【株式投資のコツ】地政学リスクがマーケットに与える影響を知ろう!

SHARE

「地政学リスクを警戒し日経平均株価は下落」など、頻繁に「地政学リスク」という言葉を新聞やネットのニュースで目にします。今回は、そもそも地政学リスクとはどういうものなのか、マーケット(市場)にどのような影響を与えるのかを詳しく解説していきます。まずは、地政学リスクの定義から見ていきましょう。

地政学リスクとは

地政学リスクとは 、特定の地域が抱える、政治的・軍事的・社会的な緊張の高まりが、地理的な位置関係によって、その地域や関連地域の経済のみならず、世界経済全体の先行きを不透明にし、株や債券、コモディティ(商品)などマーケットの価格を変動させるリスクを指します。例えば、中東において紛争やテロが起こると、石油関連株が値上がりして、株価に悪影響を与えたり、世界で経済が停滞したりすることなどが挙げられます。

地政学リスクが高まった背景には、グローバリゼーションの進展があります 。グローバリゼーションとは、人、モノ、金が国家の枠組みを超えて活発に移動し、各国経済の解放と世界の産業、文化、経済市場の統合が進む現象をいいます。経済のグローバリゼーションが始まったのは、1988年からといわれています。

グローバリゼーションの恩恵を最も受けたのが中国やインドなど新興国の中間層で、最大の敗者が先進国の中間層です。 また世界的な格差も拡大しています 。2016年に発表されたレポート 「AN ECONOMY FOR THE 1%」(1%のための経済)では、世界の下位半分(約36億人)が所有する総資産は、世界で最も裕福な62人の総資産とほぼ同じであるという衝撃的な内容を発表しました 。

途上国だけでなく、先進国においても中間層が没落したことにより格差が拡大しました。先進国の中間層の声が、世界中を席巻し、「ポピュリズム(大衆迎合主義)」の台頭につながっています。米国ではトランプ大統領が誕生し、イギリスでは EU 離脱(ブレグジット)につながっています。

現在最も警戒されているリスクは、米中貿易戦争です。さらに、中東の緊迫化(イランやサウジアラビア)などによって原油価格が急騰、イタリアドイツ、フランスなどユーロ諸国の政治混乱など世界中には様々な地政学リスクがあります。

出典:グローバルリスク報告書2018

世界経済フォーラムが発表した「グローバルリスク報告書」においても「地政学リスクは2018年においても増大する」と答えた回答が多くありました。地政学リスクは、世界経済の成長に大きな影響を与えます。そして、マーケットにも多大な影響を及ぼすのです。

米中関係の地政学リスク

米中貿易戦争は、テクノロジーにおける覇権争いですが、中国の習近平国家主席が宣言した「一帯一路」「中国製造2025」など世界に影響を与えるために、新たな中華圏を築こうとしていることに加え、南シナ海での米国との海洋覇権争いも絡んでいます。

一対一路とは、習近平国家主席が就任以来強調している「中華民族の復興」の一つで、一帯一路構想は、この思想を具体化しようとするものです。「一体」とは中央アジアから欧州に向かう陸路のシルクロードであり、「一路」は、南シナ海からインド洋をめぐり奥州に向かう海上シルクロードのことです。沿線にある70カ国を支援する構想で、ユーラシア大陸に中華経済圏を作ることが狙いです。

「中国製造2025」とは、2015年5月に中国政府が発表した、今後10年間の製造業発展のロードマップのことです。 第一段階として、2025年までに世界の製造強国入りを果たし、第2段階として2035年までに中国の製造業レベルを世界の製造強国の中位にさせる。そして、第3段階として2045年には、製造強国のトップになるというものです。

中国は、1840年に英国が仕掛けたアヘン戦争での敗北の屈辱をいかに晴らすかということを常に考えています。地政学的にいえば、西太平洋は中国のもの 。しかし、アメリカがハワイやグアムを取り、日本に戦争で勝ったアメリカが西太平洋の覇権国となっています。

これは中国の国力を沿岸で抑止することを意味しています。これをせめて第一列島線までは取り戻したいという思惑があるのです。(下図の左の赤いラインが第一列島線、右が第2列島線) 。これにより、日本の尖閣諸島や、台湾、フィリピンなどで紛争が起きています。

出典:ダイヤモンド

トランプ氏が仕掛けた貿易戦争での先制攻撃は、技術や経済力、軍事力などあらゆる面で世界の覇権争いを繰り広げる両国の戦いが本格したという出来事の一つにすぎません。貿易戦争だけではなく、その他のあらゆる分野において対立が長く続くという可能性は否定できません。

中東の地政学リスク

中東においては、石油だけでなく宗教上の対立など複雑な要因が絡み合っています。そしてアメリカとイランとの対立が激化する中、突如起こったサウジアラビアによるジャーナリスト殺害事件。これにより中東のパワーバランスは大きく崩れかねません。

