投資信託のポートフォリオ運用を分かりやすく解説!

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ポートフォリオとは、金融商品の組み合わせのことで、資金を預貯金や株式、債券、不動産などに資産配分することをいいます。元々の意味は紙ばさみや書類入れという意味で、欧米では紙ばさみに資産の明細書を保管していたことが言葉の由来となっています。

今回はポートフォリオ運用について詳しく解説していきます。

ポートフォリオ運用とは

ポートフォリオ運用を行う目的は、リスクを軽減し、より安定した運用成果をあげることです。ポートフォリオによって分散投資の効果があります。分散投資について詳しく解説します。

分散投資とは

分散投資は投資対象を多様化させることで、資産運用に伴う価格変動リスクを低減させてリターンを目指す手法です。全ての資産を一つの金融商品に集中させると、思惑と反対に行った場合に大きなマイナスをだしてしまいます。しかし、値動きが異なる複数の金融商品に分散投資していれば、リスクを分散しながら安定的な収益を期待できます。

分散投資の種類

分散投資には主に次の3つがあります。

  1. 地域の分散
  2. 商品の分散
  3. 時間の分散

 

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

1.地域の分散

地域の分散とは、投資対象を国内だけではなく、海外まで広げることです。海外においても、新興国と先進国、欧州とアジア、アメリカなど様々な地域に分散可能です。外国株式や外国債券に投資したり、外国の株や債券に運用する投資信託を利用したりすることで、地域の分散を実践することができます。以下の図をご覧ください。

出典:ウエルスナビ

2015年の世界の経済成長率は3.1%でした。日本国内だけだと0.5パーセントと低成長なので、大きな伸びは期待できません。しかし、例えば中国の6.9%、インドの7.6%など、新興国に投資をしていれば、大きなリターンが得られたことがわかります。もちろん、毎年決まった地域が成長するわけではありませんが、世界中に分散投資していれば、リスクを軽減されながらリターンを得るできる可能性が高くなることが分かります。

2.商品の分散

商品の分散とは、株式、債券、投資信託、預貯金など多くの金融商品に幅広く分散投資を行うことです。 それぞれのリスクとリターンの関係は以下のようになっています。

出典:投資信託協会

預貯金が一番ローリスク・ローリターン、株式が一番ハイリスク・ハイリターンです。リスクとは、損失のことだけではなく、リターン(収益)のブレのことをいいます。以下をご覧ください。

出典:投資信託協会

有価証券Aと有価証券Bを比べた場合、有価証券Bの方が価格の変動幅が大きいことがわかります。このように、価格の変動幅が大きいことを「リスクが高い」といいます。

金融商品ごとのリスクとリターンを見極め、どの程度の配分で株式や債券を組め入れるかということを決めていくことを「アセットアロケーション」といいます。

アセットアロケーションのアセットとは「資産」、アロケーションとは「配分」という意味です。資産は大きく分けて、現預金・国内株式・国内債券・外国株式・外国債券・不動産・コモディティ(金や原油などの商品)があります。

アセットアロケーションは、投資家の資産状況やリスク許容度、運用目的によって人それぞれで、適切な金融商品の組み合わせは異なります。そして、アセットアロケーションを決めた上で、どのような銘柄を買っていくのかということを決めていくことを「ポートフォリオ運用」といいます。

ポートフォリオ運用を行っているのは、主に機関投資家です。それでは、我々の年金を運用している世界最大規模の運用機関であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオを見てみましょう 。

GPIFでは年金を運用するため、「長期的な観点から安全かつ効率的な運用」を目指しています。そのような観点から、以下のような複数の資産を組み合わせて運用を行っています。

出典:GPIF

GPIF では、株式と債券の比率を50%にしています。さらに、国内株式と外国株式、国内債券と外国債券というように、国内外の金融商品を組み合わせています。

ポートフォリオ運用の基本

 

ポートフォリオ運用を行う上で、次の四つの指標を用います。

 

1.投資収益率

2.期待収益率

3.分散と標準偏差

4.相関係数

 

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

1.投資収益率

投資収益率とは、投資した金額に対する利子と配当収入(インカムゲイン)と、値上がり益(キャピタルゲイン)の合計の割合のことです。これをトータルリターンともいいます。

ただし、預貯金のように元本保証で利回りが確定されている金融商品の場合は、将来の投資収益率が確定されるものの、株式投資のような値動きがあったり、配当金に変化があったりする金融商品では、投資収益率を確定することができません。そのため、リスク商品に関しては、次の期待収益率によって確率的に計算します。

2.期待収益率

期待収益率は、投資家がある資産について、将来にわたる運用から獲得することが期待できる平均的なリターン(収益)のことをいいます。投資する資金に対して、どれくらいの収益が見込める額を示したもので、株や債券など金融商品によってそれぞれ異なります。それぞれ収益率と生起確率を掛けて加重平均します。

