全国に拡がりつつある宿泊税とは?宿泊税についてわかりやすく解説します!

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近年の外国人観光客の著しい増加に伴い、ホテルや旅館などの宿泊施設では宿泊税が導入され始めています。

東京都、大阪府は導入済み、そして京都府で実施が始まり、その他の地域でも導入が検討されています。とくに多くの観光客が期待できる都市部において全国的に導入が拡がりつつある宿泊税は、ホテルや旅館だけでなく、民泊においても適用されることになります。

宿泊税とはいったいどのような仕組みになっていて、何に使われる税金なのでしょうか。今回は宿泊税についてわかりやすく解説していきます。

宿泊税とは何?

宿泊税とは、宿泊する際に宿泊料金に課税される地方税のことをいいます。

宿泊税はホテル税とも呼ばれており、ホテル、旅館、民泊などの宿泊施設で宿泊する場合に課税される税金のことです。宿泊税は法定外目的税の1種であり、各地方自治体が徴収を行うものです。

従って、地域によって宿泊税の税率や使途は異なります。

※地方自治体が宿泊税を設定するためには総務大臣の同意を必要とします。

宿泊料金とは、食事料金等を含まない、「素泊まりの料金」のことです。

課税対象者は、宿泊客。

宿泊税の支払いは、

基本的に1人1泊の宿泊料金にそれぞれ地方自治体の定めた税率が適用されます。宿泊客は宿泊料金を支払う際に宿泊料金と宿泊税を宿泊施設へ支払います。

宿泊施設は、そこで得た宿泊税を1か月ごとに、地方自治体に申告・納付を行います。

  • 宿泊税を課金するのは→地方自治体が宿泊客に課税
  • 宿泊税を支払うのは→宿泊客
  • 宿泊税を申告・納付を行うのは→宿泊施設

国の政策

今後は、全国的に宿泊税の導入を考える自治体が増えていくと見られており、その背景には国の財源確保の政策が大きく関わってきます。

どのような政策なのかは、平成29年9月に観光庁が公開しています。

 

観光庁の「新たな観光財源の確保策について」

 

観光庁は国の政策として、訪日外国人旅行者の数を、2020年4,000万人、2030年6,000万人を目標に掲げており、達成に向けて3つの視点で施策を実施しています。

視点①
「観光資源の魅力を極め地方創生の礎とする」

視点②
「観光産業を革新し国際競争力を高める」

視点③
「すべての観光者が快適に観光を満喫できる環境づくり」

以上3つの視点で施策していくことが目的とされています。本来は自動車、化学製品、電子部品などの業種が日本経済を支えていますが、ここ近年では、訪日外国人による国内消費額の上昇が急激に目立ってきています。

2016年度の訪日外国人の消費額は3兆7,476憶円、輸出額3位の電子部品を追い越すほどの勢いとなり、今後の消費額が期待されているのです。

※訪日外国人消費額と輸出額の比較

出典:観光庁 参考URL

※観光庁予算の推移(単位:億円)

出典:観光庁 参考URL

上のグラフは観光庁の観光事業における予算の推移を表したもので、2015年から2016年にかけて約2倍、2016年から2017年にかけても2倍近く予算は増加してきています。

そして、これから東京オリンピックを迎えるにあたって、ますます観光事業を推進していく動きは強まっています。

宿泊税導入の現状

上述のように、国政の一環として観光財源をまかなうことを主柱に、いくつかの自治体では宿泊税の導入を始めています。

実はこの宿泊税と似たような地方税が以前にもあったのです。

国内で宿泊税の基盤ともなる特別地方税に、遊興飲食税というものが1940年~1999年まで実施されていました。ところが、消費税との二重課税を指摘する声も多く廃止されています。

その後、2002年に東京都が宿泊税を新たに導入。続いて2017年に大阪府が宿泊税を導入しています。京都市は2018年10月から開始しており、金沢市は2019年の実施予定となっています。

