰越控除が認められています。
ただし、各年の合計所得金額が3,000万円以下である場合のみです。
なお、損益通算・繰越控除ともに以下のようなことがある場合にはできませんので、ご留意ください。
- 親族等に対して譲渡した場合
- 前年・前々年に他の居住用財産に関する特例等の適用を受けている場合
空き家譲渡の3,000万円控除の特例
相続等(遺贈・死因贈与を含みます。)により被相続人居住用家屋及びその敷地等の取得をした個人(相続人、包括受遺者に限られます。)が対象の制度です。
そして、その個人が平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に、以下の条件を満たす空き家の譲渡をした場合が対象です。
※相続開始のあった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに行った場合に限定されます。
- 相続等により取得した被相続人居住用家屋で、譲渡の時において地震に対する安全性に係る一定の基準を満たすものの譲渡、もしくは、被相続人居住用家屋とともにするその家屋の敷地等の譲渡で、いずれも相続開始の時から譲渡の時まで未利用となっているものの譲渡
- 相続等により取得した被相続人居住用家屋の全部の取り壊しもしくは除却をした後又はその全部が滅失した後におけるその相続等により取得したその被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡
上記の条件を満たす譲渡は、その個人の居住用財産を譲渡したものとみなして、譲渡所得の金額から3,000万円を控除することができます。
なお、被相続人居住用家屋については、相続開始の時から取り壊し、除却又は滅失の時まで未利用となっているものに限られます。
また、その敷地等については、相続開始の時から譲渡の時まで未利用となっているもので、取り壊しの時から譲渡の時まで建物等の敷地の用に供されていないものに限られます。
空き家を維持する場合の税金
空き家を維持する場合には以下に挙げる税金がかかりますので、留意しましょう。
固定資産税
毎年1月1日現在の土地、家屋及び償却資産(以下、固定資産と呼びます。)の所有者に対し、その固定資産の価格をもとに算定される税額をその固定資産の所在する市区町村が課税する税金です。
納税義務者は、毎年1月1日現在の土地、家屋又は償却資産の所有者として、固定資産課税台帳に登録されている方です。
※固定資産課税台帳とは、市区町村が固定資産税を課税するために所有している資産明細の台帳のことです。
税率は100分の1.4が基本となります。
土地と家屋については原則として3年間評価額を据え置く制度、すなわち、3年ごとに評価額を見直す制度がとられています。
都市計画税
都市計画事業又は土地区画整理事業に要する費用に充てるために、目的税として課税されるものです。
都市計画法における都市計画区域のうち、原則として市街化区域内に所在する土地及び家屋が課税の対象となります。
固定資産税と同様に、1月1日現在の土地又は家屋の所有者として、固定資産課税台帳に登録されている方が納税義務者となります。
土地の課税標準額は、固定資産税の課税標準となるべき価格ですが、住宅用地については、課税標準の特例措置があります。
- 小規模用宅地(住宅1戸あたり200m^2までの住宅用地)は、価格の3分の1
- その他の住宅用地は、価格の3分の2
家屋の課税標準額は、固定資産税の課税標準となるべき価格です。
税率は例えば東京都23区内ですと、100分の0.3です。
特定空家等に該当すると固定資産税等が高くなる
空家等対策の推進に関する特別措置法が現在施行されています。
この特別措置法は、以下のことを規定しています。
- 空き家の実態調査と所有者への適切な管理の指導等
- 適切に管理されていない空き家を「特定空家等」に指定することが可能
- 「特定空家等」に対して、手順として助言・指導・勧告・命令が可能
- 「特定空家等」に対して、「財政上の措置」及び必要な「税務上の措置」が可能
- 「特定空家等」に対して、ケースにより罰金等を行うことが可能
特定空家等とは、特別措置法の中で以下のように定義されています。
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となる状態
- 著しく保安上危険となる状態
- 著しく衛生上有害となる状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