出典:NHK

中東とは、西アジアから北アフリカにかけての広い範囲が当たります。上の図では、東はイランから西はチュニジアまでとなっていますが、アフガニスタンやアルジェリア、モロッコなどが含まれることもあります。

アメリカは、1930年代にサウジアラビアで石油の利権を獲得してから、この地域で巨額の利益を上げてきました。石油を安定的に確保し、利権を守るには「中東の安定」は絶対条件となりました。そして、ユダヤ国家であるイスラエルを同盟国として守るというのも、中東での国益と位置づけています。

日本は石油の大半を輸入に頼っていて、湾岸諸国から9割近い石油を輸入しています。そして、輸入の4割がサウジアラビアとなっています

トルコでのサウジアラビア人記者の殺害事件は、サウジアラビアのイメージを失墜させました 。サウジアラビアは世界最大の原油輸出国です。生産余力を調整することで、市場を安定させる役割を演じてきました。 しかし、今回の事件により真相の解明を求める国際圧力に対抗する過程で犯した失策は、石油大国としての地位を危うくさせています。

サウジアラビア政府は、自国の情報機関による犯行を認めましたが、国の実権を握るムハンマド皇太子の関与は否定しています。体制維持を最優先に国際的な批判をかわすことに成功しても、疑念を残す幕引きは、投資家に不信感を残しています。サウジアラビアの資金のイメージは悪化し、投資国家を目指す同国の戦略や外国投資の受け入れにはブレーキがかかる可能性があります。

その他(欧州・新興国)の地政学リスク

その他の地域の地政学リスクも見ていきましょう。

欧州の地政学リスク

昨年までは欧州の中心として重しの役割を果たしてきたドイツですが、メルケル首相が与党の党首から退くことを表明しました。首相の座には2023年の任期切れまで止まる可能性があるものの、求心力の低下は避けられない状況となっています。

イギリスの EU 離脱や、財政問題をめぐるイタリアとEUの対立など、欧州の課題も多く残っています。これまで EU を支えてきたドイツのメルケル首相の政治力の衰えが加速すれば、欧州のみならず、国際社会にも大きな影響を与える可能性があります。

メルケル政権にとって大きな逆風になったのは、難民問題です。2015年に中東などから難民が大量に流入したのを受け、半難民を掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を広げ、今回の州議会選でも躍進しました。欧州でも反難民や反グローバルを説く極右やポピュリズム(大衆迎合主義)の政党が各地で勢力を広げているのです。

欧州でのポピュリズムの台頭はこれからも続くと予想されています。その要因の一つは、移民の占める割合が高くなっていることです。欧州主要各国で見ても、ドイツやイギリス、フランスなど主要国は軒並み10%を超えています。これ以上は受け入れられないという声が上がるのも無理はありません。

移民の比率がこれほど大きくなると、経済や文化面での衝突も起きてきます。人道主義的な面から移民を受け入れてきたスウェーデンでも、移民の比率が20%近くになり、長い間政権を率いてきた社会民主労働党が大幅に議席を減らし、移民排斥を掲げるスウェーデン民主党が躍進しました。他の欧州諸国も含め、今後もポピュリズムの台頭が止むことはないと予想されています。

新興国の地政学リスク

中東情勢の不安定化による原油価格の高騰や、米国の利上げ継続による新興国の通貨安は大きな問題となっています。米中貿易摩擦の激化も影を落としています。特に今年夏以降、トルコリラの急落によって新興国からの資金流出圧力が強まりました。

11月に入っても、米連邦公開市場委員会( FOMC) を受け、先行きの米利上げ観測が強まっています。外為市場では、メキシコペソやトルコリラなどの新興国通貨が対ドルで大きく下落。

今後も FRB 連邦準備制度理事会が利上げを継続していけば、世界的なマネーが米国に還流する動きが継続し、新興国にとっては資金流出懸念が続くことになります。

さらに、原油価格高騰というリスクも表面化しつつあります。きっかけは今年5月の米トランプ政権によるイラン核合意からの離脱決定、そしてサウジアラビア記者殺害による中東情勢の不安定化です。原油価格の高騰は原油を輸入に依存する新興国にとっては輸入額が増えるので経常収支の悪化につながります。しかも、エネルギー価格上昇でインフレ懸念が懸念されます 。

ただ、11月に入り原油価格は急落しました。原油の最大輸入国の中国の景気後退懸念が強まっていることが要因とされています。中国内需が景気減速への警戒感が強まっています。原油価格のボラティリティ( 値動き)の高さは、市場の不確実性を高め、投資家心理の悪化につながります。