そして、現在、福岡市と福岡県が観光財源をめぐって対立しており、宿泊税の徴収にあたり討議中であります。また、北海道やその他の地域でも導入が検討されています。

地方税の1つである、宿泊税は各地域によって詳細が異なるわけですが、それぞれどのような内容になっているのかを見ていきましょう。

東京都

宿泊税の税率
1人1泊の宿泊料に対して
:1万円未満→非課税
:1万円~14,999円まで→100円
:1万5千円以上→200円

※東京都の宿泊税の推移

国内では先駆けて宿泊税の徴収を行っている東京都では、2010年辺りに税収額は一旦低下していますが、2013年からは大きく増加しているのが分かります。

導入以降、約15年間の総税収額は192憶円であったことが公表されています。

大阪府

宿泊税の税率
1人1泊の宿泊料に対して、
:1万円未満→非課税
:1万円~1万4,999円まで→100円
:1万5千円~19,999円まで→200円
:2万円以上→300円

となっており、2019年度からは宿泊料7,000円から課税対象となることが発表されています。2017年度の宿泊税の見込み額は10.9億円としています。

京都市

宿泊税の税率
1人1泊の宿泊料に対して
:2万円未満→200円
:2万円~5万円未満→500円
:5万円以上→1,000円

という内容となり、国際文化観光都市としても名高い京都市の場合は、他の都市よりも高い課税となっているのが特徴で、2万円以下は少額であっても宿泊税が一律で200円かかってしまいます。

※ただし、修学旅行や学校行事に参加する者、または引率者は課税免除となります。

以上が現在すでに、宿泊税が実施されている地域の現状となりますが、金沢市、福岡市(県)と続いて北海道、熱海市でも導入される可能性は高く、今後はその他の地域でも宿泊税の導入が推進されていく事が予想されているのです。

宿泊税の海外状況

宿泊税とは、国内だけの現象なのでしょうか。海外での宿泊税の状況を調べてみたところ、以前から外国人や観光客の出入りの多かった海外主要都市では、宿泊税を課税するところが多いようです。

アメリカ

アメリカでは州や市によって宿泊税の有無や税率、課税対象が変わります。

「ホテルユニットフィー」や「TMD課税」と呼ばれるものが日本の宿泊税と同じ役割を果たしています。

※TMDとは観光マーケティング地区であることを意味しており、地区の観光プロモーション活動資金を捻出するために課税する仕組みになっています。

ロサンジェルス

【TMD課税】
宿泊料の1.5%
課税対象:ロサンゼルス市内の50室以上を有するホテルの宿泊者

使途:ロサンゼルス観光プロモーション活動に利用

サンディエゴ

【TMD課税】
①宿泊料の2%
②宿泊料の0.55%
課税対象
:①サンディエゴ市内の30部屋以上の宿泊施設
:②サンディエゴ市内の上記以外の宿泊施設

使途:サンディエゴ観光プロモーション活動に利用

ニューヨーク

【ホテルユニットフィー】
宿泊料が
10ドル以上20ドル未満→0.5ドル
20ドル以上30ドル未満→1ドル
30ドル以上40ドル未満→1.5ドル
40ドル以上→2ドル

課税対象:ニューヨーク市内のホテル宿泊者または仲介業者

使途:ニューヨークの観光開発プロモーションなどに活用

ハワイ

【宿泊税】
朝食代金等のサービスを除いた宿泊料の9.25%
課税対象:宿泊施設

使途:ハワイ観光機関を通じハワイ州の観光促進に活用

ローマ(イタリア)

【滞在税】
ホテル:星の数によって3ユーロから7ユーロ、星の数が多いホテルほど滞在税は高くなる
農家民泊:4ユーロ
民泊・シェアハウス・バカンスハウスなど:3.5ユーロ
キャンプなど野外施設:2ユーロ

課税対象:11歳以上のローマに宿泊する旅行者

使途:宿泊施設の維持、文化財及び景観の維持・管理再生を含めた観光業への財政支援

パリ(フランス)