具体例を見てみましょう。例えば、好景気と現状維持、不景気の確率を40%、30%、30%とします。ある株式が好景気では30%の値上がり、現状維持では5%の値上がり、不景気では10%の値下がりするとします。まとめると、以下のようになります。

景気 生起確率 収益率
好景気 40% 30%
現状維持 30% 5%
不景気 30% -10%

その時の期待収益率の計算は、以下のようになります。

期待収益率 =30% × 0.4 + 5% × 0.3 ― 10%×0.3 = 10.5%

つまり、この例の期待収益率は10.5%になります。

ポートフォリオにおける期待収益率とは、実際に将来起こる確率(生起確率)を予想し、各組入資産の期待収益率を、組合組み入れ比率で加重平均したものです。ポートフォリオの収益性を測るひとつの目安となっています。具体例を見てみましょう。

組入れ比率 期待収益率
資産A 40% 15%
資産B 25% 10%
資産C 35% 5%

資産A、資産B、資産Cの3種類の金融商品を上のような組み入れ比率で組み合わせます。期待収益率もそれぞれ上記のように決まっています。その時のポートフォリオの期待収益率の計算は、以下のようになります。

ポートフォリオの期待収益率

=40% × 0.15(資産A) + 25% × 0.1(資産B) + 35% × 0.05(資産C)= 10.25%

このように、期待収益率を求めることによって、ポートフォリオが、将来どの程度のリターンを望めるのかということを測ることができます。ただ、ポートフォリオの期待収益率は、各資産の期待収益率を組み入れ比率で加重平均したものなので、ポートフォリオの組み入れ銘柄数を増やしても、ポートフォリオの期待収益率が組み入れ銘柄の期待収益率の加重平均を上回ることがないのに注意しましょう。

3.分散と標準偏差

それでは、ポートフォリオを組むときは、期待収益率が高い商品を入れればいいのでしょうか。しかし、リターンが高いということは、リスクも高いということになります。それぞれの金融商品のリターン(期待収益率)だけを求めるのではなく、どの程度のリスクを取っているのかを計算する必要があります。そのために用いられるのが「分散」「標準偏差」です。

つまり、分散と標準偏差とは、期待収益率のばらつきの大きさ(リスク)を測る尺度として用いられます。分散や標準偏差の値が大きいとリスクが大きいということになります。投資の世界ではこのリスクの大きさを「ボラティリティ」といいます。

分散は、期待収益率のばらつきの大きさを表すもので以下の式で表されます。

分散= 各生起確率×(予想収益率 ― 期待収益率)の2乗

標準偏差は分散の平方根(ルート)です。

例えば、あるポートフォリオの生起確率(起こる確率)と予想収益率が以下のような場合、ポートフォリオの①期待収益率と②分散③標準偏差をそれぞれ求めてみましょう。

生起確率 予想収益率
好況 60% 10%
不況 40% -5%

 

①期待収益率

予想収益率×生起確率の加重平均

10% × 0.6+(-5%)×0.4=4%

②分散

各生起確率×(予想収益率 ― 期待収益率)の2乗

0.6×(10%-4%)の2乗+0.4×(-5%-4%)の2乗=54%

③標準偏差

54%のルートなので7.35%

となります。

4.相関係数

相関係数とは、ポートフォリオに組み入れた各資産の価格の関連性の強弱を表す指標です。相関係数の数値は「1から「-1」の間をとります。1に近づくほど強い正の相関があるといい、同じような動きをするということです。

―1に近づくほど強い負の相関があるといい、逆の値動きをするということです。ですから、相関係数が-1に近づくほどポートフォリオのリスクは制限され、分散投資の効果は高くなります。相関係数の関係は、以下のようになっています。

0.7≦ r ≦1.0 強い正の相関
0.4≦ r ≦0.7 正の相関
0.2≦ r ≦0.4 弱い正の相関
―0.2≦ r ≦0.2 ほとんど相関がない
―0.4≦ r ≦―0.2 弱い負の相関
―0.7≦ r ≦―0.4 負の相関
―1≦ r ≦―0.7 強い負の相関

つまり、以下のことを表しています。

  • 相関係数が1の場合

2つの資産の値動きは、完全に正の相関。つまり、二つとも全く同じ値動きをしている。

  • 相関係数がー1の場合

2つの資産の値動きは、完全に負の相関。つまり、二つとも全く逆の値動きをしている。

  •  相関係数が0の場合

2つの資産の値動きは、まったく関連性がない。つまり、二つともバラバラの値動きをしている。

 

相関係数の求め方は複雑ですが、エクセルやグーグルスプレッドを使うと、簡単に計算することができます。例えば、ソフトバンク(証券コード:9984)とソニー(証券コード:6758)の値動きが以下のようになっていたとします。