米中貿易摩擦による悪影響も懸念されます。アジアの新興国は、中国に対する輸出依存度が相対的に高くなっています。中国の対米輸出の縮小は、アジア新興国からの中国向け輸出にも影を落とします。 米国による金利引き上げや地政学リスクが高まる中、今後の新興国経済は非常に舵取りが難しい状況になっていくと考えられます。

地政学リスクがマーケットに与える影響

中国関連株(株式市場)、金、為替に与える影響を見ていきましょう。

中国関連銘柄

世界経済の減速に対して、最も警戒されている米中貿易摩擦。 7月の中国GDP( 国内総生産)は6.5%となり9年半ぶりの低水準となりました。上海総合指数も年初から大幅に下落しています(下図)。

米中間選挙が過ぎれば、悪材料が出尽くしで株価が上がると見られていましたが、中国経済の縮小が止まらず、経済の停滞色が強いなどの厳しい見方が優勢になっています。

出典:SBI証券

自動化を進める中国の工場がなどから受注している工作機器メーカーや、産業ロボットの製造企業など中国関連銘柄とされている株価水準も年初から右肩下がりになっています。 4月から9月の決算には、米中貿易摩擦の影響が顕著化してきました。

日本経済新聞の記事によると、豊田自動織機は、2019年3月に75億円、デンソーは50億円の減益になると試算。三菱電機は工場の自動化機器の需要が減少し、主力の産業メカトロニクス部門の利益予想を100億円引き下げています。

さらに、産業用ロボットなどメカトロニクス製品の製造を行う安川電機は、今年の4月には2019年2月期の連結純利益が去最高に最高の500億円になると 発注したものの、半年後の10月には通期予想を30億円減の470億円に引き下げました。中国の設備投資減速が業績を直撃したためです。

11月末の米中首脳会談が終わるまでは、中国リスクは警戒される展開が続くと予想されます。

有事の「金」

金は、「有事の金」といわれます。1970年頃の米ソ冷戦時代に、万が一のことが起きても実物が残る資産保全手段として、金が最後の拠り所とされたことが発端です。現在では、軍事紛争まで行かなくても、政治リスクや地政学リスクが高まると、しばしば買い材料となります。

しかし、同じくドルも「有事のドル買い」と言われ、基軸通貨として安全資産の一つとされています。ですから、金とドルに関しては逆相関の関係があり、ドルが強いと金が安くなる傾向にあります。

FRBによる利上げに伴い、米金利上昇は利子のつかない金の逆風となり、今年は軟調な展開が続いてきました(下図)。

出典:SBI証券

しかし、米中貿易戦争の長期化懸念や、中東情勢の不安定さから、投資家の急激なリスク回避姿勢の高まりが、有事の金の追い風となりつつあります。

金には、債券の金利や株の配当のようなインカムゲイン(利回り収入)がないため、値上がり益を確定する必要があります。ただ、安全資産とされていますが、コモディティ(商品)なので、価格が激しく動く場面もあります。

金は、ドル相場に最も影響を受けるので、米国の利上げのペース が最大の相場材料となっているものの、米中貿易摩擦に加え、米国とサウジアラビアの関係が緊迫するなど中東情勢の問題もあります。

また、ヨーロッパでは英国の EU 離脱や、イタリアの財政問題といった政治リスクもくすぶっています。そうした中、金融市場の波乱要因がでてきた場合に、再び金に注目が集まる展開が予想されます。

為替(FX取引)に与える影響

トルコリラを発端とした新興国通貨の暴落によって、為替市場は大きく荒れましたが、個人投資家による外為証拠金取引( FX) では、新興国通貨取引が拡大しています。東京金融取引所の FX( くりっく365)では新興国通貨の取引量が2018年に過去最高となる見込みです。日本の個人投資家は逆張りを好み、下落(円高)過程で取引が増える傾向にあります。

新興国通貨の取引量は、 FX全体の4割といわれています。2018年は、全体の取引量も2年ぶりに前年を超える見込みです。米利上げ観測が続く中、新興国通貨の不安は拭えていません。また、8月のトルコショックでは、多くの投資家がロスカット(損失覚悟の売り)を迫られました。

インフレによる財政面の問題など、新興国リスクはまだ続いています。さらに、米中貿易摩擦や中東情勢など不安定要素があり、しばらく厳しい展開が続きそうです。

まとめ

今回は地政学リスクについてみてきました。軍事紛争だけでなく、米中貿易摩擦、そして中東とアメリカの関係、アメリカの利上げによる新興国通貨の下落。欧州の政治リスクと世界各国に様々なリスクがあります。ただ、現在のリスクはアメリカのトランプ政権が絡んでいることが多くなっています。

アメリカの金融政策とともに、トランプ政権が今後どのような対応を世界に対して行なっていくのかが、地政学リスクに対しても重要視される点でしょう。

 

コメントを残す