【滞在税】
ホテルの星の数によって、
パレスホテル:4.4ユーロ
5つ星:3.3ユーロ
4つ星:2.48ユーロ
3つ星:1.65ユーロ
2つ星:0.99ユーロ
1つ星、その他ホテル:0.83ユーロ

課税対象:18歳以上、パリ20区内のホテルに滞在する旅行者

使途:観光プロモーションに活用

ベルリン(ドイツ)

【宿泊税】
朝食代金、その他サービス料を除いた宿泊料の5%

課税対象:ベルリンに宿泊する旅行者

使途:観光振興のため税金の一部が博物館や観光名所への支援に活用

というように、海外でも旅行者を対象にした宿泊税は課金されているようです。ヨーロッパはイタリア、フランス、ドイツだけでなくベルギー、スイス、スペインなど宿泊税のかかる都市が多くなります。

アジア圏ではマレーシア、インドネシア、カンボジア、フィリピンなどで宿泊税が実施されています。

宿泊税が与える影響

旅行者の多い都市では、海外でも宿泊税が課税されているようですが、国内でも徐々に拡大しつつある現在、今後どのような影響が考えられるでしょうか。

  • ホテルや旅館、そして民泊など旅館業の経営者側への影響
  • 旅行者など一般消費者への影響(国内外の旅行客)

以上2つの観点から考察していきます。

旅館業への影響

基本的に宿泊税は地域の観光事業を活性化することを目的としています。宿泊税を得ることで、各自治体は観光振興における財源予算を増幅できることになります。

増幅された財源によって、観光振興に必要とされる諸プロジェクトが円滑に進むことになれば、宿泊施設の需要はさらに向上していくことが予想されます。

宿泊施設の需要が高まれば、旅館業はこれまで以上の利益を期待することができるでしょう。旅行者の数が増えることは、さらに宿泊税の税収額も高くなっていくことにつながり、地域の活性化へと還元されていくことが期待できます。

従って、一見、新しい税制はマイナスのイメージを与えがちですが、むしろ経営者側にとってはプラスとなる要素が多いと言えるでしょう。

消費者側への影響

まず国内の旅行者に関しては、最初のうちは若干の抵抗感が見られるかもしれません。なぜなら2019年10月から消費税も10%へ引き上げになることで、消費者が負担する税額が大幅に増えてしまうイメージを与えてしまいます。

消費者の消費意欲が低下してしまう可能性もあります。消費意欲が低下してしまう根底には、不可解にただ税金を払わされている印象を持ってしまうからです。

なぜ、その財源が必要なのかを理解することで、新たな税制を納得した上で心地よい消費生活を送ることができます。

そのために、最も重要となるのは、国や自治体による明確な説明がされることです。

国内の人口が減少することによって、国や地方自治体の財源も低下していく。だから訪日外国人をターゲットとする観光振興によって得る財源が非常に貴重であることを、アピールする必要があります。

外国からの旅行者に関しては、すでに宿泊税を課税する海外の都市部も多いことから、今さら消費意欲を低減させる要素にはなりにくいと言えるでしょう。

宿泊税の使途と課題

Woman
宿泊税が地域の観光振興のために使われるのは、何となくわかるけど、具体的な使途は何なの?
Expert
では、各地域における具体的な宿泊税の使途を解説します。また、今後の課題をどう提起しているのかも合わせて解説しておきます。

東京都

まずはすでに宿泊税を導入している東京都のケースを見ていきましょう。

宿泊税の導入以前の平成13年に、当時の東京都はその他の国際都市に比べて大きく遅れていたことが問題とされていました。そこで平成14年から、国際都市東京としての観光産業を発展させていくために宿泊税の導入を始めます。