ソフトバンク ソニー
2018年11月14日 9,362 5,853
2018年11月13日 8,941 5,893
2018年11月12日 8,777 6,056
2018年11月9日 8,785 6,248
2018年11月8日 8,805 6,259
2018年11月7日 8,557 6,105
2018年11月6日 8,575 6,090
2018年11月5日 8,747 6,008
2018年11月2日 8,699 6,190
2018年11月1日 8,310 6,287
2018年10月31日 9,048 6,140
2018年10月30日 8,539 5,862
2018年10月29日 8,506 5,802
2018年10月26日 8,628 5,834
2018年10月25日 8,800 5,869
2018年10月24日 9,205 6,208
2018年10月23日 9,157 6,184
2018年10月22日 9,433 6,309
2018年10月19日 9,530 6,341
2018年10月18日 9,648 6,418

20日間の相関係数を調べるにはCORREL関数を利用します。以下の図をご覧ください、

 

このように、スプレッドシートでCORREL関数を用いて計算します。計算結果は「0.437」となりました。0.437は「正の相関」があると判断されます。同じような値動きをしますが、関連性はそこまで高くないということです。

ポートフォリオ運用のリスク

ポートフォリオ全体のリスクを軽減させるためには、相関係数の低い資産、つまり-1に近い資産を組み合わせることが必要ですが、リスクをゼロにするということは不可能です。

それは、ポートフォリオのリスクが、組み合わせた資産のリスクだけでなく、市場全体が持っているリスクがあるからです。ポートフォリオのリスクには次の二つがあります。

1.システマティックリスク

2.アンシステマティックリスク

それぞれ詳しく解説します。

システマティックリスク

システマティックリスクは、市場リスクともいわれ、分散投資では消去できないリスクのことです。例えば、株式でしたら、どんなに銘柄数を増やして分散投資していても、日経平均株価が大暴落する時には、全体のパフォーマンスは悪化してしまいます。

つまり、システマティックリスク は市場のリスクそのもので、分散投資をしていても日経平均株価など市場全体が値下がりすれば、値下がりするリスクはあるということです。

アンシステマティックリスク

アンシステマティックリスクは、非市場リスクともいわれ、個別の金融資産のリスクのことです。アンシステマティックリスクは、分散投資することによって消去可能なリスクになります。

このように、ポートフォリオのリスクには二つあるということを覚えておいてください。「市場全体が下がった場合に分散投資をしていても意味がない」と思われるかもしれませんが、複数の銘柄に分散投資をしておく事によって、一つの銘柄に大幅な下方修正や不祥事などが起きた場合でも、リスクを軽減させることができます。投資において分散投資というのは必要なことなのです。

ポートフォリオ運用のパフォーマンス評価

ポートフォリオのパフォーマンス評価とは、投資信託などの評価を行う際に、どの程度のリスクを取ってどれだけのリターン(収益)をあげたかということを評価する方法です。主に次の2つがあります。

  • 超過収益率
  • シャープレシオ

それぞれ、見ていきましょう。

超過収益率

超過収益率とは、ポートフォリオのリターンが、安全資産利子率(預金金利などの無リスク資産の利子率)をどの程度上回ったかを示す指標です。例えば、株式投資信託の投資収益率が3%でも預金の利子率が5%であれば、超過収益率は、「3%ー5%= ―2%」となり、投資収益率の3%というのは評価できないことになります。

安全資産利子率というのは、リスクを取らずに確実にもらえるリターンです。リスクを取って運用しているのに、安全資産利子率に負けるということは、運用する意味がないということになってしまいます。

シャープレシオ

シャープレシオは、超過収益率を標準偏差で割って求めます。異なる種類のポートフォリオのパフォーマンス評価に向いています。例えば、株式のみで運用する投資信託と、株式や債券、不動産などに分散投資する投資信託など、異なる種類の投資信託を評価するのに適しています。収益率が同じポートフォリオでも、標準偏差が小さい(リスクが小さい方)が、低いリスクで同じ収益をあげていることになり、運用効率が良いことになるからです。

シャープレシオの計算式は以下のようになります。

(ポートフォリオの収益率 ― 安全資産利子率) ÷ 標準偏差

まとめ

今回は、ポートフォリオ運用の目的や投資収益率、期待収益率、分散、標準偏差などでどのようにポートフォリオを構築していくのか、ポートフォリオのパフォーマンス評価をどのように行うのかを見てきました。

ポートフォリオ運用は、基本的に投資機関投資家の手法ですので、個人投資家はここまで厳密に計算する必要はないかもしれません。しかし、機関投資家が運用においてどのような手法でポートフォリオを組んでいるのかを知ることは、個人投資家の投資にも役立ちます。 今回の記事が、投資の幅を広げる機会になれば幸いです。

 

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