上記のような状態にあると認められる空家等をいいます。
この「空室等対策の推進に関する特別措置法に基づき市区町村から勧告を受け、賦課期日(当該年度の初日に属する年の1月1日)までに勧告に対する必要な措置が講じられない「特定空家等」の基地に対しては、固定資産税などの住宅用地に係る課税標準の特例の適用対象から除外されます。
すなわち、固定資産税が高くなってしまいます。
ここで、住宅用地に係る課税標準の特例とは以下のことを指します。
- 住宅用地に係る固定資産税の特例は、課税標準となるべき価格を3分の1とする(3分の2相当を減額)
- その面積が200m^2以下の住宅用地は、小規模住宅用地の特例として課税標準となるべき価格を6分の1とする(6分の5相当を減額)
- 都市計画税も住宅用地の特例は固定資産税と同様だが、小規模住宅用地以外の一般住宅用地の課税標準額については、価格の3分の2の額とする
- 小規模住宅用地の特例については、課税標準となるべき価格を3分の1とする
空き家の相続に関して
空き家の所有権の帰属
一般的には次の順序に従って、所有権の帰属が決まります。
- 被相続人が遺言書を遺していた場合又は死因贈与契約を締結していた場合は、遺言によってその空き家の所有権の帰属を指定されていた者又は死因贈与契約の受贈者
- 相続人(包括受遺者及び相続分の譲受人を含みます。)の全員で遺産分割協議を行った場合は、遺産分割協議によりその空き家を取得することとなった相続人
- 遺言書や死因贈与契約がなく、相続人全員による遺産分割協議が調わない場合には、相続人全員の共有
法定相続人及び相続分
以下の表のようになります。
続柄 | 配偶者 | 子(直系卑属) | 父母(直系尊属) | 兄弟姉妹 |
第1順位 | 1/2 | 1/2 | – | – |
第2順位 | 2/3 | – | 1/3 | – |
第3順位 | 3/4 | – | – | 1/4 |
法定相続情報証明制度
空き家問題の1つの大きな要因として、相続登記が未了のまま放置されるということがあります。
これは、不動産の相続登記に限らず相続税の申告、金融機関等に対して各種相続手続を行う際に、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍、改製原戸籍)の謄本及び相続人の戸籍の謄(抄)本をそれぞれの法務局や金融機関等の手続ごとに提出する必要があって非常に煩雑ということがあります。
これらの戸籍等の束の提出に代えて、法務局の登記官が認証した「法定相続情報一覧図」を提出できるようにする制度のことです。
遺贈による登記の必要書類
次のような事例の場合で、遺贈による登記の必要書類について以下に記載します。
- Aが夫、Bが妻で、Aが亡くなった
- AとBにはCとDという2人の子供がいる
- DにはEという子供がいる(AとBから見た場合、Eは孫である)
被相続人Aが遺言書を遺しています。
遺言書によると、居住用財産(空き家)を含む遺産全部を包括してEに遺贈する旨(包括遺贈)の記載があります。
この場合に登記に必要な書類は以下のとおりです。
- 遺言書
- Aの死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)の謄本
- 登記済証又は登記識別情報通知
- Eの住民票の写し
- 固定資産評価証明書
更に遺言執行者がいる場合は追加で以下の書類が必要です。
- 遺言執行者の資格を証する書面
- 遺言執行者の印鑑証明書(登記申請時点で3か月以内に発行されたもの)
遺言執行者がいない場合は以下の書類が必要です。
- Aの出生から死亡までの連続した戸籍(除籍、改製原戸籍)の謄本
- Aの相続人全員(B、C、D)の戸籍謄本
- Aの相続人全員(B、C、D)の印鑑証明書(登記申請時点で3か月以内に発行されたもの)
まとめ
ここまでお読み頂きましてありがとうございました。
記事の中では空き家を売却する場合に、所有期間が長い場合等一定の条件を満たす場合は、譲渡所得を減らすことができる制度について紹介しました。
空き家を売却して、そのお金で新たに住宅を購入した場合にも、譲渡所得を減らすことができる制度も紹介しました。
空き家を維持するときには、固定資産税、都市計画税を支払わなければならず、「特定空家等」になってしまうと、それらの税金の金額があがってしまうことを紹介しました。
最後に空き家の相続にあたって、押さえておいて頂きたい事項を紹介しました。
この記事が皆様の参考になりましたら幸いです。