宿泊税は、東京の旅行者に多大な利便性を与えることに使われてきました。

これまでに実施されているものは、

  • Wi-Fiやデジタルサイネージなどの利用環境の整備
  • 観光案内所の設置・運営
  • 観光スポットを記載したウェルカムカード9言語対応

など、すでに実施されているものです。

今後の課題として、

東京都の今後の課題は、上記の項目をさらに推進していくことと、

  • バリアフリー化の推進
  • 新たな観光資源の開発
  • 外国人旅行者受け入れにかかるサービス向上(言語対応など)
  • 観光プロモーション

など・・・

大阪府

宿泊税を導入して1年になる大阪府の目的は、世界有数の国際都市として発展するために、都市の魅力を高めることにあるとしています。

主な使途と今後の課題は、

  • Wi-Fi整備計画の実施
  • 宿泊施設における多言語化やIT環境の整備
  • 各種問い合わせ、観光案内サービスの運営
  • 市町村の観光振興事業を支援
  • 多言語化メニュー作成、多言語検索サイト

など・・・

京都市

宿泊税を導入したばかりの京都市では、平成28年に策定した「はばたけ未来へ!京プラン」の実施計画の一環として、「京都市住みたい・訪れたいまちづくり」のために税収額を活用することを目的にしています。

主な使途と今後の課題は、

  • 文化財保護や歴史的景観の保全
  • 快適な歩行空間の創出
  • 観光や文化の担い手の育成
  • 観光案内標識の整備
  • 観光地トイレの拡充
  • 京町家の保存・継承

などとなっており、特に、文化財や歴史的価値の高い建造物の保護が京都独特の課題となっています。

宿泊税の充当額として最も高い予算が組まれているのが、京都ならではの文化振興・美しい景観の保全となっており、これらの活動は京都市だけに限らず、国全体が考えていく課題でもあると言えるでしょう。

Woman
京都の宿泊税が高額になってしまうのも、納得がいくような気がするよね。
Expert
そうですね。観光という枠を超え、世界遺産として守っていくものの1つと考えれば、旅行者が払う宿泊税が大きく役に立ちますよね。

金沢市

金沢市では、市内の歴史、伝統、文化などの魅力を高めるとともに、市民生活と調和した観光振興のために平成31年より宿泊税が課税されることが公表されています。

主な使途と今後の課題は、

  • 犀川・浅野川周辺などの景観整備
  • 金澤町家の保全制度の拡充
  • 伝統芸能の支援
  • 案内看板の英語表記
  • 交通ガイドの多言語化
  • 若者によるストリートパフォーマンスの支援
  • 無電柱化の加速

など・・・

北海道

北海道は、全国的な人口減少が見られる10年前から、人口現象局面に入っており、比較的他の地域よりも観光振興に力を入れていました。北海道の財政予算の総額は減少していく中でも、観光振興予算は急激に上昇しています。

そして、平成31年には宿泊税を導入することを現在検討中です。

主な使途と今後の課題は、

  • 宿泊施設、2次交通の促進
  • 多言語での情報提供
  • 無料wi-fi整備促進
  • 修学旅行の誘致促進
  • スポーツツーリズムの促進
  • バスの運転手不足への取り組み

など・・・

まとめ

今回はこれから全国的な規模で普及拡大が予想されている宿泊税について解説しました。

おそらく、宿泊税導入のニュースを見聞きしながら、「また税金が増えるのか」とうんざりしてしまう人もいるでしょう。できれば支払う税金は少ない方がいいと思うのは当然です。

2019年10月には消費税も10%に引き上げられてしまいます。そんな中、新しい税制は一歩間違うと、ただの不満やストレスの原因となってしまいかねません。

国の人口減少が進行することで、国の予算、地方自治体の予算も必然的に減少することを避けることはできません。これらの財源の欠如を補うためには、何らかの対策が必要なのはわかっていても、これ以上、消費者の税額負担が増え続けてしまうのも問題です。

確かに宿泊税は国内に住む日本国民にも課税される税制ではありますが、おそらく外国人の旅行客が納税者として大半を占めることになるでしょう。また、旅行者が対象だということは一概には言えませんが、比較的余裕のある人から税金を徴収するという意味でもあります。

宿泊税によって、多額の財源が確保していけるのであれば、私達一般消費者が負担する税額を今後抑えていくためにも賛同・推進していくべき税制だと言えるのかもしれません。

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